ファンタジー短編集

山都碧

001.砂の城⭐︎

 酒場「VAR」

 そのまんまの名前の酒場に入り、俺は酒場の親父にさぐりを入れた。

 高額賞金がかかっている仕事は、こういったところに情報が集まるからだ。






「砂の城?」



「そう。

 この近辺のモンスターのボスって言ったらいいか。

 そいつが住んでいるのが通称『砂の城』だ。

 ボスを倒せば騎士団から賞金が大金貨10枚、

 あんたら賞金稼ぎにとっちゃ、そこそこいい値段だろ?」


 ご大層なこって。

 まぁこれだけの賞金がかかってるから当たり前か。


「ちなみにボスってのは何だ?

 このあたりなら

、ヴァンパイアかワーウルフか」





「女王アリだ」






「ボス小っちゃ!!!!!

 というか弱っっ!!」


 そんなもんに大金貨10枚ってありえねぇだろ!?

 思わずカウンターに突っ伏した俺は悪くない。


「何を言う!!

 女王アリとはこのあたりのアリをべる王だぞ!?

 すなわちシロアリもしかり!!」


「は…………?」


 だからなんだ。

 結局はアリだろ。

 ってか、おっさんテンションあがりすぎ。

 拳を振り上げて力説すんな。


「シロアリとは害虫!

 家の柱を食い荒らす恐ろしい虫だ!!

 つまり我々は住処を奪われてしまうということになる!!!」


「ソウデスカ――」


「全くもってご主人のおっしゃるとおり!!」


 ……


 …………



 ………………はい?



 突然横から話に割り込み親父に同意してきた男がいた為、思わず目が点になった。


「シロアリだけではない、数多あまたのアリたちは女王アリの指示の元、一斉に我ら人間に牙を剥くのだ」






 馬鹿という言葉をそのまま体現した奴が現れて、阿呆なことをしゃべっている。

 頭にはなぜか真紅の薔薇を刺し(トゲも切り口も頭に刺さっている)、

 身に着けている鎧は見たところ純金製(多分かなり重いと思う)

 腕にはなぜかハートマークの刺青があり(しかも結構な数がある)

 はいているのは短パンだ(すね毛濃いぞ)



 突如現れた男を放置しつつ、親父が憐れむような目を俺に向けながら、カウンターの奥へと回ったのが見えた。

 置いていくな。ずるいぞ。










 ……うん、最近俺仕事ばっかで疲れてるしな。

 幻覚だ幻覚。

 しばらく仕事はやめて休んだほうがいいな。

 さてそろそろ部屋に戻るか。






「そこの勇気ある若者よ!」




 いや、多分(嫌だけど)お前と俺は同年代。

 それに何で『勇気ある』って付くんだ。

 いやもうなんでもいいからこっち指差すな。




「同じ志を持つ方だとお見受けした」




 え、何で。

 ってか、どんな志。




「ともに卑怯なアリたちを倒しに、いざゆかん!!」


「えっ嫌」




 はっはっは、お茶目だな、俺ってば。

 思わず即答しちゃったよ。

 円満な人間関係を作るコツは、少し考えるそぶりを見せることだってのに。




「ご主人、お聞きのとおりだ!

 我ら2人、悪逆非道を繰り返す女王アリに天罰を下して参ろうぞ!!」


「そうか、やってくれるか兄ちゃんたち!!」




 え?





 あれ?





 えーと。











 …………俺は何故、砂の城へと続く道を進んでいるんだろう。

 隣には蝶を追いかけて崖から落ちかけた馬鹿がいるし。

 浮遊魔術使えるからといって迂闊にも程がないか?


「にしても、何でそこまでアリを敵視してるんだ?」


「そう……あれは私が10歳のときだ……」


「いや別に本格的に語れとは言ってない」


 おもむろに辺りを暗闇にし、自分にピンスポットを当てだした。

 ボス戦の前に無駄な魔力を使うなこの阿呆。


「私は庶民の祭りを楽しんでいた。

 たこ焼きやりんご飴、焼きそばなど、興味は尽きなかった」


「どこの祭りだ」


 そんなもん、東方の島国でしか聞いたことがねぇぞ。

 お前どこ出身だ。


「私はこの領地の領都出身だ。異国の祭りを月替わりで開催していたことがあるのだ。

 特に私の興味を引いたのは綿菓子の屋台だった。

 雲のようにふわふわで、甘く、まさに至福だったといえよう」


「綿菓子で至福を味わえるなんてお手軽だな」


「そして父にねだった」


「何を」


「綿菓子のベッドがほしいと!!」


「へー」


 まぁ10歳のガキが考えることだし……


「そして私は望みどおり綿菓子のベッドを手に入れたのだ!!」


「親も阿呆か――――!!」


「何を言う!

 父は素晴らしい方だ!

 国王陛下の覚えもめでたく、領民からも慕われ、家族関係も良好!」


 ……それって。

 変人って意味で覚えられてて、

 あまりにも馬鹿馬鹿しい一家だから生暖かい目で見られてて、

 家族は同類なだけなんじゃ。


「……話がずれた。

 んで、綿菓子のベッドがどうしたよ」


「おお、そうだったな」


 だからわざわざ呪文を唱えなおしてまでピンスポット当てるな。


「念願の『綿菓子☆ベッド』を手に入れた私は、心躍らせながら眠りについた。

 そんな私をあざ笑うかのように、悪夢は訪れたのだ」


「悪夢、ねぇ……」


「悪夢は黒い物体となって忍び寄ってきたのだ」


「……オチ読めた」


 ぼそっとつぶやいてみるも、自分の世界に浸りきっているコイツには全く聞こえていなかったらしい。


「何かが体中を這いずり回る恐ろしい感覚。

 顔にも這い上がってきたソレに、私は口をあけて叫ぶことも出来なかった。

 そして、翌朝私を起こしに来た母が見たものは!!」


「アリまみれのお前だったと」


「…………君は。

 話のオチを奪うなどという非常に失礼な行為をするなと教えられなかったのか?」


 知るか。

 それくらいで恨めしげにこっちを見るな。


「そんなことよりも。

 ひとまず取り分を決めておくぞ」


「取り分?」


「賞金をどう分けるかだ。

 5:5でいいか?」


「ああ、気にしなくていい。

 9:1でいいだろう」


 お?

 見た目とは違って太っ腹だな、こいつ。


「もちろん私が9だ」


「…………ウインド・バインド」


 風魔法で馬鹿を拘束してその辺に転がし、先を進むことにした。

 馬鹿に構う暇があったらさっさと倒して賞金もらって次の街に行った方がいいだろう。









 砂の城があると言われた場所に着いたと同時に、あっさり風の拘束を解いた馬鹿が追いついた。


「俺さぁ……ボスだから、普通のアリじゃなくて巨大化した女王アリなのかなーとか期待したんだよ。

 ほら、魔導の影響とかあるしな」


「ふむ」


「でも現実なんてこんなものなんだよな」






 ちまっ






「小っちぇえ……

 限りなく小っちぇえ…………

 普通のアリだ…………」


「いい加減認めたらどうだ!

 ただのアリではない、女王アリだ。

 きちんと王の証の宝冠もかぶっている」


「だからアリだろうが!!

 むしろそんな小っちぇえ宝冠ならマニアに売り飛ばしてぇよ!!」


「ふむ、確かに。

 好事家が喜びそうな見事な細工だな。

 使用されている材料も、黄金とルビー、エメラルド、ダイヤモンドか。

 小さくてもかなり質のいい品だな」


「あんだけ小っさくて、これだけ離れてて、なんでそんなことまで分かる!!」


「私の視力は0.1だ」


「見えてねぇだろ、それ!!」









 馬鹿に逐一突っ込んで体力気力を削られたが、ともかく退治しないことにはどうしようもないと作戦会議をすることになった。

 いるか?作戦会議。

 アリだぞ?


「砂の城は確かに波にさらわれてすぐに崩れるが、

 逆に言うと、何度でもどんな形にでも作り変えられるということだ」


「何度でもあっさり壊せるってことだな」


「……人がせっかく真面目に話をしてるというのに!!」


「まぁそんなことはどうでもいい。

 あれを攻略する方法は考えたのか?」


「……………………ふっ」


「サンダー・ボール」


 ばぢばぢばぢばぢっっっ


「んにょわぁぁぁぁぁぁ!!」


「いいか、俺はお前に付き合ってやってるだけだぞ?

 従ってお前がすべて考えて行動する必要があるんだ。

 俺は自分が危なくなったら逃げるが、一切口は出さないからな。

 分かったらとっとと攻略法を考えろ。

 返事!!」

「ひゃい……」




「よし、こうなったら!」


「こうなったら?」


「ウォーター・フォール」


 ばしゃあっっ


「……おい。

 何のつもりだお前。」


「いや。

 砂の城は水を流せば崩れるだろう?」


「仮にもラスボスの城がそんな――」


「おお」


「崩れるんかい!!」


 砂の城はデロデロに崩れていき、ついでに兵隊アリどころか女王アリすら流されてるし!

 なんでコイツを倒せなかったんだよ、ここらの騎士団と賞金稼ぎは!

 おっとまずい。


「君、何をしているんだい?」


「あのなあ。討伐証明部位持っていかねえと賞金もらえないとか常識だろ?この女王アリの部位がどこか分からんが、宝冠だけでも持っていきゃ納得するだろ」


「そうなのか、初耳だ」


「お前今までどうやって賞金稼ぎやってたんだ?」


「ふはははは!

 何を隠そう!

 今回が初仕事だ!」


「ああそーかよ」


「今までは父が領地の騎士団をつけてくれていたからな!」


「ん?ちょっと待て。

「お前、たしかここが故郷とか言ってなかったか?」


「その通りだ!ここは我が父が治める領地!

 将来は私が領主となる!」


 不安しかない領主だな……早めにこの領地から脱出した方が良さそうだ。




 討伐証明として女王アリの王冠を騎士団に見せて賞金をもらった俺は、この街にきた時最初に入った酒場VARに腹ごしらえにきた。


あの馬鹿は騎士団に置いてきた。

ウインドバインドで拘束したまま放り出したのだが、領主の息子に対する対応じゃないと処罰されるかと思いきや何故か手間が省けたとめちゃくちゃ感謝された。


「らっしゃい!

 あれ?兄ちゃん、確か……」


「おう、親父の情報でえらく疲れたぜ。ノドが」


「やっぱりあの時の映えある生け贄くんか!!

 いやースマンかったなー坊ちゃんのお守りとツッコミは疲れただろう?」


「……ちょっと待て。

イケニエ?坊ちゃんのお守りとツッコミ?」


いやな予感がするが、親父の話を聞いておくべきだろう。


「おう、坊ちゃんが騎士団抜きで魔物討伐したいとか寝言言い出したから、めちゃくちゃ弱いボスを仕立て上げたんだけど、道中何があるか分からんからソロじゃなく賞金稼ぎ連れて行けって話になったんだよ。

ただ、このあたりの賞金稼ぎは皆坊ちゃんのことは知ってるからなー全力で逃げられちまったもんで、旅の賞金稼ぎでイキが良いのを待ってたって訳だ!」


「んだそりゃ!!」

「アリ討伐にしちゃ破格の賞金だっただろ?詫び料込みだよありゃ」


お守りと詫び料で大金貨10枚だと?

アイツと接した俺には分かる。

破格の安さだ!

大金貨1000枚でも足りん!

女王アリの王冠オークションにかけて売っぱらうか……


ふるふるしながら金策を考えていた俺に、親父がそっと料理と酒を差し出した。


「あー兄ちゃん、とりあえずこれ食え。俺の奢りだ」


親父から差し出された料理はピリッとしたアクセントがきいていて美味かった。


「これ美味いな。なんの香辛料だ?」


「……ドラシビ草の種だよ」


ドラゴンもしびれさせると有名なしびれ薬の原料じゃねえか!!


テーブルを叩いて立ちあがろうとしたときにはもう遅かった。

ゆっくりと沈んでいく意識の中で、2人の男の声が聞こえた。


「やあやあ、こんなところにいたのかね、親友ともよ!」

「悪いなあ、兄ちゃん。

今後も坊ちゃんのお守りは頼んだぜ。

逃がしゃしねえよ?領民の総意だ。

この前商人が他領で坊ちゃんの話をしやがったせいで他の賞金稼ぎ《イケニエ》が領地に来なくなってんだ」


ふざ……け……る……な……



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