第8話 遠征の前に研修しましょうよ

 

 二月、『俺tueeee!!王子』が国境の砦に遠征するという。


 当初、お怒りモードだった国王陛下が、すぐにでも行かせようとした所、キリアン卿が待ったをかけたんだって。


 冬の砦って、騎士や兵士でも大変なのに、そこに素人を抱え込めないって断ったそうよ。

 だから春になったら、て話になった訳だねぇ。


 王女様からその話を聞いてて、そういえばと、おじいちゃんに遠征って急に行って大丈夫なのかと質問したのよ。


 国境の森や山に出る魔獣に似せたゴーレムと、対戦するような訓練をしてから遠征に参加させるんだって。

 普段使っている鍛錬場で。ん?


「国境の魔の森や山中を模した幻影魔法で、雰囲気作りをした方がより実地に近い訓練が出来るのではないですか?」


 魔法があるんだから、活用しない手はないよねー。

 単純にそう思って言っただけなんだけど、何故だかびっくりされたわ。

 本物に寄せた環境でのシミュレーション、大事だと思うんだけどなぁ。


「そこでの訓練成果を得点で評価して、及第点を取らなければ遠征に参加させないなど、してみては……いかが……です、か」


 最後尻すぼみになったのは、おじいちゃんが怖い顔で顔を近づけて来たからよ。

 余計なこと言ったかな。ごめんて。


「ベティ!」


「はいっ」


「いいな、それ」


「え?」


 良かったのか。


「そうかそうか、幻影魔法か。盲点だったなぁ。

 以前、実物に似せた環境を土属性で錬成して作る案が出た事はあったんだが、維持が大変だって事で頓挫したんだ。

 それに訓練成果でレベル分けするのもいいな。うん、次の会議で提案してみよう」


 うんうんと一人納得して、おじいちゃんは出かけて行った。

 即行動派。

 多分、根回ししに行ったんだと思う。


 その後、騎士団のお客さんを連れて来て話し合ったりしていたようで、たまにわたしも話を聞かれたりしたわ。


 で、年が明けて少しして――


「ベティ、出来たぞ!」


 何が?


 首を傾げたわたしに、以前提案した研修施設がもう完成したと、自慢げに話すおじいちゃん。

 え、早っ!

 地球でなら、立案から着工まで何か月もかかるだろうに、もう出来たの!?


 騎士団が持つ敷地に、魔法士数人がかりで箱モノから中の設備まで一日で出来たそうだ。

 魔法ってスゲー!


 後は幻影魔法とか魔獣型ゴーレムを、常設する為の魔導具開発をしていて、それが完成するまでは魔法士に都度協力を仰ぐそうだ。

 それももう時期出来るという。


「これで第一王子殿下と、共に参加する予定の第一騎士団の連中を放り込んでシゴキ上げれば、現地でもなんとかなるだろう」


 放り込んでって言いましたね。


 どうもね、第一騎士団の人達は実戦経験がない人がほとんどらしいの。

 上位貴族家出身者が多く、王族警護に王宮警備が仕事だから、王都から出る事もないって。


 一応ね、騎士は一度、砦勤務を命じられるのに、なんだかんだと理由を付けて逃れている騎士が多いのが第一騎士団。

 それが問題にもなっていて、今回の事はいい機会になっているみたい。


 砦ばっかり歴任して、『砦ラウンダー』って二つ名付けられている人もいるっていうのにね。


 そうそう、その『砦ラウンダー』ことキリアン卿は、第一王子の遠征に付き添う事になったんだって。

 東西南北にある国境門の砦、全て勤務経験のある稀有な存在だから。

 最後の勤務地では、実質砦のトップ、大隊長だったそうよ。


 現在は第二騎士団副団長に就任。

 本当は砦勤務に戻ろうと辞令を蹴ろうとしたけれど、いい加減中央に戻って責任ある立場になれって、現第二騎士団長に言われたそうだ。

 だから大体王都にいるの。


 ……もっと母に会いに来て良いんだぞ?



 そんな研修施設で訓練の監督におじいちゃんが出張っていた時に、王宮から教育係が押しかけて来たって訳。


 おばあちゃんから連絡を受けて、おじいちゃんは速攻苦情申し立てに行った。近かったからすぐ。

 また陛下直なのかな。いくら何でもそんなすぐにホイホイ会えないだろうと思うんだけど。


 とりあえず、今月はもうやって来ないって言われたわ。

 いい加減諦めてくれないかなー。



 ――『魔力量八十? もう一つ上がったのか、早いな』



 あれ? なんか思い出したぞ。

 わたしを見ながら王子が言っていた言葉。考えてみればおかしなセリフだよねぇ。

 まるでゲームのようなステータス画面を見ているかのように、魔力量の事を言ってたわ。


 あらあらあらぁ?


「お母様、一つお尋ねしてよろしいですか?

 王族の固有魔法の情報は、公開されているのでしょうか」


 今日も母はべったりわたしに張り付いてますよ。

 もう侯爵夫人ではなくなったから、その仕事がないんです。わたしの看病がお仕事です、みたいな状態。


 あのクズから解放され、昔の想い人に再会し、憂いを含む色気が増したような気がするわぁ。

 肌艶もいいしねぇ。

『恋は最高の美容液』とか日本で聞いた事があったような?


「いいえ、非公開ね。貴族の間でも公表している人は半々かしら。元々固有魔法がない場合もあるし……なくても全く問題はないのよ、ベティ」


 あ、気を遣われてしまったわ。

 わたしは固有魔法を持ってないのよね。魔法適正は全属性あるのに。


「気にしていませんわ、お母様。

 でも、そうですか、非公開……」


「何が気になっているの?」


「うーん、もしかしたら、なんですけれど、第一王子殿下は『鑑定』が出来るんじゃないかと思うんです」


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