第6話 フェリシア王女来襲

 

 わたしの最善の行動は、『気を失う』事だったみたい。


 無駄に頑張っちゃったって訳ねよぇ。

 意地になって対抗して、自分の体が痛めつけられた。良いとこないじゃない。


 意識のあったリリアーナ嬢はまだ治療中なのに、すぐに気を失った三人の婚約者候補たちは、二・三日ですぐに復活したというから、余計にそう思う。


 皆がバタバタ倒れていって、『俺tueee!!王子』の人を人とも思わない態度に、せめてわたしだけでも対抗してやる! と無駄な気概を持ったのがいけなかったのねぇ。あーあ。


「医務室には王妃殿下が状況を確認にいらしたの。ただ……」


 おばあちゃんから当日の事を聞いている今、何だか顔が険しくなっていくんだけどぉ?


「『ユーリウスの悪戯が過ぎてしまったようで、ごめんなさいね』という言いざまに腹が立ってしまったの! でも相手は王妃殿下、頭を下げるしかありませんでしたわ」


 顔を顰めるおばあちゃん。母も眉を顰めたよ。

 あの王子の、しれっとお茶を飲む姿を思い出す。


「“悪戯”ですか。確かにご本人はそんな感じでしたわ」


 だけど悪戯で済むかってんだよ!


 小さく溜息を吐いた母が口を開いた。


「王妃殿下は三人のお子様の中で、第一王子殿下を殊の外可愛がられておいでだと伺った事がございますわ。それで甘い顔をされるのでしょう」


 ええ!? やだなぁ。正式に婚約者になって嫁いだら、姑イビリが待っていそう。


 とは言え、わたしは補欠。いくらおじいちゃんが当主に返り咲いたとしても選ばれるとは思えないわねぇ。

 しかも治療が長引いているし、完全復活は見込めない~とかで、静かにフェードアウト出来ないものかと思ってたんだけど……ねぇ。




 ***




 後日、フェリシア王女殿下が、わたしのお見舞いに侯爵邸を訪れた。


 なんで?

 王家を代表してという事かしらぁ。まあ、元凶第一王子が来たら寝込んだ振りするけども。


 淡い色の長い金髪をサラサラと靡かせて、カツカツとヒール音も高らかに目の前にやって来られた王女様。

 お召し物はラベンダー色のワンピースに、真っ白なファーのボレロを羽織って、清楚系お嬢様って感じなのに、目力がそれを裏切ってるわぁ。

 まあ、大変な美少女ではあるけれど。


 わたしは緊張して待ち続けた結果、現在とっても眠い。

 ヤバイ。王女様と対面して船漕いだら不敬だよねぇぇぇ。


 本来だったら王族をお迎えするのは、一番良い応接室ならぬ貴賓室。

 だけど今のわたしは、残念ながらまだろくに歩けない。

 お見舞いなんだからそのままでいいよ、というあちらの寛容さにホッとして、キリアン卿が来た時と同じミノムシ状態になっているの。


「初めまして。わたくしはフェリシア・イリス・ゼクト=ガルディアス。ユーリウスの姉ですわ」


 淑女の微笑みを浮かべ、少しだけわたしの顔を覗き込むように自己紹介された王女様。

 彼女の背後には侍女らしき人と、女性の護衛騎士が二人立っている。


 わぁ、女性騎士、カッコいい!


「ご訪問頂き至極光栄に存じます、王女殿下。ベアトリス・ラナ・ヴァルモアにございます」


 ぺこりと頭を下げるのが精一杯。

 本当なら、お見舞いに来てくれたことの感謝云々とか、我が身の誉れ云々とか述べる所でしょうがねぇ。

 その辺はおばあちゃんと母にお任せ!


 ひとしきりの挨拶を終えた後、王女様がおもむろに切り出した。


「この度は愚弟が仕出かした事、本当に申し訳なく思っています。

 本来ならば、当人に謝罪させるのが筋でしょうけれど、返って事態を悪化させてしまう恐れがあったものだから、私が代わりに参りましたの」


 あれ、何かはっきりと言いますね。もっとオブラートに包んだ物言いをされると思ったのに。

 ああ、わたしが子供だからかな。


「今回の事がどれだけ危険なのか、騎士団の方から伺って、私も初めて知りましたの。

 ユーリウスも理解はしているようです。だけれど……本当にベアトリスさんには申し訳ないのだけれど、が反省しているようには見えませんの。

 強い威圧を掛けたのだって、興味本位だったようですし」


 弟の事、“アレ”って言いました?

 何だかずいぶん苦々し気にぶっちゃけて来たよ!?


「お母様はシオン贔屓だから、何かあっても対処が甘いし、が対人関係で問題を起こしても、お母様ではなく私に相談が来るのですわ!

 かといって、私が忠告したところで聞きもしない。いえ、聞いてはいるけれど理解に苦しむ、と言った顔をしますの!

 人を人とも思わない、他人の痛みが分からない。

 今回という今回は、お父様も重い腰を上げられ、シオンに罰を与えました」


 なんか結構明け透けに言ってくれちゃって、いいのかな?

 良くないよねー。侍女の方が「殿下、お言葉が……」とか注意を促しているわ。


「いいえ! ベアトリスさんはの被害者。聞く権利があってよ!」


 いやぁ、多分侍女さんが注意したい所は、身内の内情を暴露するような発言に対してだと思うよ?

 だけど、王女様は何だかずいぶん鬱憤が溜まってたみたいだわねぇ。


「シオンは現在謹慎中。完璧に魔力制御が出来るまで、謹慎を解きません!

 更に、春には国境の砦で、魔獣討伐の演習に参加する事になりましたの!

 せいぜい強い魔獣と闘ってくればよろしいわ!」


 あははは、臣下の家でこんなに感情的に暴露して、大丈夫ですかね、この王女様。

 嫌いじゃないけどね。

 眠気が飛んで行ったわぁ。


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