第二章 俺tueeee!王子と婚約者候補たち編
第1話 初顔合わせで初っ端からやられた!
今年も残すところ後一月。
寒さが心身に染みる今日この頃、本日は王宮に召喚されております。
いえ、正式には第一王子主催のお茶会に招待されました。
なんでかって?
王子の婚約者候補の顔見せなんだってー。
遠慮しまーす! と言えたらどんなにいいか。
場違い感半端ないって!
何でこんな子供がいるのかって目で見られてるじゃん。
一番年上のご令嬢が、顔半分を隠していた扇子を閉じて
「幼い方だからご存じないのかもしれませんが、お茶会の入り時間は、身分と年齢による序列によって違いますのよ?
貴女が一番最後なのですもの、尊いご身分なのでしょうね」
おうふ。初っ端から軽いジャブが来たわー。
候補者全員の顔、名前、どこの領地出身で特産品は何かなどなど、基本情報は調べてきたわよ。
他の人もそうよね?
つまりこのご令嬢は、同じ侯爵家でも筆頭の自分よりも、年下でもあるわたしが先に入場するべきって注意してるんだろう。
これでも開始二時間前に王宮入りしてたのになぁ。
待機部屋に案内された後結構長い時間放置されて、おかしいなぁって、おばあちゃんと侍女と護衛騎士で首を捻っていたのよね。
その部屋の接待係は当てにならないと判断して、別の人に確認してこようと侍女が部屋を出たら、扉の前の衛兵に止められるし、ますますおかしいと魔導通信機でおじいちゃんに連絡を入れたわよ。
持つべきものは頼れるおじいちゃん!
すぐに調べて別の案内係を至急派遣してくれたのよ。全員で部屋を出ると、初めに居た衛兵じゃない人に代わっていて、今度は邪魔されなかったわ。
急いでお茶会会場へと向かったのが二十分前で、無駄に距離があるから到着したのが十分を切った頃。ギリギリセーフ!
汗ばむ体を魔法で涼風を吹かせ、クールダウンしながらご令嬢たちに向かったら冷たい視線に迎えられたって訳。
やられたわー。
婚約者になりたくはないけれど、家の失点から始まったし、これ以上の失態は避けるべきだと注意してたのになぁ。
わたしの失敗は、わたし個人だけじゃなく、一族に関わってくるんだもの。
王宮内に味方が少ないと、今後もまずい事が起こりそう。
「大変失礼いたしました。慣れない王宮に戸惑っておりましたの。
私はベアトリス・ラナ・ヴァルモアと申します。若輩者ではございますが、どうぞ良しなにお願い申し上げます、お姉さま方」
普段より深く膝を曲げ、淑女の礼を取ったわよ。
ほんと、頼むよー。わたしは敵じゃないよー。補欠だよー。て言えればいいのに。
そこに登場した真打。
執事が第一王子が来訪する旨を宣言すると、全員立ち上がりドアに向けて淑女の礼をする。
「面を上げよ。今日はよく来てくれた。
わたしがガルディアス王国第一王子、ユーリウス・シオン・ガルディアスだ」
優し気な微笑みを浮かべたユーリウス第一王子が、今日もキラキラした麗しいお姿で席に着く。
この間と同一人物なの? 威圧する気配もなく、とても人当たりが良い感じ。
ああ、叔父ワンコが言ってたのはこういう事か。
「改めて、挨拶をしてから席に着いて欲しい。まずはアリーチェ嬢、君から」
手の平で
「
名前、伸ばす発音が多いな。
彼女の言う通り、ネーブル家は侯爵家筆頭なのよ。だからこそ、さっきの嫌味になる訳だ。
ヴァルモア家はクソ親父せいで勢力を弱めているの。これから盛り返して行かないとね!
さて、アリーチェさんは年齢は十七歳、貴族学院高等科の二年生を修了。
濃い目の金髪を巻き髪にして上半分を結い上げているハーフアップスタイル。
長い睫毛に縁どられた深い青色の瞳がぱっちりしているわ。
再度王子に淑女の礼をしてから椅子に着席する。その振る舞いも優雅ね。
「次は私。リリアーナ・マリー・ベネシアン、コルドウェル侯爵家の長女ですわ。貴族学院高等科一年、いえ、来年二年生の十六歳ですの。どうぞ良しなに」
ベネシアン家は陞爵の折り、領地替えがあったそう。前のコルドウェル家は没落し、爵位と領地を返上したんだと。これ、三十年前の戦争の煽りを受けたせいだって。
農耕で成果を上げていたベネシアン伯爵が、荒れ果てた広大な穀倉地帯のコルドウェル領を何とかして欲しいと、スカウトされたって話らしいのよ。
穀倉地帯が戦争で荒れ果てたなんて、あっちゃいけない事よねぇ。生命線だもの。
戦争自体は辛勝して和平条約を結んだっていうけど、国土が荒れてちゃあ復興に莫大な費用と労力がかかるわよね!
でも向こうの国は更に深手を負ったそうだ。
全く! 戦争反対!!
さて、リリアーナさんは理知的美人って感じ。
少し黄緑色寄りの金髪に、翠色の瞳。顔の周りを編み込みして、左側に一まとめに流すスタイル。大人っぽいわ。
真面目な表情で王子に淑女の礼をしてから着席した。
「私は、グリュクスヨルト伯爵家が一女、レイチェル・ミナ・グリュクスヨルトですわ。殿下と同じ貴族学院初等科の三年生で、来年高等科一年生です。良しなにお願い申し上げます」
来年の話をするのは、今年の学院は修了しているから。
一年の最後、冬の季節の十月と、年始の一月は長期休暇期間。
またこの期間は、冬の社交シーズンでもあるのよ。
レイチェルさんは清楚系美少女。まっすぐなプラチナブロンドに、水色の瞳を柔らかく細めて微笑むさまは可憐って感じねぇ。
「カタリーナ・ルル・ベルボンヌです! 伯爵家の長女です! 来年貴族学院の初等科三年生です。よろしくお願い致しますわ」
ベルボンヌ伯爵家の末っ子で、四人の候補の中で最年少の十四歳。
クルクルに巻いた金髪が弾んでいる。瞳は碧眼のたれ目。
可愛い妹系って感じで、それを狙っているようなあざとさが見え隠れしているわ。
しかも、わたしと同じツインテール。まさかこの髪型が被るとは!
わたしはオマケらしく、およびじゃない感を出すために、今回敢えて子供っぽく仕上げて欲しいと専属メイドにお願いしたのよ。
それが被るなんてねぇ。はあ。だから睨んできたのかしら。
女子同士、同じ髪型とか同じ服だと敵愾心バチバチになるよねー。
カタリーナさんのあざとさは、多分他の候補たちにはバレバレ。
第一王子も気づいているかどうかは分かんない。表情が変わらないんだもの。
妹系狙いの彼女は、座り方も少し無邪気さを醸し出しているわ。
さて、最後になったわたしも改めてご挨拶。
「改めまして。ヴァルモア侯爵家が一女、ベアトリス・ラナ・ヴァルモアにございます。まだ十歳という頼りなき身の程でございますので、皆さま、どうかよろしくお願い申し上げます」
深々~と頭を下げといたわ。
今回のご令嬢方の衣装、リリアーナさん以外青色系統のワンピースドレス。
思いっきり青いのはアリーチェさん。レイチェルさんは水色で、カタリーナさんは緑寄りの青。リリアーナさんは明るい翠色を基調にしている。
という事は、自分の瞳の色に合わせているんでしょうね。
わたし? 子供らしくピンクでーす!
ブルーグレーなんて落ち着いた色は着ないよ?
リボンにレースにフリルがたくさんで、実に子供服らしいワンピース。ストラップ付の靴までピンクなんだよ。
やるな、専属メイド・アリサ。
候補者は十七歳、十六歳、十五歳、十四歳で、侯爵家が二人、伯爵家が二人とバランスを取ったようね。
王族に当たる公爵家を除外されたのは、数代近親婚が続いた為、そろそろ血の濁りが次代に出る頃合いだろうと避けられたせい。
魔力量的なつり合いとか相性とかがあって、代々親族である公爵家から王妃や王配を迎えていた。
近隣の同盟七か国と更に近くの友好国の王族との縁組も、最近は各国しない方針。
昔は縁組されていたけれど、人質になったり、情報漏洩に繋がったり、戦争の抑止力にもなってない事から、王族の結婚は自国の者と――ていう風潮なんだってさ。
あと派閥ねー。
アリーチェさんとこのネーブル侯爵家は王家派。
リリアーナさんとこのベネシアン家は王国派。
レイチェルさんとこのグリュクスヨルト伯爵家は貴族派。
カタリーナさんとこのベルボンヌ伯爵家は中立派。
これもバランスとってるわー。
ウチは王家派よりの中立派なんだって。
武力を持つ家がどこかの派閥に組すると、心穏やかではいられないよねー、王家が。
だからか、武門の家は中立派が多いらしいよ。
因みに王家派と王国派は何が違うのかと言うと、王家派はもちろん王家を盛り立てようっていう派閥で、王国派は王家ではなく国を盛り立てようっていう派閥。
だから王家が今のゼクト家じゃなくてもいいし、極端な話、君主制じゃなくても国が富むなら共和国体制でもいいよって事らしい。
例の異世界転生者が地下活動してるかもって噂が事実なら、この王国派が関係してくるんじゃないかって、おじいちゃんが言ってたわ。
とにかく今は情報収集している段階だから、何とも言えないけどね。
はぁ、面倒くさーい!
王家の嫁になんか絶対なりたくなーい!
わたしは隅っこで大人しくしているんで、皆さん頑張ってね。
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