たそがれ探偵事務所。〜蜃気楼の街〜

猫野 尻尾

第1話:金髪ギャル。

横浜の都心から少し離れた港の倉庫街の一角に、小さな探偵事務所がある。

その探偵事務所の名を「たそがれ探偵事務所」と言った。


俺はしがない一匹狼の探偵。

一匹狼なんてもう死語だな・・・。

・・・狼って呼べるほど、カッコよくもないし・・・。


名前は「神楽 陽介しがらき ようすけ

歳は30才ジャスト・・・。


探偵って言ったって素行調査や浮気調査、離婚問題、近所の雑貨屋のばあちゃんち

の行方不明になった猫を探したり・・・スズメバチの巣を撤去したり

ちょこっとした家の修理したり、そんな何でも屋みたいな仕事ばかりしている。

探偵事務所ってのは名ばかり。


その中でも一番稼ぎがいいのは、配管の据え付け工事のバイト。

でも、あれは気をつけないと腰をやられる。


だから、およそ警察が出張ってくるような事件なんてものとは縁がない。


いつ事務所を畳んでも不思議じゃない。

夕日が沈んでいくように、もしかしたら明日は日が昇らないかもしれない

ってんで、いつのまにか、ダチや知り合いから、「たそがれ探偵事務所」

なんて呼ばれてるようになった。


本当の事務所の名前は俺の「神楽って」苗字から、しがらき探偵事務所

だったんだが・・・

いつのまにか、たそがれてしまったみたいだ。

今じゃ、たそがれのほうが知れ渡ってしまったから名刺も「たそがれ探偵事務所」

になってる。


俺はずっとひとりでやってきてたんだが、ひょんなことから相棒「パートナー」

ができることになったんだ。

相棒って言っても、男じゃなく、金髪ギャル・・・しかも未成年ときたもんだ。

そいつと出会ったことが俺の運の尽き。


普通なら30過ぎの男と、ギャルなんて繋がる接点がない。

なんでまた、そんな若いギャルが俺の相棒になったかってことなんだが、

それはある夜中に俺がコンビニに立ち寄った時のことだった。


買い物を済ませて、外でタバコを吸おうと灰皿が設置してあるところまで

移動したんだ。


ああ・・・みんな健康のためにタバコはやめたほうがいいって、言うが

それで病気になったら、それはそれで自業自得だって思ってる。

納得づくで吸ってんだから、余計なお世話だっつ〜の。

逆に吸わねえほうが、イライラしてストレス溜まるわ。

楽しみたいことも我慢して生きてくなんて俺の性に合わねえ。


でさ、灰皿があるところでタバコを吸おうと思ったんだよ。

そしたら、その灰皿の横に、ひとりのギャルが、へこ座ってたんだな。


そんでもって、そのギャル・・・俺のほうを見たんだよ・・・訴えるような、

まなざしでさ・・・なんだよ、違うだろって・・・だってそう見えたんだ。

寂しげな目をしてさ、俺にすがるような目で・・・。


髪はショートで金髪。

おお〜けっこう可愛いじゃんって思ったんだけど・・・可愛いだけじゃ俺の

対象外・・・どうせどう見ても未成年。

だから、その時はその金髪ギャルを無視した。


だが、その後もコンビニでそのギャルとまた会うことになったんだな。

いつものように、灰皿がある横で、金髪ギャルがへこ座っていた。

とくに喋るわけでもなく俺はタバコを吸ったら金髪ギャルを無視して

そのまま事務所に帰った。


俺なんかが、若いギャルに声なんかかけた日にゃ〜変態オヤジって

思われるのがオチだろ?

オチだろって思ったが、なぜか金髪ギャルのことが妙に気になった。


つづく。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る