第2話
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ぼー。と、わたしはテレビを見ている。
テレビの中で、カッコウは無害なオナガの巣に卵を産みつけた。
けれどもカッコウは知らなかった。オナガは長い時間を経て、自分の卵とカッコウの卵を識別できるようになっていた。
オナガだけじゃない、ホオジロも自分の卵とカッコウの卵を識別し、ヒナが
未だに托卵のターゲットにされているヨシキリもモズも、いずれ気づいて他の鳥たちと同様に、托卵されても気づくように進化してくのだろう。
画面が変わる。
親鳥が巣から飛び立ち、取り残されるカッコウのヒナ。
ヒナが孵った時点でも親鳥が托卵に気づいて、育児放棄するケースがあるのだとナレーターが説明する。
抵抗手段を覚えた親鳥たちとカッコウの攻防。
やがてカッコウは、新しいターゲット先を探すようになるのだという。
永遠につづくイタチごっこ。
どちらが先でどちらが後か、どちらが卵でどちらが親か、決着はもしかしたらつかないのかもしれないとナレーターは締めくくった。
「…………」
息子を寝かしつけて、居間で一息ついていたわたしはテレビを見ながら、これからのことをぼんやりと考えた。
「あなた、
母がそう言って、湯呑をわたしの前に置いた。
「そうかな?」
「そうよ。前のあなたなら、ニワトリとかサギなんてシャレのきいた言いまわしなんてしないで、無言でじっと突っ立ったまま、わたしが来るまでなにしないに決まっていたから」
そう言いながら、母はテレビ画面を遮るようにわたしの前に座る。
「……そうね。昼間、ゆーくん、うまれちゃ、ダメだった? って言われて、頭が真っ白になって、心臓の辺りがぎゅっとなったわ。それになによりも、自分が感じる痛みよりも、この子のために自分になにが出来るのかって、そっちの気持ちの方が強かったの」
そうだ。わたしは変わった。本来のわたしは自我も感情も薄くて、知力は人並だったものの五感の感覚が極端に鈍かった。目の前の現実に、いつも透明な殻が覆いかぶさっているように思えて、学校も受験も就職も見合いも結婚も、そして妊娠も、なにもかもが遠い出来事のように感じられた。
すべてが変わったのが、
ぐったりと横たわるわたしのすぐ横で、母を呼んで泣き叫ぶ赤子の声を聞き、わたしを覆っていた殻が、卵のようにあっさりと壊れた。
世界に色がついて
音が明瞭になり
病院の匂いを嗅ぎ
産後の痛みが下腹部を突き上げて
口の中に苦い味が広がり
赤ん坊の柔らかな頬に触れた瞬間、わたしの頭の中で白い光が弾けて心臓が大きく脈をうつ。
わたしは、この子のお母さんとして、この子によって生まれてきたのだ。
そう確信したら、体中からお湯のように暖かい力があふれてきて、なんでもできるような気がした。
――この子の幸せのためなら、なんでもできると。
「本当にあなたは母親になったのね。あなたが
わたしたちは、はじめからオシドリ夫婦になれなかった。わたしの夫だった
「どうしたのって、あなたから話を聞いたら
浮気相手の女性は、カッコウのように美しい声で汚い言葉を吐いた。
――私の子供を返して!
そう言って、わたしを脅したけど「最初から全部知っているわ。だけど、それがどうしたの? 血のつながりなんて些細な問題よ」と言い返した。
最初から知っている上で、なおも揺るがない息子への愛に、彼女は恐怖を覚えたのだろう。浮気相手は、バックから刃物を取り出して暴れだしたのだ。
「お父さんと確認したら
おそらく、結婚すれば放蕩息子が落ち着くと思ったのだろう。
義両親は
病院で倒れて意識が混濁していたわたしに、横で好き勝手にコウノトリになったつもりで計画を語る二人は、わたしが二人の会話を聞いているとは思っていない。
わたしのそこで知ったのだ、わたしの本当の子供が死産だったことも、わたしがもう子供を産めないことも。
「まったく時間が経つのは早いわよね。あんなによちよちしていた
感慨深げな母の言葉を聞きながら、わたしは、オナガのようになにも知らない父と母を騙し続ける覚悟を固める。
彼の誤算は、わたしの性格が変わって托卵した子供に愛情を注いだこと、そして、自分の罪悪感に耐え切れなくなってしまったことだ。
まるでハシビロコウのように、なにを考えているか分からない妻が、赤ん坊が生まれたことで母性が芽生えて
「けど、平和すぎて不安よね。あの浮気相手の女……まだ捕まっていないんでしょう? なんだか忘れた頃に現れそうで怖いわ。もしかしたら、
おぉ、怖いと、母はアヒルのように身を震わせてそわそわしだすと、わたしは視線を落として湯呑の水面をのぞき込む。
そういえば、彼女の名前を忘れてしまった。
冷たいかもしれないが、わたしにとってはその程度の存在だ。
「お母さん、それは考えすぎよ。罪を犯した浮気相手を匿っているって、それこそドラマみたいじゃない。彼にそんな度胸あるかしら?」
最低限の連絡は交わしているが、義両親は猛禽類のように辛抱強く、執念深く、わたしが態度を軟化させるのを待っている。
「向こうの家が
「……その前に、ちゃんと離婚できればいいんだけどね」
わたしの足場は
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