第34話 ◯新しい生活

藤波の提案通り、橘は研究と試験対策に専念しつつ、藤波の執筆活動の手助けをすることにした。

執筆活動のバイトは大してやることがなく、実質藤波からの資金援助のようなものだった。



「改めて君に仕事を頼もうと思うと、段取りをつけるのが面倒で面倒で。まあ、僕の虚無な金が人類の未来に繋がってるならいいんじゃないかな。」


と言う。



アンプデモアはイベントの日だけヘルプに入り、バーの仕事は辞めることができた。

体調不良のバーテンダーは、角田からストーカーにあっていて、しばらく離れたかったらしい。

そのターゲットが俺に移ったことで復帰できたとのことだ。


夜は大抵、那央のアパートに帰り、ほとんど同棲状態になった。


♢♢♢


那央がベッドの中で橘に擦り寄ってくる。


橘は那央の頭をよしよしする。



「……最近、頭をなでるだけで、何もしないのはなんでですか?」


「だって、あんまり性欲が強かったら、那央のお尻が大変でしょ?」


「そうですけど……。なんでこんなに一緒にいるのに、1週間も我慢できるんですか……?」


「那央が、もじもじしてるのを見てるのが、楽しいからだよ。」


「………………。」


「性欲が強いことをバカにされたの、忘れてないからね。」


「別にバカにはしてないですよ!」



那央が困ったような怒ったような顔をしている。


本当は毎日ムラムラしているが、那央から誘ってほしかった。


那央は意を決して橘に覆い被った。

キスをしてくる。

那央のキスは猫のようで可愛い。

橘も那央の背中に腕を回してキスを受ける。



「して欲しかったら、おねだりして。」


「……先輩とエッチがしたいです。」


「何その、面接の受け応えみたいな。」


思わず笑った。



「だって!おねだりって言うから!」


那央は顔を真っ赤にしている。


「もうちょっと可愛く……なんかないの?」


那央は一瞬何か考えた様子だったが、悲しそうな目をしてこちらに背を向けて横になってしまった。



「ごめん。さっきの那央も、可愛かったよ。」


那央のお腹をくすぐる。


「ちょっと!やめてっ。」


那央が笑いながら身をよじる。

その勢いで那央の上に乗り、キスをする。

那央の感じるポイントはわかっている。



那央が大人しくなって、二人の静かでまったりとした時間が流れた。


「愛してるよ。」


「……そういえば許されると思ってませんか?」


「……那央なら……チョロいから、いけるかな、とは思ってる。」


「わかってます、わかってますよ。どうせ、俺も、先輩が好きでしょうがないんです。」


二人は笑いあった。


この溢れる愛は、父と母の純愛遺伝子二人分なのだからしょうがない。


愛しい人。


この広大な宇宙に生まれた、小さな恋心に橘は感謝した。




- 第二章 橘の献身〈完〉-

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