第23話 バイトの中身
その日、藤波は珍しく閉店間際に来た。
坂上は常連相手に忙しそうだ。
定位置につき、橘を呼ぶ。
いつもの、と言われ、橘はウイスキーを出す。
「坂上君があちらに夢中なうちに、秘密の打ち合わせをしよう。」
藤波は袖から封筒を取り出して橘に渡した。
「中身を見てほしい。」
紙が入っている。
契約書だ。
内容は、さっき口頭で言われたことの他に、
契約期間は一ヶ月
三食食事を用意すること
守秘義務を守ること
があった。
「一カ月は目安でね。場合によっては、相談で短くも長くもなる。まあ、君にとっては一カ月の金額が一番いいんじゃないかな。」
言われた金額よりさらに多くなっていた。
藤波はどうしてこんなにお金があるのだろう。
正直、藤波がどんな本を書いているかさえ知らなかった。
「わかりました。追い出されないようにがんばります。」
「約束を守ってくれるなら、大丈夫だよ。次に、食事だけど、僕は手料理を食べるのが好きなんだ。できれば出来合いのものは避けて欲しい。今までは、家政婦が作ってくれたけど、やはり仕事でつくる料理の美味しさと手料理は違うからね。」
気持ちはわからなくない。
那央の手料理はプロには敵わないが、いつも美味しい。
形が崩れてても、多少味の濃い薄いがあっても、那央が作ってくれたのだからそれでいいのだ。
「守秘義務はね、別にこの同棲バイトのことは言っても構わないよ。秘密というのは、内面や過去についてだ。医者や、カウンセラーのように考えてほしい。もちろん、僕も橘君から取材したことは秘密にするし、小説に生かされるときはある程度相談するよ。」
「わかりました。」
那央に嘘や隠し事をしなくて済むのは助かる。
「早速だけど、明日から来れる?」
「夜の7:30くらいなら……。」
「じゃあ、それで。荷物は何回か分けて持ってくればいい。そこに書いてあるマンションに来てくれ。」
住所を見ると一等地だ。
藤波は一体何者なのだろう。
聞いてみようとしたとき、坂上が来る気配がしたので、契約書を隠した。
藤波は坂上と親しく話始めた。
自分とはまるで先生と生徒だが、坂上とはからからと笑っている。
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