第16話 25日の朝

サンタからのプレゼントは25日の朝に届く。

カーテンの隙間から差し込む光で、那央は目を覚ました。



隣には、橘が眠っている。

一夜だけの恋人関係は叶った。

サンタの魔法は本当だったのだ。



那央は橘の体に顔を擦り寄せた。

お酒のにおいと汗のにおいが混じっている。


ずっと、こうしていたい。


その唇で甘い言葉をささやいてほしい。

その瞳で自分だけに微笑んでほしい。

その手でもっと撫でてほしい。

どこにも行かないでほしい。

ずっとずっと愛してほしい。



でも、きっと、目を覚ましたら、魔法は解けてしまうんだろう。


酔った勢いで。

気の迷いで。


一夜の過ちだったということになるんじゃなかろうか。


そう思ったら、悲しくなってきた。

じわっと涙が出て来た。



いつの間に起きたのか、橘の手が那央の頭をなでた。


「おはよう」


「おはよう……ございます……」


橘は那央の額にキスをした。


昨日、あんなにみだれた自分を思い出して、また恥ずかしくなる。



「ちゃんと返事を聞かなかった……ような気もするんだけど……。俺たち、付き合うってことでいいんだよね?」


那央は息をのんだ。

一夜だけじゃないんだろうか。


「はい……。よろしくお願いします……」


「良かった、夢じゃなくて。」


橘の声は明るい。

橘は、那央の唇にキスをした。

王子様のキスだ。


「昨日の那央……すごく可愛かったよ」


そう言って橘は那央を抱きしめた。



「いや……もう、恥ずかしすぎて……」


橘の顔をまともに見れない。


「俺……昨日みたいに欲情できたの、初めてなんだ」


「……どういうことですか?」


「なんか今までは、自分ってセックスが好きじゃないんだと思ってた。流れがそうなったから、仕方なくする……みたいな。でも、昨日は本当に……那央が可愛かったから、色々してあげたい気持ちになったんだよね」


そうなんだ。

自分が橘にとって、特別になれて嬉しい。



「多分、俺は、出会った頃から那央のことは好きだったんだ。だけど男同士だから、そう思わないようにしてたんだと思う……。だから今こうしていられて、俺は幸せだよ……」


橘はまたキスをした。

ゆっくりと唇をはみ、舌をからませる。

漏れ出る吐息も、触れ合う鼻も、全部愛おしい。


愛を、肌で感じている。


♢♢♢


午前中は結局ベッドの中で過ごし、遅いお昼を食べに外に出ることにした。

支度をしていると、度々橘がキスをしてくる。


「あの……このままのペースだと、出かけられないんですけど……」


「なんか……俺、キスが好きなんだね。初めて知った」


そう言って橘は無邪気に笑った。



休日ということもあり、街はクリスマスムードが最高潮だった。


「思い出の、先輩がぶたれたスポットですよ」


「このお店がある限り、思い出すんだな……」


橘は感慨深そうに言った。



「実は、ぶたれた理由はさ、那央のことなんだよ」


「俺ですか?」


「俺が最後まで、那央を好きだと認めないから、怒っちゃたんだよ。『那央がかわいそうだ』って」


「そ、そうなんですか……」


まさか、彼女に同情されていたとは。


「きっと、彼女の方が、俺の那央への気持ちに早くから気づいてたんだと思う。なのに、俺が彼女にしがみついて、自分に正直にならなかったから……。殴られて、ようやく那央にちゃんと告白しようと決心したんだ。まさか、間髪いれずに会うとは思ってなかったけど。でも、今しかないだろうと思って……居酒屋にいたときは、緊張してたんだよ」


飲むペースが早かったのは、失恋のせいじゃなかったのだ。

なんか、そう言われると嬉しいような、恥ずかしいような。



そんな会話をして歩いていると、あの宇宙人サンタを発見した。


「先輩! ちょっと、一瞬用があるんで、ここで待っててください!」


そう言って、宇宙人サンタの元に駆け寄った。



「おお! 兄ちゃん! 会いたかったで。実は、兄ちゃんに謝らなあかんことがあんねん」


「な、なんです?」


「魔法な、実は出来なかったんよ。なんかうまく行かなくて、サンタ族に問い合わせたらな『そんな都合の良いことできるわけないだろ!』って、めっちゃ怒られた」


じゃあ、昨日のことは、魔法は関係ないってことか……!


「お詫びに、この福引券あげるわ。あそこで引けるからな。ホンマ、堪忍や! じゃあワシはもう行かなあかん。想いが通じるとええな。がんばりや。」


「サンタさん……ありがとうございました!」


急いで遠ざかるサンタの背中に声をかけた。



橘の元に戻り、福引をしに行った。

ガランと回すと、金色の玉が出た。


「おめでとうございます! 一等の天空のリゾート、ペア宿泊券です!」


高らかにベルが鳴らされた。


「すごいよ那央! このホテル、山の上にあって、5組しか泊まれないんだ。ひと組ずつ独立した建物に宿泊するんだよ。朝日や雲海、夕焼けに星空……。雄大な景色を独り占めで堪能できるのがウリなんだよ」


すぐさま、橘と天空のリゾートで一緒に空を眺めているイメージがついた。


「すごい、クリスマスプレゼントだね……」


那央は、渡されたチケットをまじまじと見た。


好きな人といるだけで、こんなにも嬉しくて楽しい。


橘の手をにぎり、またレストラン探しに歩き始めた。

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