第12話 プレゼント配り
シフト表を見ると、橘はクリスマスイブとクリスマス当日に休みをとっていた。
やっぱり彼女と過ごすんだろう。
県外に就職する橘とは、あと3ヶ月でお別れだ。
クリスマスムードが恋人たちをはやしたてる一方で、自分の心には寂しさが日に日に募っていった。
プレゼント配りを手伝うことにして良かったと思う。
今の自分を保てるのは、案外あの宇宙人サンタのおかげだ。
アンプデモアのバイト後に、待ち合わせの公園にいくと、サンタがいた。
「お、逃げずに来たな」
サンタはベンチから立ち上がってこちらに歩いてきた。
「クリスマスまでまだ日にちがありますけど、今から配るんですね」
「プレゼントをもらうのは25日の朝やけど、配るのはもっと前からできるんよ」
一体どんな方法なんだろう。
「じゃあ、今から、スヤスヤと寝ている良い子たちの夢の中に入るよ」
「え、そんなことができるんですか?!」
「……できるから、やるんよ。」
地球人は変なこと言うなぁ、というような目でこちらを見てくる。
「夢の中にはな、その子が大切にしてるものがあるんや。それを見つけといてあげるんよ。そうしておくと、その夢の種が大人になってから芽吹くんや。それがプレゼントや」
「物じゃないんですね」
「昔は、物に夢が託されていたんや。可愛くなりたいから洋服とか、サッカー選手になりたいからボールとかね。でも、今は物はあくまで物、の時代やろ。だから直接心に働きかけるようにしたんよ」
「そ、それって、すごいことですよね…。じゃあここら辺に住んでる子どもたちは、みんな夢が叶うんですか?」
「それがまた、地球人のけったいなとこでな。まず、この魔法がかかる子ども自体が減ってるんや。あとは、種ができても気づかない子も多い。さらに種は見つけても知らんぷりしたり、自分で踏みつけながら大人になる子もいる。」
「……そんな……」
「夢はな、周りの大人が喜んでくれるものばかりやないからな。まあ、体験した方が早いやろ」
そう言って、サンタはむにゃむにゃと呪文のようなものを唱えた。
すると、まるで雷のような光の筋が落ち、一気に辺りが光に包まれた。
♢♢♢
自分の目の前に、保育園のときの自分がいた。
しきりに保育園の先生と楽しそうに話している。
そうだった。
俺は小さい頃、人見知りで大人しく、友達と馴染めない時期があった。
そのとき、保育園の先生がそばにいてくれたのだ。
俺はその先生が大好きだった。
似ている、橘に。
自分の心細さに寄り添ってくれた先生に。
そうか、だから俺は、先生になりたかったんだ……。
♢♢♢
意識が戻ると、那央は普通に公園に立っていた。
「終わったで。どうやった?」
「俺も……自分の夢を見つけました……」
「そうか。大人でこの魔法が効くってのは、なかなかないで。その夢、大事にな。別に、夢を叶えるのは職業だけやない。自分が大切にしているものを、もっとちゃんと大切にする。それだけでええんや」
自分の中で力が抜けていく。
俺はちゃんと、自分のやりたいことに向かってやってきていたんだ……!
「じっくり聞きたいのはやまやまだけど、ちょっと急いでるんや。ここは終わり。次行くから、自転車こいで」
俺はサンタと二人乗りをしながら、公園を次々に移動した。
途中、お巡りさんから2回職務質問を受けた。
どうやら俺は自転車こぎ係と職質対応がバイト内容らしい。
力いっぱいペダルをこぐ。
冷たい空気が風になって頬を打つ。
それでも思い切りこいで行きたかった。
「兄ちゃん! 元気あるやん!」
「自分の夢が……わかったので!」
「そぉかぁ! 良かったなー!」
ガタガタな道を猛スピードで走ったので、サンタの体が中に浮いて2回ほど落下した。
「労災やん!」
とサンタは叫んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます