カア助、なんで飛ばなかったん?

 顔馴染みのカラスがいたんだ。


 毎朝、道路の真ん中を、

 ぴょんぴょんと歩いていて、

 車が来ると、

 飛び跳ねて避けるんだ。

 その姿が可愛くて、

 勝手にカア助と名付けてたんだ。


 毎朝いるのが同じカラスかわからないし、

 顔の区別もつかないけど、

 朝そこにいるカラスは、

 カア助だと思うようにしてたんだ。


 その朝もカア助はいたよ。

 その時。一台の車がスピードを出して、

 走って来たんだ。


 カア助はまたぴょんぴょん跳ねて、

 避けようとしたんだ。

 でもスピード出した車は、

 もうカア助の目の前まで来てた。


 私は飛ぶと思ったよ。

 野生の鳥なんだよ。危険を感じたら、

 その翼を広げて、

 車より高く飛び立つものだよ。


 でもカア助は、

 そのまま地に足を付けたまま、

 轢かれてしまったんだよ。


 車はそのまま走り去り、

 カア助の遺骸だけが横たわってた。


 こんなにもあっけないんだ、

 命が終わるのって。


 毎朝見てたのに、

 いつもそこにいたのに、


 私は血まみれのカア助を抱えて、

 道路の端に置いた。

 もうこれ以上、

 車に轢かれて欲しくなかったんだよ。


 カア助、なんで飛ばなかったん?

 なんで?


 夕方に同じ場所を通ると、

 もうカア助の姿はなかったよ。


 カア助、なんで飛ばなかったん?

 カア助、寂しいよ。

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