第十話・読者モデルとお買い物

「買い物といえば、アウトレットでしょ!」

ばばーん!

小日向は、両手を広げてポーズを取る。

買い物に出掛け、目的の駅から降りたばかりだというのに、元気いっぱいなやつである。

夏休みに遊ぶ予定を立てていたが、期末テスト終わりのテンションのまま遊びたいということで、みんなで集まって買い物に来ていた。

「秋月さん、なんでレイクタウンなんだ?」

「風夏がずっと来たかったんだって」

まあ、都心部のアウトレットモールよりかは家族連れ多いし、若いファンに囲まれないから過ごしやすいのかもな。

そこまで考えているか不明だが。

「おい! マイクロブタのカフェがあるぞ!」

「え! マジやばそう! どんくらいの大きさなん?」

「これくらいじゃないか?」

白鷺は両手で表現する。

結構でかいな。

「私はユーチューブでよく見るぞ。小さくて可愛いが鳴き声は凄いんだぞ」

「ふゆは動物好きだよね。何か飼わないの?」

「日本家屋だと、動物を飼うのは難しいからな」

「あーね! フローリングないと無理っぽい」

「ペットショップもあるぞ。覗いてみよう!」

「おけおけ~」

好き勝手話している中、小日向はナンパされている。

大学生くらいの連中に話しかけられていた。

「小日向、まだ入口だぞ!?」

どんだけマッハでナンパされているんだよ。


割愛するが、無事回収してきた。

一人にさせるとまた誘われそうなので、目を離さないようにする。

「はあはあ。……あれ? こいつらと買い物行くのってかなり大変なのか?」

「ごめんね。いつもは地元で済ませているからここまで大変じゃないんだけど……みんな楽しそうにしているから」

秋月さんの大変さが身に染みる。

よくまあ、お世話出来るものだ。

「それならいいんだが……」

一瞬だけ目を離すと、小日向がエスカレーターで入口へと上がっていくのだった。

「ーー小日向ァッ!!」

「びくっ」

「逃げるな、戻って来い!」

顔が合ったら逃げ出しやがった。



歩き回りながら、本来の目的である水着コーナーを探す。

ポスターには一階に展示があるとのことなので、他の場所を色々と回る前に見に行くことにした。

一階の広場には数百数千着以上の水着が展示されており、他の学生達も夏休みに向けてショッピングに来ていた。

「さすレイ! やばいやつ!」

「水着の宝石箱やぁ!」

読モとギャルは、コーナー目掛けて駆け抜けていく。

この中から一着を決めるとか、終わる気がしない。

何人か俺に鞄を投げ付けて、勝手に見に行きやがった。

「東山くん、鞄持つよ?」

「いや、時間掛かりそうだから、そこのコインロッカーに入れてくるわ。邪魔になりそうなやつは預かるよ」

「そう? 分かったわ。貴重品だけあの子達に持たせなきゃね」

「秋月さん、まるであいつ等のお母さんみたいだな」

「あらあらまあまあ」

「マジやめて……」

「ごめんなさい」

ボケたつもりだろうが。

俺にはダメージがでかすぎる。



鞄を預けて戻ってくると、小日向が呼んでいる。

「男を呼び出すなよ」

「この水着とこの水着はどう?」

「いや、意図が分からんが……」

「こっちが普通のビキニで、こっちがバンドゥなんだけどさ」

詳しく説明されても分からんかった。

……見ても違いが分かるはずもない。

というか、女性が着る水着ってビキニとワンピース以外に種類あるのか?

微妙に違いがあるようにも見えるが、誤差の範囲内だ。

「どう違うんだ?」

「かなり違うよ。ビキニは基本のやつで、バンドゥは横長でチューブトップ型でしょ?」

小日向さんよ、分からんよ。

ファッションオタクなのは知っているが、野郎に女性水着の専門知識を語られても困る。

俺が女子に見えているのか?

「こっちがハイウェスト」

種類別に水着を見せてくる。

「これがビスチェ。これがタンキニ」

「いや、全部同じにしか見えないぞ」

上と下に分かれていたら、それはビキニじゃないのか?

難易度高過ぎる。

「全然違うよ~!」

「これだから、しろうとはダメっしょ」

「ほら、もっとよく見て!」

萌花まで野次を入れてくる。

何種類か水着を手に取り、念入りに説明を始める。

「ハイウェストは生地が多いからへその間が狭くて、お腹が見えにくいでしょ」

「ビスチェはビキニタイプにフリルが付いていてお腹が隠れるし」

「タンキニはタンクトップだからそもそもお腹が見えない」

三回とも、同じことを言っているだけだろ。

女子はお腹を隠すことに命かけているのか。

「れーなみたいなぽっちゃりお腹にはこれがオススメなん」

「私を引き合いに出さないで! 太ってないから!」

遠方からツッコミ飛んできたぞ。

「因みにバンドゥは?」

「トップがしっかりしてるから、ふうみたいな微乳が似合う。めちゃ胸が盛れる」

「は?」

「ま?」

「秒で喧嘩すんな」

間に入って宥める。

何で俺は水着の専門知識を叩き込まれているんだ。

普通のショッピングなら、女の子が可愛い水着を見せてきて、どっちが似合う?とか言うやつだろ。

あれ、言っていたな。

意味合い違うけど。

「萌花は何にするの?」

「とりま、ボーイレッグか、フレアビキニかな。布面積は多いのがいいっしょ」

新しい単語出してくるなよ。

萌花は、下がホットパンツみたいなタイプと、胸元にフリルが付いているビキニを持っていた。

「えー、萌花ならフリルマシマシの可愛いの似合うのに」

「やだ、好きんくない。中学生みたいだし」

お互いにお互いの水着を選び合いつつ、和気あいあいとしている。


小日向は静かに近付いてきた。

「ねえねえ、どっちかにしようと思うんだけど」

二つの水着を持ってきた。

横長のやつだし、バンドゥかな。

まだ違いは分からなかった。

「ん? こっちのがいいんじゃないか?」

落ち着いた緑色の方をオススメしておく。

ファッション的な色合いは、モスグリーンかな。

シックな色をしていて派手じゃないが、似合いそうだった。

「何でこっちなの?」

「何でって、こっちのが小日向に似合うと思ったから」

「うん! そっかぁ!」

正直、小日向ならば何を着ても着こなす気がした。

「じゃあ、一着目はこれにしよ!」

え、一着目?

水着って何着も買うものなのか?

夏休みに一回しか使わないんじゃ?

「何着も買うのか……?」

「色々着てみたいじゃん。可愛い水着はいっぱいあるのに、一着で我慢するのはダメだよ」

「ファッションに金を掛けるのも仕事みたいなものだし、否定はしないが」

着れないで悩むくらいなら、いっぱい買った方が健康によさそうだな。

それくらい楽しんでいる。

「これも可愛くない?」

「そうだな」

小日向が着れば、全部似合うと思う。

正直にそう言えば小日向なら喜んでくれるだろうか。

いや、時間を掛けて選びたいのかも知れないし、彼女の気が済むまで選ばせておこう。



それから一時間以上見比べながら、みんなは水着を選んだ。

女性の買い物が長いのは、妹含めて知っているので構わないが。

逆に、この人数で一時間くらいで終わったのが奇跡かな。

何故か知らないが、みんな俺に手荷物を渡してくる。

「次いくよ、次」

「は? まだ買うの?」

みんな買いまくっていたので両手が塞がっているし、なんなら半分以上はお前の荷物だぞ。

「違うよ。お仕事の関係で、契約してるブランドショップは寄らないといけないからね。広報活動も読者モデルの仕事だよ」

「なるほど。仕事なら仕方ないか」

スポーツ選手も、スポンサーの製品使ったりするしな。

同じように常日頃からファッションブランドには気を付けないといけないのか。

小日向がいつもしているマニキュアも、俺達が出会った時から同じメーカー使っている。そう考えると、プライベートでも彼女なりに頑張っている。

小日向は、努力を出さないからな。

ちゃんと言ってくれれば、手伝えることは手伝うのだが。

「東っちって、物分かりいいよね。普通なら、女子の買い物はめんでぃーとか思うでしょ」

「もえが文句言わずに付き合っていたら、俺が何か言えるわけがないだろう?」

「もえは風夏の親友だし?」

「俺も同じようなものだろ? 別に気遣いしなくていいよ。辛くなったら言うからさ」

「おけまる」

萌花なりに気遣いしてくれたようだ。

「みんな、はよはよ」

小日向がショップの場所を確認ながら俺達の前を進み、それに付き添うかたちで歩いていく。

「何であいつは元気なんだ?」

秋月さんに問いかける。

「朝が苦手な分、お昼過ぎると元気になるみたい」

「はしゃぎ回って子供みたいだな」

「私達だって子供だけどね」

確かに。

みんなで遊びながら好きなショッピングで、ワクワクしてしまうのが正しい反応なのかも知れないな。

誘われたからと、見たいお店も目的もないまま、うろうろしている俺の方がおかしいだけか。

「白鷺は見たい場所はないのか?」

「私か? ほら、あそこに行きたい!」

「主語がないと分からないぞ」

「ほら! アメリカのおもちゃとか売っている場所だ!」

あー、あれね。

女子が好きそうな雑貨屋?

「ヴィレヴァンじゃね? もえも行きたいわ」

「そう、それだ! 行ったことがないからな。この機会に行きたい!」

「ふゆは可愛いのマジ好きよね」

「可愛いのはいいぞ。心が落ち着く。とはいえ、見るだけだがな」

「え~、買えばいいじゃん。買ってなんぼじゃん」

「私の部屋には置く場所がないからな。可愛いものをタンスの肥やしにするわけにもいくまい」

白鷺の部屋は和室らしく、家具もテーブルも和風なためか、ぬいぐるみなどを飾るには適していないらしい。

「部屋に飾れないなら、鞄に付けるキーホルダーくらいなら買ってもいいんじゃないか?」

鞄を可愛くするのは陽キャの鉄則っぽいし。

キーホルダーが一つあれば、地味なスクール鞄も可愛く見える。

「その手があったか。だが、色々なものから一つを選ぶのも難しいな」

白鷺のことだし、キーホルダー選ぶのも時間をかけて悩みそうだな。

「東っちは行きたいところないの?」

「俺? 帰りに甘い物買っておきたいくらいだな」

「へー、甘いもの好きなんだな。いがーい」

「俺はあんまり食べないよ。家族に買ってこいってお金貰っているから買うだけで、食べるのはたまにかな」

「東っち、マザコン?」

それだけはやめてくれ。

俺の琴線に触れる禁句だ。

「いや、マザコンじゃないから」

「めっちゃキレるやん。ごめんね」

「普通に言っただけだが?」

「眼がキレてたよ。人殺せるやつ」

元々の目が怖いから、萌花が勘違いしているだけだと思いたい。

母親のことでイライラしていたのが表に出てしまったのか。

気を付けないとな。

「ただでさえ授業参観で悪目立ちしていたんだから、茶化すのはやめてくれよ」

あの一件から、地味にクラスで気まずくなっているのだ。

身内にまで弄られたら、気が休まらなくなる。思春期の男子に気を遣ってか、白鷺や秋月さんならまだしも、小日向ですら触れてこなかったしな。

「おーけ。嫌なら止めとくよ。でわ、ふうの仕事済ませて、ヴィレヴァン見て、甘いもの買って帰る感じだね!」

「俺達ばかりじゃなく、もえは行きたい場所ないのか?」

「んー? 何かあったらその時に言うよ。ショッピングは、胸キュン一目惚れ派だし!」

秋月さんは、やれやれと言った顔をしている。

この人数でショッピングするのも大変だったが、もえがまとめてくれるのでスムーズに進むし、反発せず意見を言い合うあたり根っからの仲良しなんだなと感じさせてくれる。


「ほらー! みんな遅れてるよ! はやくはやく」

クラスでは騒がしい陽キャグループだけど。

小日向が騒がしいだけなのかも。

足を上げて跳び跳ねるのはいいが、パンツ見えそうだし。

「ふうのパンツ見ようとか、東っちはえっちだな」

「いや、あいつのはまったく興味ないです」

「ま? ふうの完全敗北やん」

知らず知らずの間に敗北宣告される小日向であった。

萌花は小さく呟く。

「ならさ、もえのパンツ見せたげよっか?」

「ネタなのかガチなのか分からないから止めて」

白鷺はショップに気に取られていて知らんだろうが、秋月さんはちゃんと聞いているし。

「れーなのは?」

「萌花、私が聞いているの分かっていて弄ってるでしょ?」

「いたひいたひ」

怒り気味の秋月さんは、萌花の頬っぺたをめっちゃ引っ張っている。

うーん、二人は仲良しなのか?



小日向の仕事で三店舗ほど挨拶回りをして、写真撮影と色紙を書いていた。

ちゃんと名刺を渡して挨拶をする光景は、アホな小日向からは想像出来ないが、金を貰う仕事をしている以上、社会人としての一面はあるものだ。

契約の兼ね合いでの挨拶回りだが、買い物に来ているプライベート風景をSNSなどで情報発信すれば、お店にも小日向にもWin-Winな関係だといえる。

ショップに小日向のファンが居れば、快くサインに応じたり、軽く会話して洋服の着こなしなどもレクチャーする。

一店舗ごとに全てを徹底するのは地道過ぎるけど、彼女にしか出来ない努力だろう。

「おまたせ~。びゃー疲れた」

ペットボトルの水を手渡す。

「ありがとう。気が利くね」

「もういいのか?」

「うん。これで終わりだから、買い物に行くよ! どこ行くの? 決まった?」

「ヴィレヴァン」

「いいね! プチプラの新作買わなきゃ」

挨拶回りで結構買っていたのに、まだ買うのか。

「はい、持ってて」

「だから何故に俺に持たせる」

「荷物を持つのは、男の子の役目だよ」

断言しやがった。

しれっと買い物袋を渡してくる。

荷物持ちにしか見えないっていいたいのか?

まあ、女性四人に野郎一人だしな。

財布だけでもちゃんと自分で持っているのは評価してあげるべきか。

そうこうしながら歩いていくと、雑貨屋に到着する。

「うおぉぉぉ、ヴィレヴァンだあぁぁぁ」

「初めて来たぞ! これがヴィレヴァンか! ヴィレヴァン!」

「ヴィレヴァンやじやば最終形態!」

「全員ヴィレヴァンって言いたいだけでしょ?」

入口でテンションマックスになるのは、こいつらくらいだろう。

学生からしてみたら、ヴィレヴァンの魔力には勝てない。

「うおーガチャガチャではないか!」

白鷺がガチャガチャに引き寄せられていく。

秒で百円に両替しているし。

白鷺からすれば、秋葉原のようなテーマパークである。

「見てみろ、キモイーヌのガチャガチャがあるぞ。可愛いな!」

絶妙に可愛くない造形をしたフィギュア。

キモイーヌに喜ぶ白鷺だった。

ただのキモイーヌなんだがな。

女子からしたら、ブサ可愛いに近い感覚なのか。

ガチャガチャあるあるの、よく分からないシリーズである。

「いや、普通にキモイーヌだろ」

「よく見ろ、可愛いだろ!」

「キモイーヌだって」

「何でだ!?」

白鷺の好きな物の感性は否定しないけど、キモイーヌの事実は覆らないし、

『とっても可愛いくない』

キモイーヌシリーズって銘打っているからな。

売り出し用の宣伝文句に可愛くないってのも、おかしな話だけどさ。

「お? ま? キモイーヌじゃん」

萌花も興味を示している。

ラインナップを確認して、おもむろにガチャガチャを回し出す。

「ほい。ふゆの欲しいのこれっしょ?」

サラッと白鷺に手渡す。

「おお、すまない。よく一発で当てられたな」

「もえはガチャ運持っているんで!」

カッコいい!

見た目はチビッ子ギャルでやばそうなやつだが、中身がイケメン過ぎる。

「今、お金を渡すぞ」

「えーよえーよ」

「だが、そういう訳にはいかないだろう?」

「あーね。……ならさ。後でドクペ買って」

「ドクペとは何だ?」

「海外の飲み物。メチャ美味だよ?」

「おお、私も飲んでみたいな」

白鷺って炭酸飲料飲めたっけ?

そもそもドクペは人を選ぶ飲み物だけど。

あ、萌花がいたずらっ子な表情してたわ。



「ふふ、お家にお迎えしたら名前を付けないとな」

白鷺が萌花に貰ったキモイーヌを嬉しそうにポケットにしまう傍らで、うるさい奴がいないことに気付いた。

「そういえば、小日向と秋月さんは?」

「ふうとれーなは、化粧品見に行ってるよ」

あまり興味なさそうな俺達とは分かれて、行動しているらしい。

通路が狭い雑貨屋で、固まって歩くのも邪魔だしな。

「もえは化粧品見ないのか?」

「んー、この前買っちゃったから、ふゆと色々見る方がいいかなぁって。あ、邪魔なら行くけど?」

「そういうのはいいんで」

「ちぇ、つまんなーい」

知り合いで遊ぶのはやめてくれよ。

キャラクターコーナーに進み、お目当ての物を探しに行く。

アニメやゲームのキャラクターや、ファンシーな海外キャラなど多種多様に揃っていた。

アメリカンな食器には、カートゥーンキャラクターがプリントされていて、可愛いものが多い。

白鷺はその中から、黄色いキャラクターグッズを手に取る。

「東山、これはなんだ?」

「スポンジ・ボブ」

「スポンジの妖精なのか、なるほど」

素性は知らないけど。

スポンジの妖精っぽい見た目しているよな。

気に入っているみたいだが。

いや、あれ、可愛いのか?

「ほえー、アメリカのアニメだっけ。東っち詳しいじゃん」

「たまたま名前を知っていただけだよ」

「こっちのピンクのやつは?」

「パトリック・スター」

「めっちゃ知ってるやん!」

「妹がアニメを観てたからな。無料で配信されているからって、ずっと観ててな」

「へー、妹いるんだ。小学生?」

「今年で中学三年だな」

「まじ? 可愛い系? 美人系? あ、でも東っちの妹だと真面目っぽい。当たってる??」

キャッキャしている。

女子ってそういう話が好きだよな。

男同士なら、兄妹いる大変さを分かってくれて、察してくれるんだがな。

「例えるならどんな感じ? 誰に似てる?」

「答えなきゃ駄目か? 例えるならば……。性格とかは、もえに似ているかな」

「え~、お兄ちゃん口説いてる?」

「そういう部分が似ているんだって」

メスガキ感出さなくていいから。



みんな買い物を終えて、入口のところで集まる。

ガサゴソ。

白鷺と萌花は、ドクペを取り出す。

プルタブを開けて。

ーープシュッ!

初めて炭酸飲料だと気付くお嬢様だった。

飲めないのか?

いや、無理そうな顔をしている。

ぷるぷると震えながら、小さく飲む。

「美味い!」

萌花は美味しそうに飲んでいるけど。

「うむ。アメリカンな味だな」

あの綺麗な白鷺の顔面のパーツが、中央に収束していた。

かなり我慢している顔である。

独特なフレーバーは、飲むお薬とか、リコリスの匂いと風味で飲料ですらないとか言われているため、そもそも人を選ぶ飲み物だ。

俺や萌花は好きだが、ドクペを好んで飲むのはごく一部である。

白鷺のような反応が普通とも言える。

「東山は飲めるよな? どうだ?」

間接キスとか羞恥心とか、かなぐり捨て俺に飲ませようとする。

白鷺の性格では、親友が好きな物を不味いとは言えないので、俺が上手くフォローしてあげるべきだな。

「ありがとう。喉乾いていたし、有り難く頂くよ」

気にせず口を付ける。

久しぶりに飲むが、まあ相変わらず人を選ぶ味をしている。

海外製だと微妙に違うのかな?

独特なフレーバーが美味く感じるので、たまに飲みたくなるんだよな。

「えー、いいなあ。私も飲みたい! ちょうだいちょうだい」

小日向が物珍しそうに食い入るので、残ったドクペを渡す。

一口飲むだけで表情が曇る。

「うん、まあ……。そんな感じなんだ。後は飲んでいいよ」

飲みかけをまた戻してくるな。

秋月さんも飲めないオーラ出しているし、残すのも勿体ないから、飲むしかないか。

萌花は、銭湯後のコーヒー牛乳よろしく腰に手を当てて、グビグビ飲んでいた。

「メチャ美味い!」

うーん。イケメンだ。



何だかんだで買い物を終わりにした。

駅を離れるまでずっと騒がしかったが、これはこれで楽しかったし、いいのかもな。

「私達は同じ駅だし、家まで一緒に帰ろ?」

小日向と秋月さんを家に送って行くまでが、男の子の仕事ですか。

全部終わらせたら十時過ぎそうで絵を描く余裕もないけど、腹くくるしかないな。

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