第七話・お母様は大魔王
「あら~お帰りなさい」
母親がとてとてと小走りで玄関まで来る。
ニコニコと笑顔いっぱいである。
「お邪魔します。秋月麗奈です」
「いらっしゃい。ハジメちゃんのママです」
ママってキャラじゃないし、普段とは違いかなりふざけているが、口出しすると殺されるので黙っておく。
触らぬ神に祟りなしだ。
秋月さんは小声で話掛けてくる。
「優しそうなお母さんだね」
「いや、それはない」
外面は厚いが中身は大魔王みたいなものだぞ。
最初の町でラスボスが母親ってレベルだ。
「あら、どうしたの?」
こっわ。
寝ているかのような細目から少し見える眼光。
猛禽類のソレだ。
秋月さんもそれに気付いたらしく、びびっている。
「麗奈ちゃんは食べれないものとか、アレルギーとかある?」
「いえ、大丈夫です」
「それはよかったわ。今準備するからちょっと待っててね。ハジメちゃんはリビングまで案内してあげて」
手洗いだけしてもらい、秋月さんをリビングに案内する。
「あー、父親と妹ね」
軽く会釈する。
「お兄ちゃん、可愛い女の子だなんて聞いてないよ!」
「同じクラスの友達だから、失礼ないようにしろよ」
「大丈夫、完璧だよ!」
どっから来る自信だ。
自信満々に無い胸を叩く。
お前も大概小日向と同系統だから心配なんだよ。
「そうだぞ。可愛い女の子と友達とは羨ましい……」
オヤジ、母親に聞かれたら殺されるぞ。
それから一時間は経過したか。
秋月さんのコミュ力はかなり高いので、すぐに打ち解けてみせる。
なんなら、肉親の俺より長時間ちゃんと会話していたくらいだ。
食卓でも中心になっていた。
「あらあら、若いのに独り暮らしとは大変ね。好きなだけ居ていいからね?」
「ありがとうございます。でも、長居するのも悪いですので落ち着いたら帰りますね」
「夜遅くに女の子を帰らすわけにはいかないわ。せっかくだから泊まっていったら?」
「そこまでしてもらうわけには……」
「ハジメちゃんは構わないよね?」
「ああ」
秋月さんは母親のペースに飲み込まれていた。
押しに弱い性格では、マイペースな母親とは分が悪いだろう。
詰め将棋のように徐々に追い込まれていく。
「とりあえず食後のコーヒーでも入れてくるわ。秋月さんはコーヒーと紅茶どっちがいい?」
「紅茶で……」
「オッケー」
紅茶を煎れて戻ってくると、オヤジと陽菜が退場していた。
自分の部屋でスマホゲーでもやりたいのだろう。
「はい、どうぞ」
「東山くん、ありがとう」
母親の分の紅茶も置いておく。
「ハジメちゃん、ありがとう」
「秋月さんと話すのはいいが、いつまで居るんだ?」
「ママだって、可愛い女の子とお話したいもの」
「嫌だったらいつでも言ってくれよ? 即退散させるから」
「そんなことはないですよ。お母さん優しいし料理美味しいし、羨ましいくらいだよ」
「あらあら、麗奈ちゃん優しい」
むぎゅ。
俺の母親に抱き付かれている。
他人に過度なスキンシップするのやめて欲しいものだ。
「麗奈ちゃん。なんなら、ウチの娘になる?」
「それはちょっと」
「ウチの娘になったら、三食美味しいごはんを提供します。あと、毎日ハジメちゃんをこき使っていいし、パパのおこづかいもあげちゃう」
サラッと男連中を生け贄にするなよ。
オヤジの少ない小遣いがもっと減ったら、過労死するぞ。
オヤジ、無課金でスマホゲームやってるくらいしか趣味ないんだぞ。
俺のパソコンの修理のせいで小遣いを我慢しているため、正直頭が上がらないし、息子に文句一つ言わない性格は尊敬している。
「母さん、冗談もそれくらいにしてくれ。秋月さんは真面目なんだからさ」
「ママだって、真面目のマジメよ」
「なおのことタチが悪いわ。そもそもしれっと秋月さんの隣に座ってるの何で?!」
真顔で言う。
「座るなら女の子の隣がいいでしょう?」
「知らんけど。かなり邪魔だから、部屋に帰って?」
「そうやってママを邪険にして……」
「はいはい。そうやって印象操作して俺をマザコンっぽくしないでくれ」
外に出してリビングの扉を閉める。
ガラス越しに覗いていた。
こわっ。
中に入ってこないなら気にしない方がいい。
「はあ、家族がアホですまない」
「ううん。いい家族だね」
「いつもは静かなんだが……」
「うるさいくらいのがいいと思うよ?」
「そうだな……。いや? そうか?」
よく考えてみる。
家族がいると静かな時間を邪魔してくる場合が多く、独り暮らしをしてみたい気もする。
でも、完全に独りだと寂しいだろうし、秋月さんみたく独り暮らしをしてみたいとは正直思わない。
「そう考えたら、独り暮らしも大変だよな」
「まあね。独り暮らしだと、学校以外で会話することも少ないから、キャラが違うかもね」
「へえ、他のメンバーとチャットとかしないの? もえとかとしてそうじゃん」
「萌花とはライン通話するけど、毎日するってわけにはいかないからね。風夏や冬華も夜は忙しいみたいだから、女の子同士も大変なんですよ?」
「なるほど。じゃあ、たまたま俺が暇してて良かったよ。暇すぎて時間は有り余っているくらいだ」
「あはは、暇なら勉強しないといけないんだけどね」
「俺達は優秀だから心配いらないな」
「大丈夫? そんなこと言っていたら、足元掬われるよ?」
俺より優秀な人に言われると焦る。
でも、他の奴みたく赤点取ることはないから、学年順位を気にするくらいだ。
バイトしてない以上、お小遣いに直結するしな。
自分の勉強より、小日向の勉強を優先している関係で順位落としたりする可能性もなくもないか。
「ごめんね、冗談だから。東山くんなら大丈夫だと思うよ」
「もしかして、意地悪なのか?」
「私は性格よくないよ」
「いやいや、そんなことはないよ。勉強会の時に気を利かせてくれて助かっているからさ」
性格が悪い人は、友達の為とはいえ、勉強会や休憩時間を設けたり、放課後のプライベートの時間を潰したりしない。
秋月さんは、誰かの為に行動することで、優しさが伝わってくる人だ。
付き合いが短い俺にも分かるくらいである。
「勉強教えてくれる人がいい人なら、東山くんもいい人だね」
「いや、それはない」
俺を高く評価するのはやめてほしい。
柄じゃないんだ。
それから陽菜が暇そうにリビングに戻ってきて、ホラー映画を流し始める。
何だかんだありつつ、秋月さんも泊まることになり、風呂に入って妹の寝間着を借りて、まったりしている。
秋月さんも一緒に観る必要はないのだが、ホラー映画は大丈夫らしい。
流し始めると、みんな釘付けになって観ていた。
「ぴぇ!」
「びくっ」
陽菜がビクッとするのにビビっている。
「何で怖いのにホラー映画なんか観るんだよ」
「みんなで観るからいいんだよ。お兄ちゃんと違って、麗奈ちゃん反応してくれるし」
だからって初めて家に誘った人に見せていい内容ではない。
チェーンソーを持った殺人鬼が襲ってくる系だ。
陽菜は、雰囲気重視のためにリビングの電気を落としていて、寝間着にブランケットの重装備である。
ヴォンヴォンヴォン!
ドドドド!!
重低音のエンジン音と共に、殺人鬼が突如現れる。
血塗れのチェーンソーを振りかぶり、画面いっぱいに血飛沫が映り込む。
「あ゛あ゛あ゛あ゛」
陽菜は、俺に向かって頭突きタックルしてくる。
血反吐を吐く勢いで臓器が損失する。
「てめぇ! しばきたおす!」
「あ゛あ゛あ゛あ゛」
「ええ! なんで喧嘩してるの!?」
二人目は、素手で殺人鬼に殺された。
無事全員殺害されて映画が終了し、陽菜は満足そうに自分の部屋に戻っていった。
こういう映画は、人間側の全滅が様式美らしいが。
妹がサイコパスなのか心配する。
全員死んだらバッドエンドだろう。
楽しかった要素ないだろ。
「チェーンソー使ったの最初だけだったね」
「ホラー映画だと、同じ武器で倒すと飽きるから、色々な武器を使うらしい。でも、チェーンソーがタイトルに入っていたら、武器は統一してほしいよな」
「最後、主人公が車で突っ込んで洋館ごと自爆したのは面白かったんだけどね。殺人鬼が爆発で生きていた理由も分からないし、続編に続く展開は蛇足かな……?」
ええ、めっちゃ語るやん。
秋月さんもホラー好きなのか?
「キラーが人間じゃなくて元々死んでたとか、洋館に到着するまで出て来なかったのはキラーが悪霊だったとかあるんじゃないかな」
「本当だ! だから、舞台が数百年前の洋館だったんだね。でも、昔の悪霊なら何故にチェーンソー?」
「たまたま、攻撃力が高い武器を選んだんじゃね? 」
「その理由が分からないよね」
俺等はなぜ、真面目に映画の感想を言い合っているのか。
しかもホラー映画だぞ。
ビッグタイトルでもないB級ホラー映画で盛り上がっている二人であった。
みんな全滅で鬱エンドなのに、楽しく話している。
「とりあえず寝る準備しようか。騒いでいると母親が怒るし」
夜遅くなったので、お菓子のゴミやコップを片付け、寝る準備をする。
秋月さんには俺の部屋を使ってもらい、俺はソファーで寝る。
部屋の掃除はしてあるが、念のためにコロコロをかけておく。
俺のベッドのシーツは新しくしていないが、来客用の敷き布団一式を出しておいたので、そっちを使ってもらう。
「秋月さん、深夜まで起きているタイプ? 漫画とか色々あるし、眠れなかったら読んでいいから」
簡単に部屋にあるものの場所と使い方を説明しておく。
スマホの充電器も渡す。
「ありがとう」
「自分の部屋だと思って好きに使っていいからさ。あ、ただしあの薄い本だけは触らないようにして」
本棚にしれっと入っているが、やばいブツだ。
一部がエロ同人なので、普通に俺の趣味嗜好がバレる。
「人の部屋でそこまで好き勝手しないから」
「それもそうか」
「色々ありがとね。友達の家に泊まるとか、久しぶりで楽しかった」
「大きなお世話じゃないなら有難い。すまないな、無理言ってしまって」
母親がうるさく泊まっていけって言わなければ、こうして寝間着まで着ていなかっただろう。
押しに弱いのを攻められていた。
もうちょっと距離感を持ってもらいたいものだ。
罪悪感を覚えてしまう。
「そうだ! 東山くんの卒業アルバム見せてよ。クラスメートの西野さんと同じ中学でしょ?」
「あー、そうだったっけ? あまり絡んだことないからなぁ」
「ひどいなぁ。向こうは話したいかも知れないじゃない」
「陰キャと話したい女子はいないやろ」
それから三十分あまり卒アルを見て、いじられつつ過ごすことになった。
就寝時にはリビングのソファーに戻り、寝心地の悪さを感じつつ寝ることにした。
楽しそうでよかった。
翌朝。
「じゃじゃーん。パパの財布から徴収した軍資金を上げます。みんなで遊んできなさい」
ひでぇ。
オヤジから五千円巻き上げてやがる。
「お兄ちゃん、五千円なら色んな事が出来るね!」
「三人で割ったら、結構少ないと思うけどな。ごはん食べてちょっとしたら終了だぞ?」
「私は頭数に含まなくていいですよ。お世話になっているばっかりですし」
「悲しい! 麗奈ちゃんもウチの娘でしょ!」
ギュッ!
母親は悲しそうに抱き付いている。
いや、違うけど。
秋月家の娘さんですけど。
母親の勢いだけで物事を進める癖は何なんだろうな。
「若い子っていい匂いするのね」
ただのセクハラだからやめろや。
困惑しているじゃん。
「ねー、五千円で何しよっか? お昼ごはん食べて、お買い物して、タピオカ飲みたいな!」
陽菜は陽菜で話聞いていない。
あと、予定の配分おかしいだろ。
確実に金が足りなくなる。
「そもそも秋月さんを一日連れ回すわけにはいかないだろ。制服のままだし」
「そっかぁ。麗奈ちゃん身長高いし、陽菜の服だと小さいもんね。お兄ちゃんのは?」
「ユニクロのクソダサ服でいいならあるが?」
「ああ、うん……」
全員黙り込む。
否定しないのか。
一旦家に帰って着替えてくることで落ち着いた。
高校生でユニクロは駄目なのか……。
でも私服に金をかけたくないオタク心なんだよな。
「第一お昼ごはんドラフト会議」
どんどんぱふぱふ。
訳が分からん。
陽菜は無駄に元気であった。
秋月さんが私服に着替えるために自宅へ寄って、その流れで近場の駅前まで歩いて来ていた。
ショッピングモールもあるし、食べるところくらいあるだろう。
「たこ焼き!」
「うどん」
「パスタ」
「クレープ!」
「ラーメン」
「オムライス」
「唐揚げ!」
「ざるそば」
「グリーンカレー」
「協調性ないラインナップだな」
陽菜に至ってはガチの食べたいものを答えているだけだ。
食い合わせとか考えてすらいない。
ハイカロリー祭である。
「東山くんは麺類の気分なの? 好きなの?」
「いや、麺類だと腹持ちいいから」
「男の子だね……」
「そうか? 俺は量があれば何でもいいよ。陽菜の案以外なら」
「えー、たこ焼き食べようよ! みんなでシェアしたら美味しいよ」
「じゃあ、フードコートで一人千円以内で好きなものを買ってこようぜ。このまま話し合っていても時間かかりそうだし」
「勝負だね! 陽菜は、奇抜なメニューで攻めるよ」
飯食いにきたんだよ。
食べ物で遊ぶなよ。
食事後はウィンドウショッピングをして、タピオカを飲みながら帰宅する。
色々回っていたが特に買うことなくぶらぶらしていただけなので、大体午後二時くらいには回りきったし、疲れて飽きてしまった。
少し余ったお金は、レンタルビデオを借りて帰る。
陽菜の提案により、百円の旧作を選ぶセンス対決になり、各々が観たい映画を持ち寄る。
「陽菜は怖い話シリーズだよ」
「またホラー観たいのかよ。よう飽きないな」
「えー、面白いじゃん。そういうお兄ちゃんは何持ってきたの?」
「ドラ○もん」
「うわっ普通……」
別に大喜利じゃないんだから、全員で観られるチョイスにしただけである。
昼過ぎから映画を観るのに、俺まで堅苦しい映画を選んでしまうと、胸焼けするものしか集まらないはずだ。
「麗奈ちゃんは何持ってきたの?」
「えっと、昨日の映画の続編」
ハマってるやん。
秋月さんは恥ずかしそうに出しているが、狂気しか見えてこないわ。
昨日はギャグ口調で感想を語っていたけど、かなりグロい部分は多くて、凶器の種類でホラー要素を攻めるタイプのやつだ。
精神にダメージ負うため、三時のオヤツが食べれなくなるだろう。
「秋月さん、昼から観るの?」
「あ、いや。別にそんなに観たいわけじゃなくて、でもみんなで観る機会があんまりないかも知れないから……」
何度も俺の家に遊びに来れるか分からない。
だから、このメンバーで観られる内に選んできたのだろう。
「麗奈ちゃん、可愛い! うん。みんなで観よ!」
半泣きになりながら抱き付く。
「陽菜ちゃん……」
「俺達でよかったら、いつでも付き合うからさ。寂しいことは言わないでほしいな」
「ありがとう。その時はお言葉に甘えさせていただくね」
「ああ」
映画が終わり、エンディングが流れる。
映画を観た俺と陽菜はグロッキー状態だった。
リビングのソファーを占領して、ぐったりしていた。
あまりのゴア描写と急展開が続き、精神が磨り減っていたし、最後の最後に主人公がタンクローリーで突っ込んで洋館ごと自爆したため唖然としていた。
一作目の主人公の兄という設定は驚愕であり、主人公キャラらしくかなりパワー系の逃走劇だった。
洋館のキラーから主人公が無事に逃げただけで終わらず、ちゃんとケリを付ける為にタンクローリーを奪ってきて爆発させたのは新しい。
自爆して死ぬのも仲間愛や兄弟愛からくる設定なので、序盤から丁寧に主人公の心理描写をしていたため、迷いなく自爆するのであった。
ただ、回収されていない伏線。
昔の事件の真相まで明かされておらず。
次回作も出てきそうだった。
「楽しかったね。満足しちゃった」
「ああ、うん?」
一人だけキラキラした目をしていた。
「謎だった洋館の設定や、過去の犠牲者が持っていた情報も活きていたし、チェーンソーの音から逃げながら罠を仕掛けるのは凄かった。弟の形見のライターを使って自爆するのは、考え付かなかったなぁ」
面白いところは同意する。
しかし、グロいシーンも嬉々として語るのは俺でも引いてしまう。
普通に殺害シーンを思い出してしまう。
「秋月さん、ホラー好きなの?」
「そんなことないよ?」
「ううっ、夢に出てきそう……」
正直、陽菜の感想が一般的なものである。
俺もごはん食べられなくなるほど憔悴していた。
「あらあら、そんなに怖かったの?」
母親が気を利かせてお茶を煎れてくれる。
映画が始まる前に晩御飯の買い物に行っていたが、丁度戻ってきたみたいだ。
「えっとね、すごくやばかった!」
「あらあらまあまあ……」
抽象的過ぎる。
「ーー自爆したのね」
伝わるんかい!?
「それはそうと、麗奈ちゃん。晩御飯食べていくでしょ?」
「あ、お手伝いします」
「あらあら、悪いわね。麗奈ちゃんは料理得意なの?」
「簡単なものなら一通りできます。あ、でも、美味しく作るのは苦手です」
ちょっと恥ずかしそうにはにかむ。
モジモジしている姿は可愛らしい。
これチャンスかと、母親は頭をなでなでしている。
「若いのだから、練習いっぱいしたら美味しくなるわ。あと、ハジメちゃんは、ぜったい美味しいって言ってくれるわ」
サラッと話を振られた。
「え? ああ、ご期待に答えられるようにします?」
何故に俺に聞いた?
「あーやだやだ。我が子ながら人に無関心で気の利いた言葉も出ないなんて悲しいわ。だから友達出来ないのよ。優しくしてくれる麗奈ちゃんに感謝しなさい」
ボロカスに言ってくるな。
そりゃ友達はほとんどいないけど、ネット上では付き合いがある人は多い。
同人イベントでは数十人以上は顔見知りだし、たまには交流会にも行く。
いや、ネット友達の数を誇るのは違うのか?
年上の人とはよく話すが、同級生とかのリアルの友達は少ない。
「今必要な会話か、これ?」
「心配しているんですぅ。麗奈ちゃん、ハジメちゃんクラスで浮いてない? 友達いないでしょ? 陰キャだもん」
「えっと、放課後には私達と一緒に勉強してくれていますし、心配するほどではないですよ? 勉強が苦手な子にも親切に教えてますよ」
「違うわ! 断じて、そんなキャラじゃないでしょ」
肉親が疑うなよ。
とはいえないくらいに、母親には学校のことは話していない。
学校が詰まらなそうに帰ってくるし。
友達と遊んだとか話したこともない。
前々からそういうイメージを持たれていたが、思春期の男子なので詳しく話すのも嫌だった。
絡みがウザいしな。
「そもそも私は友達の友達ですから」
「あら、そうなの?」
「はい。勉強会で話すようになったばかりです。良くしてもらってます」
「あら~、アオハルでいいわねぇ。ハジメちゃんも陰キャなりに、仲良くしているようで良かったわ。さて、麗奈ちゃん晩御飯作りましょ!」
いい歳をしたおばさんがキャキャしている。
精神年齢がJK並なのかも知れない。
俺も手伝おうとしたら、キッチンから蹴り出された。
比喩表現ではなく。
それから月曜日。
いつもの教室。
「東山くん、おはよう」
「ああ、おはよう」
秋月さんが教室に入ってきて、挨拶をしてくる。
すれ違い様の挨拶だが、仲良くなった実感がある。
「やあやあ。みんな、おはよう!」
世界一うるさい奴が教室に降臨した。
「おはよ! おはよ! おはよ!」
「畜生、帰りたい……」
またこいつの相手をしながら、勉強会をする日々が続くと思うと憂鬱だった。
おはようと言うまで俺の目の前に居座る小日向であった。
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