魔王のコスプレしたまま異世界転移した私、直後に記憶喪失になり自分のことを本物の魔王と勘違いする

アカバコウヨウ

第一話 コスプレ女と記憶喪失と勘違い魔王誕生

「ひぃいいいいいい! どうして私だけこんな目にあうんですかぁあああああああ!!」


 現在。

 現役女子○生の朱音絵奈あかねえなは、人生最大の窮地に陥っている。


「スラスラスラスラスラスラァアアアアアアア!」


 魔物だ。

 とぅるとぅるボディのスライムに追いかけられ、森の中を全力で逃走中なのだ。

 本当にどうしてこうなったのか。

 否、本当はわかっている。

 全ての原因は魔王のコスプレだ。



 絵奈が転移する前——日本にて、彼女は夜中に趣味の魔王のコスプレで、人気のない道を歩くプレイをしていたのだ。


 その瞬間。

 おじさんに遭遇した。


 全裸で首輪をつけて歩くおじさんに。


 絵奈は本能でやばいと思った。

 コスプレしてるのが見られるのが、本当にやばいと思った。

 だから逃げた。

 そうしたらおじさんも追いかけてきた。


 色々パニック。

 故になおさら速度を上げて逃げたら。


 階段からすってんころりした。


(そして次に気がついたら、異世界転移していたわけですけど……まぁ、途中で女神様から最強無敵のチートスキルをもらいましたけど)


 そう、それが絵奈の問題だった。

『魔王のコスプレ』と、『女神様から聞いたチートスキル』の能力の相乗効果により、彼女は気がデカくなっていた。


 だから、絵奈はその辺を歩いていたスライムを魔王のコスプレの付属品——作るのにお年玉8回分の杖でしばこうとした。

 というかしばいた。

 そしたら、報復されているのが現在なわけだ。

 以上回想終了。



「くっ、だいたい私のせいで泣けるっ」


 もう事態を再確認して鬱になるのはやめだ。

 と、絵奈はとにかく逃げる。


「コミケダッシュで鍛えた私の脚力を甘く見ないでください!」


 ギアを1段階上げる。

 脳内に描くのは欲しい同人誌を直前で買えないイメージ。


「っ……はぁああああああああああああっ!!」


 ダッシュ。

 絵奈全身全霊のダッシュっ。

 そして——。


 スカッ。


 気がつくと宙を蹴る足。

 はて? と、下を見れば断崖絶壁。

 というか、すでに崖を超えて空中。

 

 そう。

 前を見ずにダッシュした結果、崖から飛び出してしまったのだ。

 なるほど。


「私のチートスキルはどうなっているんですか!? あれは確か私のう——ひぃいいいいいっ!!」


 落下。

 絵奈全身全霊の落下。

 そして、そこで彼女の意識は途絶えた。



 ⚫︎⚫︎⚫︎



「はっ!?」


 と、エナは上半身起こす。

 そして辺りを見まわし。


「ここは、どこ? 私は、だれ?」


 ズキッ。

 頭が猛烈に痛い。

 とりあえず状況を整理しよう。


「頭に包帯を巻かれていることから、多分記憶喪失なのは間違いないですね。それにここは誰かの家? 頭に強いショックを受けて気絶した私を、誰かが介抱してくれた?」


 ダメだ、整理してもよくわからない。

 なんせ覚えているのが『エナ』という、おそらく自分の名前だと思われるものだけ。

 いや、よく集中するとあと一つ脳裏に浮かんでくる。


「公園、街灯の下……裸のおじ、さん? 首輪をつけて、これは……まさか私の、お父さん?」


 だとすればきっと心配しているに違いない。

 こうしてはいられない。

 と、エナはベッドから降りてそれを見る。


 目の前にある全身鏡を。


 否。

 そこに映る自らの姿を。


 黒い長髪に茶色い瞳、我ながらバランスの取れた程よい美乳。

 そして何より注目するべきは。


 金の刺繍が施された魔法使いのようなローブ。

 至る所につけられている金の装飾品。


 さらに鏡の横に立てかけらているのは杖。

 禍々しくも美しい宝玉の嵌められた漆黒の杖だ。


「私は魔法使いなのでしょうか?」


 いや違う。

 エナの本能が、魂が叫んでいる。


 ザァアアアアアアッ。

 と、降り出す雨。

 いつの間にか外では雷すら鳴っている。


「……」


 エナはゆっくり前へと歩く。

 そして、彼女は何か運命に導かれるように杖をその手に取り。

 確信する。


「私は魔王……この杖に込められた苦しみ、悲しみのオーラが教えてくれる」


 だとすればきっと、この額の怪我——包帯は勇者にやられた跡に違いない。

 だんだん見えてきた。

 要するに、エナは勇者と戦って負けてしまったに違いない。


「全く詰めが甘いですね、勇者。私が死んだのを確認しないから、こういうことになるんですよ」


 さて、となるとここはどこかだが。

 と、エナが考えたその時。


 ガチャ。

 と聞こえてくる扉が開く音。

 そこから入ってくるのは。


「おお、起きたんじゃな?」


 おばあちゃんだ。

 きっとこの人が倒れているエナをここまで連れてきて、介抱してくれたに違いない。


(勇者と同じ人間のくせに良い人じゃないですか。でも、私の正体については言わないほうがいいですね。人間は敵……なのですから)


 とはいえ。

 まずはおばあちゃんに言わなければなならないことがある。


「助けてくれてありがとうございます」


「いいんじゃよ、持ちつ持たれつじゃからな。それにしても怪我は大丈夫かの? 村の近くにある崖下に倒れていたから心配したよ」


「いえ、頭が痛い以外は特に(本当は記憶ないけど)。おばあちゃんが運んでくれたんですか?」


「いんや、あたしの旦那じゃよ。今は米を見に行ってるけど、雨も降り出したし雷も鳴ってることじゃし、もうすぐ帰ってくるよ」


「えっと、旦那さんについて色々聞きたいことはありますが、まずはその……米、ですか?」


「米じゃ。この村は米が名産品でな、王都の米もここから集められているのじゃよ。あぁそうじゃ、せっかくだから今から昼飯を作ってやるよ。とっても美味しいお粥を作るからの」


 などなど。

 おばあちゃんがそんなことを言った。

 まさにその瞬間。


 バンッ!

 と、乱暴に開かれる扉。

 それと同時入ってきたのは。


「婆様! 大変じゃ魔王軍じゃ! 魔王軍が攻めてきた!! 今すぐその子を連れて逃げるんじゃ!」


 めちゃくちゃ慌てた様子のおじいちゃん。

 おそらくはおばあちゃんの旦那さんだった。




——————————————————

あとがき


初めましての方、商業で知ってくれた方

どうも、作者のアカバコウヨウです。


もしも続きが気になったり、面白かった!

と、思ってくれた方が居ましたら

『フォロー』、『星による評価レビュー』などくれると参考・励みになりますので

よろしくお願いいたします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る