第15話 破滅フラグの第二皇女を兄嫁にはしません。
目を覚ました時、私は皇太子殿下にしがみついて寝ていた。……正確に言えば、皇太子殿下の身体をベッドにしていた。
「……あ、あれ?」
私、いったい何をしているの?
こんな超美形プリンスに馬乗り……あ、あの胸の染みは私の涎?
「姫、お目覚めですか?」
皇太子殿下に優しく言われ、私は慌てて飛び起きた。
「おはようございましゅ」
おはようございます、と言ったつもりが語尾でつまずいた。
「おはようございます。ご気分はいかがですか?」
皇太子殿下の綺麗な目が優しく細められた。
「私は大丈夫。殿下は?」
むんず、と私は殿下の寝間着を引っ張った。真っ白な肌に数え切れないぐらいの殴打の跡。鳩尾には包帯が巻かれている。
「心配なさらないでください。私はなんともありません」
皇太子殿下の笑顔に見覚えがある。これは前世の私の作り笑顔。我慢して頑張って諦めて耐えて。心配してくれたのは赤の他人、行きつけのスーパーのおばちゃんや八百屋のおじちゃんたちだ。声をかけてくれるたび、無理して笑顔を作った。ここで泣き言を零したことが祖父母の耳に入れば、どうなるかわからないから。犬みたいに首輪をつけられて押し入れに閉じこめられるのは二度といや。
「殿下の治療」
古傷も痛むはず。心の傷も癒えていないはず。皇后一派にいじめられていたことは確かめるまでもない。
「治療をしていただきました。感謝します」
「確かめるね」
「……姫?」
「私、いるから大丈夫よ」
よしよし、と私は皇太子殿下の頭を撫でた。
「……あ」
皇太子殿下が困惑顔で視線を流した先には、青ざめたばあやがいた。着替えや湯を張った湯桶など、侍女たちがそれぞれ手にして並んでいる。イルゼはウサギのぬいぐるみを持っていた。
「書類上では夫婦ですが、正式な結婚前に皇太子殿下のお部屋でお休みすることは言語道断」
注意のポーズ、ばあやが人差し指を立てた。
ローデリヒ様が憤死しかけました、とイルゼが小声で呟き、先輩侍女に肘で突かれた。
「はい?」
「一刻も早くお部屋に戻らねばなりませんが、皇帝陛下のお召しです」
「はい。第四皇子は?」
あいつは許さない、と私は闘志を燃やした。
「まず、殿下から離れてください」
ばあやは荒い語気で言いつつ、私を抱き上げた。皇太子殿下がほっとしたように息をつく。
「時間がございません。殿下のお部屋で準備させていただきます」
ばあやが申し訳なさそうに断わると、皇太子殿下がベッドから下りた。
「構いません。僕は奥に」
全員、皇太子殿下の優しい気配りに恐縮した。
「滅相もない」
「よい。僕が奥で」
皇太子殿下が奥の部屋に入り、私は寝室で準備をすることになる。
「母君に似て優しい殿下ですこと」
ばあやが感服したように言うと、ほかの侍女たちも同意するように頷いた。口調に親しみを感じる。
「ばあや、殿下のお母様を知っているの?」
「アレクシア様、時間がありません。お喋りは後で」
ばあやにぴしゃりと言われ、私は顔を洗った。後は侍女たちに任せるだけ。気分は着せ替え人形。
時間がないとわかっていても、侍女たちは手を抜いたりしない。髪型は定番のツインテールだけど、大きな花と希少価値の高いピンクダイヤモンドをつける。フリルのワンピースや靴にも元皇后や第二皇女が欲しがっていたピンクダイヤ。
……あれ?
このピンクダイヤのコーディネイトにはなんか意味があるよね?
ばあやに聞きたかったけれど、皇帝陛下から催促の使者がきたからアウト。
寝室から出ると、身なりを整えた皇太子殿下が待っていた。一緒に拝謁するみたい。
「姫、お手を」
皇太子殿下が私に向かって手を差しだした。エスコートだ。お父様でもないし、お兄様でもないし、叔父様でもない男性のエスコート。
きゅん、と胸が痛くなる。
恥ずかしいけれど嬉しい。
もじもじしながら手を伸ばそうとした瞬間、イルゼがウサギのぬいぐるみを差しだした。
「アレクシア様、ローラはよろしいのですか?」
美形にエスコートされるのにウサギのぬいぐるみはアウト。
「……う、大きくなったから」
私がふるふる首を振っても、イルゼはウサギのぬいぐるみを引かなかった。
「皇宮では取りに戻るのは大変です」
過去、外出の際に強がったものの、寂しくなって、ぬいぐるみを取りに戻ってもらったことがある。イルゼも懲りているらしい。
私が低く唸っていると、皇太子殿下に優しく尋ねられた。
「可愛いウサギです。ローラという名ですか?」
お母様が生前に用意していたウサギのぬいぐるみに『ローラ』と名付けた。私のお気に入り。
「はい。ローラ」
「ローラが寂しがっています。連れて行ってあげたらいかがですか?」
皇太子殿下がイルゼからウサギのぬいぐるみを受け取り、私に差しだした。
ふわっ、と私の心が軽くなる。
そうそう、私が寂しいんじゃない。ローラが寂しがっているんだ、って。
「うん。ローラが寂しがっている」
これが胸きゅん?
どうしよう?
胸きゅんが止まらない。
「ローラ、アレクシア嬢と一緒で幸せそうです」
皇太子殿下にエスコートされ、私はローラを左手で抱えて歩きだした。
「はい……あ、侍従長、ケガ」
皇太子の侍従長を見つけ、私は足を止めた。血の海で失神していた忠臣だ。顔の傷も首に巻かれた包帯も痛々しい。
「皇太子妃様、私のようなものにまでのお慈悲に深く感謝します」
侍従長に潤んだ目で感激され、皇太子殿下にも視線で感謝される。
「第四皇子、許せない。やっつける」
私が改めて闘志を燃やすと、ばあやに真顔で窘められた。後宮では不敬罪で舌を抜かれかねないから。
後宮の移動魔導具で本宮の移動魔導具までほんの一瞬。
絢爛な回廊を進み、皇帝陛下がいる大広間に進んだ。『孔雀の間』っていう名の通り、天井や壁には孔雀が描かれている。大広間の四隅に置かれた水晶の孔雀も筆舌に尽くし難い。
皇帝陛下の隣に第四皇子や第二皇女がいなければ、孔雀像に見惚れていたかもしれない。
第四皇子はちっとも反省していない。
兄嫁……って、兄嫁じゃないけど、第二皇女はギーゼラ元皇后そっくり。
寒気がした。
もっとも、私をエスコートしている皇太子殿下の顔色が悪い。
緊張しているのかな?
宰相や大臣など、元皇后派が揃っている。
……あ、ウーグリチ王国の王太子との政略結婚のため、陛下の養女になったデーニッツ伯爵のドミニク嬢もいる。
皇女の代わりに気の毒に、と同情しかけて我に返った。
私と皇太子殿下は宮廷作法にのっとり、挨拶をしようとしたけど、陛下は穏和な笑みで止めた。
「よいよい。挨拶はよい。余の姫、大事ないか?」
余の姫、っていう陛下のイントネーションがキモい。お父様やお兄様たちの「俺の姫」とはまるで違う。
「第四皇子、ひどいです」
ちゃんと第四皇子の乱行を言うつもりだったのに、私の舌が勝手に動いた。
けど、効果有り。
第四皇子に火がついた。
「なんだと? お前が生意気なんだ。畏れ多くもこの僕が直々に教育してやろうとしたんだーっ」
第四皇子が黄金倚子から飛び降り、隠し持っていた鞭を取りだした。
ピシッ、と威嚇のように鞭を鳴らす。
「……おい、今の、俺の妹に言ったのか?」
お兄様が凄んだ瞬間、大広間が揺れて天井から吊されていた孔雀のシャンデリアが落ちた。
ガラガラガラ、ガッシャーン、耳障りな破壊音が響き渡る。
孔雀の彫刻も倒れるし、壁にはめこまれた大きな鏡も木っ端微塵に砕けた。
「……そ、そ、それぐらいでビビると思っているのか? 僕を誰だと思っている?」
第四皇子は下肢を震わせながら虚勢を張った。同母姉の第二皇女や外戚の宰相が慌てて近づいて宥める。
「宰相の孫がこんなにバカだと思わなかったぜ」
お兄様は皇帝陛下ではなく黒い鬚の宰相に嫌みを飛ばした。
「小公爵、申し訳ない。殿下はまだ勉学中の身、広い心で接してください」
「第四皇子は勉強させても無駄だ」
お兄様が冷たい顔で切り捨てると、皇帝陛下が口を挟んだ。
「これこれ、やめぬか」
「陛下、第四皇子の身分剥奪、舌を抜き、手首を切り落とし、足の筋を切った後、シュトライヒ帝国永久追放を求める」
お兄様が悪魔みたいな顔で言い切ると、陛下はいつもと同じ調子で宥めようとした。
「余に免じて許してくれぬか」
「見逃せません」
「まだまだ幼い。今回の件は大目にみてくれぬか?」
陛下の視線の先、第四皇子は宰相と第二皇女に挟まれておとなしくなっている。傲慢な皇子も同母姉と外祖父には弱いらしい。
「度を超しています」
お兄様は鋭い目をさらに鋭くして、皇帝陛下に詰め寄った。どこからともなく、不気味な地鳴りが響き渡る。
お兄様、ここで本宮を破壊したらアウト、と私は心魂からお兄様に語りかけた。
「三ヶ月、謹慎させる。余が直々に教育するから今回は引いておくれ」
「甘すぎる。陛下はノイエンドルフを敵に回すつもりですか?」
「これこれ、またそれか?」
「陛下、どうして俺が第四皇子を始末しなかったのかわかりますか?」
俺の妹に鞭を向けやがった、とお兄様は背後に灼熱の炎を燃え上がらせた。
お兄様、と私は慌ててお兄様に抱きつく。
「ローデリヒ、そなたもやんちゃであった。そなたに比べたらおとなしいもの」
「ノイエンドルフを敵に回しましたね」
お兄様の怒気に比例して、本宮が揺れた。
「ひいっ」
孔雀の間にいた宰相を始め、大臣たちが腰を抜かした。第四皇子や第二皇女、養女のドミニク様も崩れ落ちる。
皇太子殿下も辛そうに顔を歪めた。
さすが、皇帝陛下はお兄様の魔力にも崩れない。それでも色を失っていた。
「待て待て。余の娘をそなたに授ける」
想定外の結婚。
……いや、私にとっては想定内?
赤ちゃんの時に夢で見せてもらった未来よりだいぶ早い。
「話をすり替えるな」
お兄様は忌々しそうに舌打ちをしたけど、皇帝陛下は構わずに続けた。
「なんの、この行き違いは根本的な溝を埋めねばならぬ。ノイエンドルフから大切な姫をもらった。余も大切な姫をノイエンドルフに渡す」
アレクシア様が人質だという誤解を払拭する、と宰相も床にへたり込んだまま続けた。
第二皇女が立ち上がり、お兄様の前に出る。優雅な姿でカーテシー。
一見、虫も殺せないような淑女だけど、絶対に騙されない。
第二皇女は皇帝側のスパイ。
結婚させたら終わり。
「駄目、お兄様の結婚、駄目ーっ」
私はウサギのぬいぐるみをふり回しながら反対した。
「おぉ、姫も賛成してくれるな」
陛下は満面の笑みを浮かべ、私の意見を故意に曲解した。
「お兄様と第二皇女の結婚、絶対に駄目ーっ」
悔しくて、私は陛下の前で飛び跳ねる。
「そうか、姫も喜んでくれるか」
「お兄様の嫁、第二皇女様、駄目ーっ」
ちゃんと理論的に反対したいのに言葉が出ない。私は焦りまくった。情けない。それでも、兄にはきちんと通じた。
「陛下、俺の妹が全身で反対しています。妹が反対する結婚はしません」
お兄様が真顔で拒むと、皇帝陛下は渋面で首を振った。
「これこれ、余の娘に恥を掻かせる気か?」
「俺の姫が納得しない嫁はいらない」
「……ならば、余の大切な姫に問う。兄の嫁は第二皇女でいいな。わかってく……」
皇帝陛下の言葉を遮るように、私は全身全霊を傾けて怒鳴った。
「お兄様のお嫁ちゃんは皇太子殿下ーっ」
静まり返る孔雀の間。
……あれ?
今、私は何を叫んだ?
皇太子殿下もお兄様も第二皇女も第四皇子も宰相も皇帝陛下も……みんな、口をポカンと空けて固まっている。
全員、孔雀の間の石像。
「私と皇太子殿下、お兄様のお嫁になる。お揃いドレス着る」
またまた私の口が勝手に動いた。
ペチッ、と私はお兄様の足を叩く。
「……あ、あぁ、皇太子殿下が女だったら俺の嫁になっていたのかな」
お兄様の石化がとけ、皇太子殿下をまじまじと眺める。
「……そ、それは残念なことをした」
皇太子殿下も自分を取り戻したらしく、引き攣り笑いを浮かべた。
「皇太子殿下、男だよな?」
「小公爵、僕は男です」
「妹の望みはなんでも叶えてやりたい」
「小公爵、気持ちはわかりますが、僕は男です。いくらアレクシア嬢の望みでもこればかりは……」
皇太子殿下とお兄様が苦しそうに言い合っている。
私は皇帝陛下の前に立ち、第二皇女を人差し指で指した。
「第二皇女はウーグリチの王太子のお嫁に行って」
私が力んだ瞬間、お兄様の顔がぱっ、と明るくなった。
お兄様とは裏腹に第二皇女の顔が引き攣り、第四皇子が暴れだす。……や、すんでのところで宰相が止めた。
「……あぁ、余の大切な姫よ。ウーグリチの王太子には余の養女であるドミニクが嫁ぐことになっている」
条約と婚姻はセット。
北の野蛮国家として名高いウーグリチ王国と条約を結ぶ際、王太子との縁談が持ち上がった。
なのに、第二皇女が拒否したんでしょう。
それで帝都一の美女って評判のドミニク嬢を養女にして北の野蛮大国に嫁がせようとした。
デーニッツ伯爵とドミニク嬢の気持ちは完全無視。
「養女は駄目。第二皇女が北の王子のお嫁になる。皇女の務め」
第二皇女のプライドはべらぼうに高い。第二皇女の権利を振りかざすんだから、皇女の努めを果たせ。
ふんっ、と私はウサギのぬいぐるみを抱え直して鼻を鳴らした。
「確かに、姫の言う通り。皇帝陛下が臣下の娘を養女にして北の王子に嫁がせること。北に不満を抱かせる原因になる」
お兄様が冷静に言うと、皇帝陛下は手を振った。
「養女にしたドミニクは見目麗しく、北の大国の王太子妃には余の娘より相応しい」
「はっ、じゃあ、俺は北の大国に出せないクズ姫を押しつけられるんですか?」
お兄様が馬鹿にしたように鼻で笑うと、第二皇女の顔が醜悪に歪んだ。
……うん、お兄様の言う通り。
陛下、誤魔化そうとしても無駄だよ、と私は顰めっ面の皇帝陛下を見上げた。
「ローデリヒ、口が過ぎるのではないか?」
「陛下、どんなに言葉を飾っても無駄です。アレクシアはノイエンドルフのために、後宮入りした。第二皇女も国のため、北に嫁入りするべきだ」
私が言いたかったことをお兄様が真摯な目で言い切った。皇太子殿下の目も同意するように細められる。
「会議で決まったこと」
絶対王政を敷いている帝国で、会議は意味を成さない。ノイエンドルフ公爵が会議に参加していなければ。
「陛下、北とノイエンドルフが組んだらどうなる?」
お兄様が好戦的に口元を緩めると、皇帝陛下は肩を竦めた。
「謀反か?」
「陛下が北を怒らせて国を滅ぼそうとしている。止めるのは忠臣の務め」
お兄様が断言した通り、私の見た未来で北の大国との国交は断絶した。今回の結婚、養女の輿入れに北の大国側の不興を買ったんだ。可哀相なのは嫁いだドミニク様。
北の大国で冷遇され、嫁いで半年もしないうちに亡くなってしまった。毒殺の噂もあった。ドミニク様の訃報を聞いたお父様や叔父様たちが悲しんでいた。私は悲しい未来を思いだす。……や、悲しい未来は変えればいい。第二皇女が自分の務めを果たせばいいだけ。
「北はそんなに危険か?」
北の大国は国とは名ばかりの蛮族国家だ。それは誰でも知っている。
「皇帝には年頃の第二皇女がいるのに結婚させない。これ、北にケンカを売っているようなもの。誰も陛下に進言しなかったのか?」
お兄様は皇帝陛下から宰相や大臣たちに視線を流した。外務の担当者は懊悩に満ちた顔で肩を落としている。お兄様の意見に反論の余地はない。
「駄目だ。姉上を北の蛮族になんか嫁にやらない。養女でも充分だーっ」
第四皇子が喚き散らしたけど、皇帝陛下やギーゼラ元皇后の本心だと思う。宰相にしても第二皇女は手元に置きたいはず。
……や、ノイエンドルフを滅ぼすため、第二皇女は必要だ。
「陛下の失策、国を滅ぼす。父も同じ意見だ」
「ノイエンドルフ公爵もそのように言っていたのか?」
「はい。北の脅威を陛下はどうお考えか?」
「ノイエンドルフがいれば北の脅威はない」
「陛下は嘘の報告ばかり聞いているのか?」
お兄様と皇帝陛下が睨み合う。
私はウサギのぬいぐるみを抱き直し、第二皇女の前に立った。
「第二皇女様、それでも皇女ですか? ニセの皇女ですか?」
「……よ、よくも……」
第二皇女は柳眉を吊り上げたけど怖くない。ギーゼラ元皇后の迫力に比べたら豆粒。
「ニセの皇女は牢屋です」
「無礼な」
「本物の皇女なら、臣下の娘に自分の務めを押しつけちゃ駄目です」
「わたくしを誰だと」
「私はノイエンドルフの娘です。ノイエンドルフのため、皇宮に来たの」
私が仁王立ちで宣言した瞬間、皇帝陛下が降参とばかりに天を仰いだ。
「あいわかった。余の大切な姫の言う通り、第二皇女を北に嫁がせる」
皇帝陛下の一声に宰相たちはひれ伏す。第二皇女は悲鳴を漏らしたけれど、意は唱えなかった。
「第四皇子は三ヶ月の謹慎」
これで手を打て、と陛下は宥めるようにお兄様に語りかけた。
「御意」
「養女の嫁ぎ先が消えてしまった」
皇帝陛下に嫌みっぽく言われ、私はドヤ顔で言った。
「叔父様のお嫁さんです」
お母様が夢で見せてくれた未来には、叔父様に恋い焦がれていたドミニク様の姿があった。叔父様は何も気づいていないけど、帝都一の淑女を拒んだりしないと思う。……うん、私がさせない。
「なんと?」
「叔父様とフロレンティーナ、離婚した。叔父様のお嫁にもらう」
叔父様が独身になって、早くも後妻の座を狙う令嬢が多いことは聞いていた。皇后のスパイも暗躍しているみたい。
「……それは」
皇帝陛下は狼狽したけど、お兄様は爽やかな笑顔で指を慣らした。
「さすが、俺の姫、いい考えだ。陛下の養女として、ドミニク姫を叔父に嫁がせてください。皇室とノイエンドルフの新しい縁になるでしょう」
皇帝陛下は観念したように大きく頷いた。
手応え有り。
第二皇女に般若顔で睨まれたから睨み返した。
私はノイエンドルフの娘だから睨まれたぐらいでビビらない。
……うん、まぁ、正直、怖かったけど。
ぎゅっ、と抱き締めるウサギのぬいぐるみがあってよかった。皇太子殿下もにっこり微笑んでくれたから心強い。
風向きは変わったはず。
破滅フラグ、へし折った。
これから、と私は勢いこんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます