第14話
あたしが聞いても夢羽が聞いてもあたりさわりのない返答だ。
わかっていたものの、ガッカリしてしまう。
瑠衣にとってはあたしも夢羽も、失いたくない女の子だということだ。
瑠衣があたしを特別視してくれる日は来るんだろうか……?
瑠衣と夢羽の間に割って入り、会話をする。
そんな事を続けていた昼休み。
舞美に元気がないように見えてあたしは声をかけた。
「舞美、どうしたの?」
机の上にお弁当を広げてぼんやりしていた舞美が、ハッと顔を上げた。
「モコ……」
「モコが舞美をほっとくから、舞美は寂しかったんだよねぇ?」
横から楓がそう言ってきて、あたしは目をパチクリさせた。
確かに、昨日からあたしは夢羽と瑠衣の間に割って入って会話をしているから、
休憩時間に舞美と会話する時間が減っている。
「そうなの?」
「そんなんじゃないから、大丈夫だよ」
舞美は元気がなさそうにそう返事をした。
「あれ? 違ったの?」
楓が首を傾げる。
「最近、冬が休んでるでしょ。それが気がかりなんだよね」
そう言って舞美はあたしから視線を外した。
その視線の先には冬の机がある。
確かにここ数日冬は学校を休んでいた。
それでもスマホで連絡は取っているし、風邪で休んでいる事を知っていたため、大して気にはしていなかったのだ。
「……冬の事、気になるの?」
そう聞くと、途端に舞美の頬が赤らんだ。
視線を空中に泳がせて質問の答えに困っている。
舞美が冬の事を気にしていることは前から知っていた。
そのことで相談を受けたこともあるし、友達から好きな人へ変わって行くのかもしれないと感じていた。
「好き……なのかも」
舞美は聞き取れないほど小さな声でそう言った。
あたしと楓は目を見合わせた。
「よかったじゃん!」
楓がそう言い、舞美に抱き着く。
あたしも楓と同じ気持ちだった。
舞美に好きな人ができれば恋の話も楽しくなる。
好きな人がいると毎日が楽しくて輝くし、素敵なことだ。
「よかった……のかな?」
舞美は恥ずかしそうにうつむいた。
「人を好きになることは素敵なことだよ。今日の放課後、冬にお見舞いに行ってみる?」
そう声をかけると、舞美は真っ赤な顔のままうなづいたのだった。
☆☆☆
そして放課後。
今日はアルバイトが休みのため、あたしと舞美はお見舞いを購入してからゆっくり冬の家に行くことになった。
病気のお見舞いと言っても、好きな人へ贈るものだ。
舞美はスーパーの青果の前で立ちどまり、どのフルーツを持って行くか随分と悩んで決めていた。
結局食べやすく切っているカットフルーツを選び、あたしたちは冬の家の前まできていた。
仲がいいから何度も訪れたことのある冬の家。
大きくて茶色いレンガの壁が印象的な家だった。
「行くよ、舞美」
「う、うん……」
自分の気持ちに気が付いてしまった舞美は少し緊張気味で、何度も深呼吸を繰り返している。
「大丈夫だって。あたしも一緒にいるんだから」
あたしはそう言い、舞美の背中を押した。
舞美は大きく頷きチャイムに手を伸ばす。
家の中からピンポーンとチャイムの音が聞こえてきて、すぐに玄関に人影が見えた。
「はい」
細い声と共に玄関のドアが開く。
中から出てきたのは冬の母親だった。
冬の母親は声と同様に病的に細く、どこか暗い雰囲気のある人だった。
そのせいか、開けられた玄関の向こうの部屋がとても薄暗く感じられた。
家の中はシンとしている。
「冬のお見舞いにきました」
舞美がそう言うと、すんなり玄関に通してもらえる。
しかしその表情に笑顔はなかった。
「来てくれてありがとう。冬はここ数日熱が下がらなくて、病院へ行ってもなかなか治らないのよ」
「そうなんですか……」
舞美が不安の色を濃くする。
二階に上がり、一番奥の冬の部屋の前で立ちどまる。
「冬。学校の友達がお見舞いに来てくれたわよ」
そう声をかけるが中から返事はない。
眠っているのかもしれないと思ったが、母親がドアを開けてくれたのであたしと舞美は部屋に足を踏み入れた。
窓辺に置かれているベッドに冬は横になっていた。
目は閉じられて、荒い呼吸を繰り返している。
額や首筋にはいくつもの汗の玉が流れていて、見ているだけでもその苦しみが伝わってきた。
「冬……」
舞美がベッドの横に座り、その顔を覗き込んだ。
「ずっと40度も近くの熱が出たままなのよ……」
ドアの近くに立っている母親がそう言った。
「そんなにも熱が高いんですか?」
あたしは驚いて聞き返した。
「えぇ。インフルエンザかと思ったんだけど、病院では違うって診断をされて、とにかく熱を和らげる薬を飲んでいるの」
ただの風邪だと思っていたけれど、どうも違うのかもしれない。
感染性ではないと診断されているから自宅で様子を見る事が出来ているらしいが、高熱がずっと続いているのは普通ではない。
「冬は大丈夫なんですか?」
舞美がすがるようにそう聞いた。
医者でもない母親はその質問に辛そうな表情を浮かべるしかできなかった。
「このまま熱が下がらないようなら、本土の病院へ行ってみるつもりなの。大きな病院で見てもらえばちゃんとした病名もわかるかもしれないから」
母親は弱弱しい口調でそう言ったのだった。
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