死神喫茶店
西羽咲 花月
第1話
顔色の悪い男女が低いうめき声を上げながら夜の街を徘徊している。
頬は剥がれ落ち、足首は折れ、つま先が逆向きになりながらも、彼らは歩く。
栄えていたハズの街並みはどこも真っ暗で、店の看板は落下して道路を塞いでいる。
そんな中、1人少女が建物の陰に隠れて震えていた。
彼らの狙いは少女ではない。
食料だ。
そして彼らはみな、人間を食料としている。
そのことを、少女はすでに知っていた。
彼らの足音が近づくにつれて少女の震えは大きくなる。
両手で鼻と口を押え、自分の呼吸さえ最小限にとどめようとしている。
彼らに見つかれば自分の命はない。
それを知っていた少女だったが……ドンッ! と大きな効果音と同時に少女の目の前にゾンビが現れて、友人の舞美が悲鳴を上げた。
舞美の隣に座ってゾンビ映画を観ていたあたしは、その悲鳴に驚いて飛び跳ねてしまった。
「もう、びっくりさせないでよ舞美」
文句を言うが、舞美はテレビ画面から目をそらして耳まで塞いでいるため、あたしの文句は聞こえていないようだ。
舞美だけじゃない。
画面上で少女がゾンビに襲われているのを見ていられないのか、他の友人たちも目をそらしったりしている。
いま、テレビ画面をまともに見ているのはあたし1人と言う事だ。
どうしよう。
映画を止めたほうがいいのかな?
史上最恐のゾンビ映画だと宣伝されていたDVDに興味を持った友人たちと集まっていたのだけれど、まさか怖いものがこんなに苦手だとはおもわなかった。
親友の金田舞美(カナダ マイミ)をはじめ、鶴野楓(ツルノ カエデ)。
佐古夢羽(サコ ムウ)。
更木冬(サラキ トウ)。
中山瑠衣(ナカヤマ ルイ)。
そしてあたし、広常モコ(ヒロツネ モコ)。
この6人は吉村高校1年A組の仲良しグループだ。
でも、女子はともかく、男子までこの映画が苦手だなんて思っていなかったなぁ。
あたしはゾンビに食べられてゾンビ化してしまった少女を見ながら、チョコレートのお菓子を食べた。
「お前、よく食べれるな……」
冬がしかめっ面をしてそう言って来た。
冬は名前の通り冬の12月生まれで、そのせいか女子が羨ましく思うくらいに肌が白かった。
少し女性的な顔をしていることから、学校内ではアイドル的な人気を持っていた。
「冬は性格まで女の子なんだから」
からかうようにそう言うと、「いや、このシーンはさすがにグロイから……」
と、顔色を悪くした瑠衣が口を出してきた。
「え、そう?」
画面を見てみると、ゾンビたちが次々と生き残った人間たちを食べている。
血や内臓が飛びちり、眼球が転げ落ちる。
それを見ていた瑠衣は「おぇっ……」と舌を出した。
瑠衣は冬とは正反対で男らしい顔つきと体格をしている。
よく日焼けした肌は小麦色で、こちらも女子生徒から人気のある生徒だった。
見た目は正反対な2人だけど、よく聞く音楽や好きな科目が同じと言う事ですぐに仲良くなったようだ。
「ほんと、モコはこういう映画得意だよね」
画面から視線を逸らせたままの舞美が感心したようにそう言って来た。
「ま、まぁね……」
あたしは曖昧にほほ笑んでそう答えた。
あたしがこういう映画に慣れているのには理由がある。
でも、その理由は言えないんだ。
だって……。
「キャァァ!!」
突然楓が悲鳴を上げてあたしにしがみ付いて来た。
画面を見るとゾンビのドアップが映し出されていて、大きな効果音と共に人間を食い荒らしている。
「と、止めようか?」
あたしは慌ててリモコンに手を伸ばし、映画をストップさせたのだった。
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