極道、ニチアサで無双する

椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞

第1話 極道、戦隊になる

 ある朝目覚めたら、ワシは知らん天井を見上げていた。


「どこやねん、ここは?」


 たしかワシは昨日、シノギであるキャバクラの視察に向かう途中だったはず。そこでバケモンに襲われていた、トー横キッズのJKを助けたんだったな。ビール瓶割って、怪物の顔面にぶっ刺した。しかしワシも反撃されて、気を失ったんだっけ。


 ワシは酒が飲めない。だから、あれは悪夢だと思っていたのだが。


「目覚めたか、番原バンバラ ギン」


 昭和特撮に出てきそうなカイゼルヒゲのおっさんが、寝ているワシに声をかけてくる。


「君は今日から、【特捜戦隊 ブレイブファイブ】の一員となってもらう。わたしはその隊長だ。変身はしないが、私が指揮を執る」


【ブ】が多いな。


「戦隊やと? ワシもう、四〇前やぞ? ニチアサで喜ぶ歳とちゃうんじゃ」


「我々がテレビで見ている世界。あれは、現実の出来事だ。別世界線のどこかでやっている事実を、こちらで特撮として再現しているのだよ」


 ホンマかいな、と思ったが、黙って聞くことにしよう。


「それはええわ。なんでワシやねん?」


「君は、昨日の出来事を覚えていないのか?」


 たしか、JKを助けたことは覚えているが。


「おっさん、大丈夫なの?」


 昨日助けたJKが、ワシに呼びかける。


「おお。お前無事やったんか?」


 半身を起こして、ワシは返事をした。


「うん。ごめんなさい」


「こういうときは、おおきに言うんやで?」


「お、おおきに?」


 イントネーションが若干違うが、まあいい。


「彼女は、黄花オウカ レイ。戦隊のイエローだ」


 隊長が、少女をワシに紹介する。この娘が、戦隊だと?


「他のメンバーを紹介しよう」


 ワシの前にいたのは、JKだけではない。


「彼は赤井アカイ 太郎タロウ。レッド担当」


 頭の悪そうな大学生風の男子が、赤い戦隊スーツを着て顔だけ出している。


群青グンジョウ 麻美アサミ。彼女はブルーで、現役の警察官だ」


 黒いパンツスーツの女は、ワシに反抗的な視線を向けて立っていた。


「グリーン担当の、緑川ミドリカワ 富戸フト


 太った男が、柱からずっとワシを覗いている。


「ピンクはおらんねんな?」


「まあポリコレとか、色々あるからな。追加戦士でもできて、ピンクがやりたいと言うなら、その限りではない」


「めんどくさい世の中やで」


 戦隊で、ピンクさえさせてもらえないとは。ワシのガキの頃とは大違いだ。


「ワシは、何色やねん?」


「シルバーだ」


 銀色か。それも、時代だな。最初から、金銀戦士が加入してくるなんて。普通は、追加戦士がなるものだろう。


「司令官、私は反対です! 反社が戦隊に加わるなんて」


 ブルー担当の女性刑事が? ワシに突っかかってきた。


「せやな。アサコの言う通りや」


「麻美です」


 瞬時に、麻美が訂正をする。ツッコミ検定は、合格だ。


「この戦隊は、反社に世界平和をさせるつもりなんですか?」


 それは、ワシも思う。言い方は、気に食わないけど。


「麻美くん。ずっとテレビのない暮らしをしてきた君は知らんだろうが、戦隊には海賊もいる」


 司令官の話を聞いて、麻美は初めて知ったような顔をした。


 案外、常識だと思っていたのだが。ブルーは第一線で活躍する俳優で、イエローは有名な声優だし。


「反社が仮面ライダーだったこともあるんだぞ?」


『知っとるわ、そもそもあのライダーは敵やったやんけ』という言葉は、飲み込んでおく。ワシも特撮マニアと、気づかれたくないからだ。


「とにかく司令官。彼を脱退させてください。みなさんは、どうお考えですか? レッド?」


「強かったら、別にいんじゃね? オレは別に、誰が戦士でも構わないよ」


 こいつは、典型的なアホレッドだな。おふくろさんの腹の中へ、知性を置き去りにしてしまったタイプである。それゆえ、ポテンシャルはべらぼうに高いのだが。


「ぼ、ボクは、あまり乗り気では、ない、です」


 グリーンは、はっきり話せないタイプのようだ。まだ柱の向こうにいる。


「あたしは、賛成」


 イエローは、ワシに好意的だ。助けられた恩があるのだろう。


「気を使わんでええよ。なにより、ワシ自身が反対やねんからな。組に帰らせてもらうで」


 ワシが出ていこうとすると、司令官がワシの肩を掴んだ。


 振り切れない。なんというパワーだ。相手はワシより背が低く、歳も一〇歳くらい上だろうに。まるで、石にされたかのように動けない。


「しかし、君のことは親分から任されているのだ」


「オジキが?」


「そうだ。君の戦闘力、化け物を相手にしても物怖じしない度胸、なにより、弱い人を守ろうとする正義の心。君は戦隊向きの性格だと思うがね?」


「オジキが、そないいうたんか?」


 ワシは、司令官を睨む。


「実際に聞いてみたまえ」


 司令官が、ワシから手を放す。


 即座にワシは電話をかけた。相手はオジキだ。


 しかし、返ってきたのは「破門」の一言である。


「なんでじゃオジキ!? キャバクラの視察に間に合わんかったからか? 今すぐ向かいますさかいに! もしもし? も……」


 ダメだ。通話を切られた。着拒までされたし。


「君は、戦隊になるしか道はない」


「冗談やない! 誰が戦隊になんかなるんじゃ!」


 ワシは、基地を飛び出す。


「おっさん!」


 JKのレイが後ろから声をかけてきたが、ワシは振り返らない。


 けたたましいブザー音が、基地の廊下にまで響き渡る。


「近くで怪物発生。ただちに現場に向かってくれ」


 ワシを置いて、みんなは戦いに向かったらしい。


 知るもんか。あんなのは、選ばれた勇者がやればいいのだ。


「なんやねん!」


 ヤケになって、ワシは公園に落ちていた空き缶を蹴り飛ばす。


 缶はクズカゴに入る直前、化け物の背中に当たった。


「ブルルルルルゥ。ゴミはゴミ箱にってさぁ、ママに教わらなかったぁ?」


 下品な顔のイカ怪物が、こちらを見る。


「じゃかあしい! 今のワシは、機嫌が悪いんじゃ!」


 イカ怪物は、少女を小脇に抱えていた。


「おどれは、こんな小さい子をよってたかっていじめとるんか?」


「はあ? この娘は我が秘密結社の一員となるため、英才教育を施すのさ。人殺しも躊躇しない、エリートにね。ブルルルゥ。邪魔をするなら、許さないよ。みんなでやっちゃって」


 凄むワシを、戦闘員が取り囲む。


 もう許さん。


 カタギに手を出す反社は、重罪だ。極道の風上にも置けない。


 戦闘員たちが、ワシに襲いかかってきた。


「あっけないねえ。秘密結社に一人で挑むなんて」


「せやな。こんな数でワシに挑もうなんてな」


 ワシはクズカゴを持ち上げ、イカの怪物に一撃を食らわせる。


「ぎゃん!」


 怪物が、少女を手から離した。

 母親らしき女性が、少女を抱きしめる。


「あいたた。ここまで強い人間がいるなんて、たまらんねえ。ここは、一時退散かなー?」


 イカ怪物が、市街地へ逃げていく。


 あそこは、戦隊が戦っているではないか!




 しかしあいつら、なんで捕まっているんだ?

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