夏休みの計画

「ふー、疲れたわ」


 わたしが一学期の期末試験を終えて寮の自室に戻って羽を伸ばすと、アイが紅茶を入れてくれる。


「期末試験の勉強、お疲れ様でした」


「ありがと」


 アイの入れてくれた紅茶は熱くも温くもなく、完璧としか言えない入れ具合だ。


 わたしは紅茶を飲む。


 この甘い紅茶が期末試験で酷使した脳細胞を蘇らせてくれるわ。


 甘いクッキーも疲れを癒してくれる。


 試験の後にすぐに行われた採点でわたしの点数は学年一位でアイの点数は学年二位でウィリアム王子は学年三位だった。


 ウィリアム王子よりも期末試験の点数が良かったことで、勉強嫌いがバレて見限られるダメ子ちゃんルートに進む危険も当分無くなって一安心だわね。


 わたしは当分ウィリアム王子の婚約者で居られ続けると、ほっと肩を撫でおろす。


 学年二位の成績を残したアイに、わたしは労いの言葉を掛ける。


「試験勉強、大変だったわね。よく頑張ったわ」


「アイビス様とずっと一緒に居られたのでアイはお勉強が苦になりませんでした。むしろご褒美です」


「そ、そうなのね」


 アイはほんとうにわたしのことを慕ってるわね。


 アイと紅茶を飲みながら雑談していると、部屋にウィリアム王子付きのメイドが入って来た。


 確か名前はメアリーだったと思う。


「ウィリアム王子より、至急王子の部屋に来るようにとのお言付けです」


「なんの用事だろ?」


 期末試験でいい成績が残せたので婚約破棄は無いだろうけど、なんの用事なんだろう?


 ウィリアム王子よりわたしの方が成績が良かったからプライドをへし折っちゃって怒らせちゃったかな?


 いや、でもまじめに勉強した結果だからそんなくだらないことでウィリアム王子が怒るとは考えにくい。


 それにウィリアム王子は勉強だけじゃなく公務もこなしてたしね。


 メイドさんはどのような用事か聞いてないらしい。


「特に要件はうかがっておりませんが、お急ぎのご様子でしたので至急ウィリアム王子の元にお願いします」


 わたしはなんで呼ばれたのかわからず、アイとウィリアム王子の部屋に向かうことにした。


 *


 ウィリアム王子の部屋に出向くとウィリアム王子の他にチャールズ王子も居てなにかを話し合っていた。


 ウィリアム王子はわたしの顔を見ると労いの言葉を掛けてくる。


「期末試験でトップの成績だったらしいな、おめでとう。俺も勉強を頑張ったけどアイビスには敵わなかった。完敗だ」


 リルティアのゲームの中では自信過剰な俺様キャラだったウィリアム王子。


 ゲームの中の彼ならば、他人がどんなに優れた結果を残しても評価することなんて無かった。


 ゲームの中のウィリアム王子とは姿形すがたかたちは似ていても全くの別人なのは間違いない。


 わたしも謙遜けんそんしてウィリアム王子を労う。


「ウィリアム王子は公務もこなしてる中での勉強でしたから、家庭教師を付けて勉強漬けだったわたしとは条件が違い過ぎますわ」


「そう言われると救われるな」


 まあ、わたしにフランシスカという家庭教師は付いていたけど、彼女の『取得経験値10倍スキル(範囲)』スキルの恩恵は受けたものの勉強らしい勉強は一切教えて貰ってなかったからわたしの努力の賜物たまものと言っても言い過ぎじゃない。


 ウィリアム王子はわたしを呼び寄せた目的を話し始める。


「試験を頑張ったアイビスに褒美って訳じゃないんだけど、夏休みに俺たちで別荘へ旅行に行かないかと思うんだ。俺とチャールズ、アイビスとそしてアイとだ」


 それを聞いたアイがわたしの腕をぎゅっと抱きしめてくる。


「アイビス様、わたしと婚前旅行に行きましょう! 絶対に行くべきです!」


「アイとの婚前旅行じゃないし! それにウィリアム王子は公務で忙しいのよ」


 わたしはウィリアム王子の公務が忙しいので旅行を断ろうと思った。


 それに王子が二人も揃って旅行に行くとなれば、結構な数の護衛も引き連れて行かないといけないからそう簡単に旅行へなんて行けない。


「それなら問題ない」


 と、ウィリアム王子。


「この旅行の為に前倒しで公務を片付けておいたんだ。俺への慰労も兼ねて旅行に参加してくれ」


「それに旅行合宿で俺たちの夏休みの自由研究もしないとな」


 チャールズ王子も旅行に乗り気だ。


「合宿なの?」


「名目上はな。学園長と王様おやじとも話し合って、夏休みの自由研究をする為の合宿ならば別荘に行っていいことになったんだ」


 なるほどねー。


 ウィリアム王子はそこまで先を見据えて準備万端に根回しをしていたってことなのね。


 それならば、断る理由は無いわね。


 わたしはウィリアム王子の旅行計画に参加することにしたの。


 *


 それから三日後、一学期の終業式も終えて別荘に向かうことになったわたしたち。


 駐馬場には護衛の騎士さんと旅行のメンバーが集まっていたんだけど……。


「旅行楽しみだわね」


「な、なんであんた迄参加するのよ? 夏休みの間は修道院に帰りなさいよ」


 家庭教師のフランシスカが付いて来ていた。


「そんな冷たいこと言わないでよ。あんな監獄みたいなとこには帰りたくないの」


 わたしたちの他にフランシスカも付いてくる気満々だった。

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