魔法の特訓

 屋敷の中で一番治癒魔法に長けた治癒師が呼ばれた。


 名前はクレア。


 今年20歳になったばかりの平民の若い女性の治癒師だけど、治癒師としての実力はコールディア領内でもトップクラスとの評判なの。


 その治癒魔法の実力があるのでわたしのお屋敷雇ったのよね。


 クレアを魔法の先生に指名したのは2つ理由がある。


 ひとつ目の理由はわたしたちが受験する水晶学園の卒業生なの。


 今まではゲームのリルティアや噂レベルでしか知らなかった水晶学園の受験事情を聞くのは最適と、魔法の先生になって貰ったってわけ。


 もう一つは魔法の得意な攻略キャラに教えて貰ってもいいんだけど、これ以上攻略キャラとのフラグを立てたくなかったので攻略キャラと関係ない人にお願いしたってわけ。


 わたしの部屋に現れたクレア先生は頭を下げた。


「クレアと申します。アイビスお嬢様の教育係にご指名頂いてありがとうございます」


 わたしはクレアを先生として呼んだ目的を説明する。


「わたしとアイが水晶学園を受験することになったので魔法の先生をして欲しいのよね」


「なるほど、それで水晶学園出身のわたくしを呼んで頂けたのですね」


 クレア先生は少し考えた後に話を続けた。


「でも、アイビス様もアイ様もどちらも貴族でありますので、平民のわたくしと違って魔法の鍛錬は必須ではなくて、学力試験だけで入学出来ると思います」


「入学だけならばね。アイは上級貴族クラスへの編入を狙っているし、わたしも学園の授業についていけるように今から魔法を鍛えたいのよ」


「なるほど、鍛錬の目的と目標はわかりました」


 クレア先生はそう言うと中庭のガゼボへわたしたちをいざなう。


 ガゼボって言うのは西洋風の東屋あずまやのことね。


 異世界物とか西洋物のゲームやアニメなんかで、お茶会をする時に使う白い屋根付きの壁無しの小屋みたいなあれよ。


「今は春前なのでちょっと寒いですが、魔法の実習は屋内でやると火事になるのでガゼボを教室とします」


 炎の呪文でボヤ騒ぎを起こしたら、いくら娘に優しいお父様でも魔法の禁止を言い渡されるものね。


「攻撃魔法練習用の標的は後日用意しますので、今日は魔力測定をしましょう」


 クレア先生は屋敷の宝物庫から持って来た綺麗な木箱から魔力測定用の水晶を取り出す。


「アイビス様、この水晶に手をかざして下さい」


 わたしは言われたまま、水晶に手を載せる。


 するとクレア先生は感嘆の声をあげる。


「ほぅ」


「どうしたの?」


 リルティアのゲームの中ではアイビスが魔法を使う描写は無かったので、魔法の素質があるのかないのか分からなかったの。


 ゲームの中ではおしゃれとマリエルに嫌がらせをするしか能のなかったアイビスとして生きている以上、魔法の素質が無いのは覚悟をしている。


「いえいえ、凄まじい素質です」


 それを聞いてわたしはひと安心だ。


「治癒以外の7属性の素養持ちで、魔力もわたくしを遥かに超えていて、もしかすると領内で一番と言われるわたくしの弟に匹敵するかもしれません!」


「そこまでなの?」


 魔法の素質があると聞いてわたしはかなり気分がいい。


「次はアイ様お願いします」


 続いてアイが水晶に手を載せる。


 するとクレア先生がまたまた唸る。


「これは……」


「どうしたの?」


 もしアイに魔法の素質が全く無かったら上流貴族クラスに入るのは厳しいことになるわね。


 そうなるとアイがクラスメイトになることは出来ずにかなり困ったことになる。


 この世界でアイに出会った時にわたしが階段で転んでアイが治癒魔法を掛けてくれたけど、かなり魔力が弱いと言っていたのが気になる。


「いえ、アイ様は剣技に秀でてると聞いていましたので、もしかすると魔法の素養は無いのかと心配していましたが、アイビス様ほどでは無いにしろかなりの魔法の素養があると思います」


「そうなの?」


「剣技に秀でる人は大抵の場合、魔法が使えないのが一般的ですが、アイ様の魔法の素養は火と雷の2属性持ちですね」


 あれ?


 アイって治癒魔法を使えたんじゃなかったっけ?


 わたしの記憶違いかな?


「アイって治癒魔法を使ってなかったっけ?」


「アイは治癒魔法をだけ少し使えます」


 それを聞いてクレア先生は驚く。


「アイ様は素養が無い治癒魔法を使えるのですか? そんな人、初めて見ましたよ」


 素養のない治癒魔法まで使えるアイって実はとんでもないんじゃないの?


 わたしはアイを尊敬の眼差しで見つめた。

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