模擬試験の勝敗

 模擬試験開始の合図の鐘が鳴り1科目目の試験が始まった。


 模擬試験の学科は3大座学と言われる歴史、文学、魔術だわ。


 ゲームのリルティアの中では8つあるクイズのジャンルの一部だけど、この世界で座学の試験と言えばこの3つになるとビリーくんから教えて貰ったの。


 1科目は歴史の試験。


 これはリアルの世界の試験の歴史とほぼ同じで、リルティアの歴史に関する問題が20問ほど出題されるの。


 選択問題が10問、穴埋め問題が7問、記述式問題が3問で全部が選択式問題のクイズだったゲームの中とは違う。


 これを1時間で回答しないといけない。


 記述式問題は減点されないように完璧な回答文の作成をするのに少し手間取ったけど、問題自体はひっかけ問題も無く素直な問題で試験開始から10分もせずにすべての出題を回答し回答の見直しもした。


 監視員に回答用紙を渡し、アイを見てみるとアイも既に回答用紙の回答欄を全て埋めていたようでソファーでお茶を飲もうと目配せをする。


 模擬試験の回答をわたしもアイも終えたことを知ったウィリアム王子は驚きを隠せない。


「もう終わったのかよ。難しくて棄権するのか?」


「全ての問題の回答が終わったのよ」


「嘘だろ? もう終わったのか?」


 ウィリアム王子は自分の回答用紙が殆ど埋まってないのにわたしが回答用紙を埋め尽くしたことで狼狽えている。

 

「回答の見直しはしたのか?」


「3回ほどね」


「嘘だろ……そんな短時間で見直しまで終わってるなんて……」


 動揺を隠せないウィリアム王子は小刻みな震えが止まらない。


 ソファーでお茶休憩をしながらウィリアム王子を観察していると時々頭を抱えたりうなったりしながら回答欄を埋めているようで、かなり苦戦しているようだ。


 一科目目の試験時間が終わると、試験に全力をつぎ込んだ王子は疲れ果てて放心状態気味に机に突っ伏していた。


 回復ポーションを飲み終えると、気力を振り絞ってわたしに文句を言ってくる。


「あの難問をあんな短時間にとけるわけが無いだろ。おまえもメイドもカンニングをしたな」


 自分が回答に苦労したからって、自分基準でわたしが不正をしたと決めつけてくるのは最低な男ね。


「王子が横に座ってるのにカンニングをするわけないでしょ。それにあんな問題楽勝よ」


「あの問題が楽勝なんて嘘だろ……。今回の問題はアイビスに0点を取らせるために特別に作らせた高難度の問題だぞ?」


 力を振り絞って監視員になにか指示を出すウィリアム王子。


 次の試験では今までこの部屋全体で1人だった監視員が2人増員し3人になった。


 受験生1人につき監視員1人だ。


「これでもうカンニングは出来まい」


 勝ち誇るウィリアム王子だけど自分に実力が無いのを棚に上げて他人を疑うのって最低な男ね。


 婚約解消して正解だったわ。


 2科目かもくは文学の模擬試験。


 この『文学』と言う科目は日本でいう国語の文学的な科目と言うよりも社会や雑学や常識といった問題を纏めた感じで割と出題範囲が広いので1時間目の歴史よりも厄介だ。


 当然、参考書を丸暗記したアイもリルティマニアのわたしもあっという間に回答用紙を埋めた。


 王子はそんな訳は無いと言った感じで監視員に不正の事実を確認するけど当然証拠は出てこない。


 だってカンニングなんてしてないんだから証拠が出るわけがない。


 3科目目の試験もすぐに終わった。


 魔法陣を描くのに少し手間取ったけど、散々リルティアの中で見て来た魔法陣だから楽勝だったわ。


 試験が終わった後にまた王子に絡まれるのが嫌だったわたしたちはそのまま試験場を後にし屋敷へと帰ったのであった。


 *


 翌日、ウィリアム王子がわたしの屋敷にやって来た。


 あのムカつく顔を見たくなくて昨日は早めに試験会場を後にしたのに、なんで来るのよ。


 アイもあからさまに嫌そうな顔をする。


「きっと、また有りもしない証拠でカンニングをしたと絡んで来る」


「元婚約者の王子とはいえ、これ以上あらぬ疑いを掛けられないようにお父様経由で王様から少し厳しく言ってもらわないとダメかもしれないわね」


 なんてことを言っていたんだけど……。


 ウィリアム王子は昨日の試験の答案を持っていた。


「昨日は採点を待たずに先に帰ってしまってダメじゃないか」


 わからない問題はなかったから採点をせずとも満点近い結果だったのは間違いないと思う。


 さすがに、王子が絡んで来るのが嫌だったから先に帰ったとは言えるはずもない。


「またカンニングをしたから、あの模擬試験は無効だと言いたいのですか?」


「いや、監視員からあの回答速度では不正をする時間は無かったとハッキリと断言された」


「じゃあ、試験の結果を認めてくれるのね」


「ああ、認める。きみの完勝だ」


 試験結果はわたしが300点満点で、アイが292点、ウィリアム王子は271点だったそうだ。


「僕は今まで模擬試験で最高得点をマークし続けたけど、ここまで君との点数の差が開くとは思いもしなかった。自分のおごたかぶりを反省するよ」


 ちなみに今回の模擬試験は問題の難易度を上げ過ぎたせいか0点の受験生が続出で、平均点は36点でウィリアム王子の次点の受験生の成績は156点だったそうだ。


 ウィリアム王子が指を鳴らすと、お付きの者の集団が馬車から現れウィリアム王子に紙の束を渡す。


 それはどう見ても反省文。


 婚約の破棄してくれた今となってはどうでもいいものだった。


「これが今の僕の気持ちだ。受け取って欲しい」


 反省文の束をめくりながらわたしはウィリアム王子に苦情を言う。


「あの場で不正をしていないと何度も言ったのに、今更こんな反省文を渡されても困りますって……」


 わたしは反省文を読み進めると立っていられなくなり、思わず顔を真っ赤にしてその場にうずくまってしまった。


「アイビス様、どうしました?」


 かけ寄るアイ。


 わたしは俯きながら無言でアイに紙の束を渡す。


 アイは反省文に目を通すと同じく顔を真っ赤にする。


「『きみは輝ける太陽ような美の女神であり、知的な月のような知の女神であり……、そんなアイビスのことが気になって夜も寝れません。僕と再び婚約してください。』って……この分厚い紙の束はラブレターじゃないですか!」


 わたしはうずくまりながら文句を言う。


「ラブレターを封筒に入れずに紙の束で渡してくるって、そんなデリカシーの無いことする男の人なんてあり得ないです!」


 喜んでくれるとばかり思っていた王子は意外だという表情をする。


「きみへの思いを書き綴っていたら封筒に入らない枚数になってしまったんだったがダメだったか? ならば、こちらはどうだ?」


 指をならすと馬車からお付きの者が現れて、アイビスの前に花束の山を築いた。


「僕は君にほれ込み直した。ぜひとも再婚約してくれ!」


 ええ~!


 再婚約って……そんなバカな!


 こうしてわたしアイビスはウィリアム王子から距離を取ったつもりが再びプロポーズを受けることになったのだった。

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