受験勉強

「アイも勉強よ!」


 なぜかアイビス様はアイに勉強しろと命令します。


 アイは今まで勉強なんてしたことが無いので、興味が無いことを学ぶと言うことがこんなにも辛いことだとは思ってもいませんでした。


 わからないことをお勉強しようとしても、どこがわからないかサッパリわからない状態です。


 こんな事を続けていても無駄なのでお勉強をやめる許可を貰うためにアイビス様に頼み込んでみました。


「アイビス様。アイはアイビス様に聞きたいことがあります。少しよろしいですか?」


「今忙しいのよ……」


 アイビス様がまともにお願いを聞いてくれないので、アイは言葉尻を強めて繰り返します。


「お願いです、アイビス様。アイの話をちゃんと聞いてください!」


「なによ?」


 泣きそうな顔で訴えるアイを、アイビス様は辞書並に分厚い参考書と格闘しながら聞いてくれました。


「アイビス様が水晶学園入学する為にお勉強するのはわかります。でも、なんでアイまでお勉強する必要があるんですか? アイにお勉強は必要ありません」


 するとアイビス様は即答しました。


「アイも学園に通うためよ。わたしと一緒に学園に通うんだからその為の勉強よ」


 えっ?


 そんなことのために勉強をさせられてたんですか?


 予想外の返答に思わず間抜けな声がアイの口からこぼれそうになりました。


 アイが学園に通うためにお勉強が必要って……。


 アイビス様のお供として学園に通うだけなのでお勉強は不要なのです。


「アイはアイビス様のメイドです。入学試験を受けなくともアイビス様のお付きの者としてアイビス様について学園に通うことが出来ますのでアイにお勉強は不要なのです」


「なに言ってるのよ、アイはメイドとして学園に通うのではなく、わたしと同じ学園の生徒クラスメイトとして入学するのよ」


 それを聞いてアイはびっくりしました。


「なんでアイが生徒として学園に通う必要があるんです?」


「わたしのクラスメイトになるためよ。アイはわたしのクラスメイトとなりたくないの?」


 アイビス様のクラスメイトになれるのですと!


 アイビス様と席を並べてお勉強。


 アイビス様と手を組んで汗を流す体育の授業。


 そしてお昼はアイビス様と同席してご飯を食べさせ合う!


 そんなの聞かれなくても答えは一つです。


 アイビス様のクラスメイトとなって学園に通えるならどんなに楽しいことでしょう。


「ぜひぜひぜひぜひ、お願いします!」


 アイは首をぶるんぶるんと上下に振りながらアイビス様にお願いしました。


 アイビス様のクラスメイトとなれるなら……アイはお勉強のやる気ゲージがめちゃくちゃ上がりました!


 やる気はゲージ上限を突き抜けて、限界突破です!


 死ぬ気でお勉強して必ずや学園に生徒として入学してみせますとも!


 でもなんでメイドのわたしをクラスメイトに誘うのでしょうか?


 少し謎なので聞いてみました。


「アイにクラスメイトになってもらうのは24時間わたしを守るためよ」


「アイビス様を守るためですか?」


「生徒じゃなきゃついて来れないイベントや場所もあるんだから、警備としてどこにでもついて来れるように生徒として入学しなさい」


「なるほどです。メイドであればアイビス様のお供に付いていけると思っていたアイの考えは浅はかでした」


 感動しているアイには悪いけど、仲間として数に入らないメイドではなく信頼できるクラスメイトとして断罪から守ってくれる仲間が欲しかったアイビスなのであったのだ。


 *


 アイはしばらく参考書を読んでみましたけど、気合いだけではサッパリ参考書の内容ががわかりません。


「アイビス様、アイは勉強がサッパリわからないので少し教えて下さい」


「無理!」


 一言でバッサリと断られたアイは狼狽うろたえます。


 あまりにも冷たいお言葉。


 背筋がゾクゾクして気持ちいいのですが、今はそんな感覚を味わっている時ではありません。


 どうにか勉強をして学園に入学しないといけません。


 アイはアイビス様に泣きつきました。


「なんで勉強を教えてくれないんですか? アイビス様、アイを見捨てないで下さい」


「安心して、アイを見捨ててるわけがないわ! どんな時も一緒よ!」


「アイビス様……」


 アイはそれを聞いて感動のあまり目に涙を浮かべるけど……。


「では、なんでアイに勉強を教えてくれないんですか?」


「無理なの!」


 どうしてなんですか、アイビス様!


 アイをそばに置いて苦しんでいる姿を見たいだけなのですか?


 それともアイビス様はアイが学園生活でどんな困難に直面してもくじけぬ心を持てるように試練をお与えになっているのですか?


 そうなのですね。


 それならばアイも全力でお勉強を頑張ってみます。


 そう気合を入れたアイでしたが、アイビス様はお勉強を教えてくれない意味を教えてくれました。


「わたしも勉強がサッパリわからないから、教えたくても教えられないのよ」


 アイビスの余計な一言で感動の涙は吹き飛んだ。


 『駄目じゃん!』との叫び声が心の中で鳴り響くアイであった。

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