ALTERIOR

@veryweak-stickman

出会い

第1話 アルテリア

雫が空から降り注ぐ、蒸し暑さの帯びた7月のことであった。


建物の影に隠れた所、冷たい壁に寄り掛かるように座った男が、くたびれた軍服に似合わぬ新品の靴に紐を通していた。男というよりも、少年の方が適した年齢である。先ほど購買で買ったその靴の隣に、履き潰した靴が一足、きちんと並んで揃っている。土に汚れた、しかしまだ幼さの残る指で、彼は左右の紐の長さを均等に揃え、穴に通してゆく。


彼はこういった単純作業や、取り止めもない(しかもくだらない)ことを考えることに没頭するのが好きであった。そうすれば、現状の行き場のない不満から逃れられたからだ。


「リョウ、靴買ったのか」


少しでっぷりとした金髪の男が、無精髭を撫でながら歩いてきた。


「・・・・・・父さん」


「なぁに、そんなに警戒しなくてもいいじゃないか。別に少しくらいの贅沢には目くじらは立てんよ」


彼は快活な笑い方をしていたが、しかしリョウの目には、その父親の笑いにすら警戒が露わになっている。


「そうだ。お前に招集がかかってる。30分後までにB棟前のテントに来い」


「はい」


少年は会話が終わったことに心底安堵した。


靴を新調したことと父に呼ばれたことを天秤にかけた結果、彼の心持ちは、しかしどうにも重苦しさが残ったらしい。テントに向かう彼の足取りは重苦しかった。


「失礼します」


中には、ケーブルに繋がれた人型のロボットと、それを取り囲む研究者の姿とがあった。


「ああ、来たかい。これが今回君にテストしてもらう試作兵器だよ。型番XMPA-04CAアルテリア——強襲偵察複合型MPA(Multiple Purpose Armor)だ。試作機ってどころか、兵装自体も試作型の超不安定なゲテモノだけどね」


「はあ・・・・・・」


「安全性のテストをしてほしい」


「了解。・・・・・あれ?」


アルテリアに近づいたリョウは、あることに気が付いた。


「バッテリーがありません」


既存のMPAはバッテリー駆動である。また消費電力が非常に高く、増加装甲を兼ねてバッテリーを装甲外面に大量に取り付けるのでかなりずんぐりとしたシルエットになるはずなのだ。しかし、アルテリアにはそれがない。


「背中にバッグがあるだろ?新型のエネルギーバッグになってるんだよ。半永久的にエネルギー供給ができる。ささ、早く乗って」


背部が2分割され、人一人が入れるほどのスペースができる。リョウがそこに入ると背部は閉じ、眼前のモニターが起動した。


「——Quantum computer starting. Generator active. Bio computer  unavailable. Alternative computer “Byakuya” online.——」


XMPA-04CA “ALTERIOR” active.


アルテリアが起きた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る