晴れた夜空に光る一番星
砂鳥はと子
第1話 故郷大好き娘、春を迎える
今日は何故か目覚ましが鳴る前に、目が覚めた。カーテンの隙間から日差しが伸びて部屋を横切っている。
私はそっとベッドを抜け出して窓によった。まだ眠っているルームメイトを起こさないように、カーテンの向こう側に潜り込む。
窓の向こうには薄紅色の花をたわわに咲かせた桜の花が見えていた。風に舞って飛んできた花びらは、寮のベランダにも点々と落ちている。
鍵を外して窓を開ければ、朝の清々しい空気がゆったりと流れ込む。春の香りがした暖かな空気。
今頃の
静岡での二度目の春がやって来た。
「よーし、今日も一日がんばるぞー!」
柔らかな太陽に向かって私は拳を突き上げた。
「
カーテンをめくって振り向くと、毛布から顔だけ出して芋虫みたいになっているルームメイトの
「ごめん、ごめん」
私は手を合わせて必死に謝り倒す。
「朝から元気だねー、晴花は」
「なんか四月に桜咲いてるのって新鮮だなーって⋯。朝の日差しにきらきらして綺麗だよ」
「あー、晴花の地元って青森だもんね。あっちはゴールデンウィークにならないと咲かないんだっけ?」
「最近はもっと早く咲いて、ゴールデンウィーク前には散ってることもあるけどね。カーテン開けてもいい?」
「ふぁ〜い、いいよぉ〜」
雫ちゃんがあくびをしながら起き上がったのを見て、私はカーテンをがっと一気に開けた。
春の光が部屋いっぱいに広がる。
「こんな日はいいことがありそうだよね」
なんか植物が太陽光で育つのが分かる気さえする。
「いいこと? あるといいね。例えば恋の出会いとか〜?」
ニシシと笑って雫ちゃんが私をじっと見ている。
「うーん、恋の出会いとかってよく分かんないなー」
「私たちも、もう中二なんだから、そろそろ色恋の話があってもよくないですかねぇ」
出会った時から『恋』に偉大なる関心があるらしい雫ちゃんが、遠い目をしている。
私たちが通う
だから恋の出会いなんて外に出なきゃないかというと、どうもそうでもないみたいで。
けっこう女の子同士の恋もあるとかないとか、たまにそんな話も聞こえてくる。
雫ちゃんは女の子同士の恋に憧れがあるみたいだった。
「私はそれより、『東北文化研究会』の新入部員と出会いたい!!」
今は卒業生して地元に帰ってしまった私の姉、
弥生姉は「晴花は私の妹だからって『東北文化研究会』に入らなくてもいいのよ。星花はたくさん部活もあるし、好きな部に入りな」と言ってはくれたけど⋯。
でもでも、私は大好きな
そのためにはやはり『東北文化研究会』を今より少しでも育てて大きくしたい野望がある。
だから何だかよく分からない恋の出会いなんかより、新入部員の獲得の方が百倍は大事ってわけで。
「本当に晴花って色気もへったくれもないね。年頃の乙女は恋するものなんだよ! 素敵なお姉さまとの出会い! これぞ青春でしょうが!」
雫ちゃんは若干引き気味ながらも、最後は拳を握って力説した。どうも年上のお姉さまに夢を見ているらしい。
「あのね雫ちゃん、青春っていうのは恋だけじゃないんだよ! 部活に学園のイベントに、ねぷた祭りにりんごに
私は最後に頭上に手で三角屋根を作って見せる。
「何、その山みたいな変なポーズ!」
「山じゃないよ! これは東北で唯一天守が現存している鷹岡城を現してるんだよ!」
「城のポーズする星花生なんて晴花しかいないわー。あと、ねぷた祭りは
「ないからもっと宣伝しなきゃいけないの! この春からも!」
これから始まっていく新しい年も、私は故郷を宣伝する。これは絶対に曲げられない私の信念!
食堂で朝食を食べて、部屋に戻って登校するために支度をする。
私はカバンを肩にかけてストラップのぬいぐるみ、りんりんちゃんをなでた。
(今日もいい一日になりますように)
これは登校前のちょっとした儀式。
ちなみにこのりんりんちゃんは、私の故郷である
小学生最後の冬休みに弥生姉がくれた、私のお気に入りだ。
「晴花、そろそろ学校行くよー」
「はーい、今行きまーす」
雫ちゃんに呼ばれて私たちは寮を出た。
登校する生徒たちとおはようの挨拶を交わしながら、校舎へ向かう。
時折風が吹いては、桜の花びらが降り注いだ。
「ねぇ、雫ちゃん」
「なにー?」
「やっぱりさ、東北や青森を大々的に多くの人に知ってもらうには、新聞って効果的だと思うんだよね」
「あー、晴花、新聞作るの好きだもんね」
「そう、それはそうなんだけど。でもさ、個人で作る新聞には限界があるんだよ。寮のエントランスに置いてもらっても手に取ってくれる人なんて、ほとんどいないし⋯」
「晴花に知名度があったら別かもね」
「そう、私には知名度がないんだよ〜。だからさ、新聞部に売り込みを仕掛けたいんだよ!」
星花には新聞部がある。新聞部が発行する新聞は、私が一人でちまちま作った新聞とは大違いで、多くの星花生も楽しみに読んでいる、学園内の大きな媒体だ。
「売り込みを仕掛けるって、何するつもりなのさ」
「取り敢えず新聞部の人にコンタクトを取って、『東北文化研究会』のことを取り上げてもらえないかなって。そこから東北に興味を持ってもらえたら理想的なんだよね」
「で、晴花は新聞部にツテあんの?」
「⋯⋯ない」
「終わりだねぇ⋯⋯」
「お、終わってないから! これからだから!」
私が最初にやらなければいけないこと。それは新聞部にツテを作ることだった。
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