第5話 ニンフ達の遊興④ 一条美月

 放課後、いつものように、美月と香鈴奈は雑談しながら寮へと続く道を歩いていた。


「香鈴奈、今日はバレー部の練習お休み?」


「部活自体はあるよ! でも、今日は朝練がんばっちゃったからねー。お腹いっぱいデス! 温室で癒されて帰ろ!」


「そ……だね。温室寄ってこ」


「あれれ? 乗り気じゃない?」


 寮への帰り道、温室に寄るのは美月のルーティンだった。

 ガラスの建物内に育成される木々や草花を見るのは、癒しの時間だ。

 香鈴奈と一緒に帰るようになってからは、2人のルーティンとなっていた。


「うん……また渡邉先生居るんじゃないかなと思って」


「そういえば、よく見るね。こないだも居たっけ」


「うん」


「私はバレー部の練習出る時は寄らないけど、美月はほぼ毎日でしょ? 先生も毎日?」


「毎日ではないかな。でも、結構来てる」


「へー、イケメンアイドル先生は植物好きなんだ。まぁ、理科の先生だから普通にあるか」


 かんばしくなさそうに俯いている美月に気づき、


「渡邉先生苦手? 何かあった?」


と香鈴奈は尋ねた。


「特には。あの先生、挨拶の時はにこにこしてるけどあんまり話さないよね」


「そだねぇ。こないだ2人で会った時も、挨拶したのはこっちからだったし……、噂の渡邉スマイルだったよね! で……うん! 話しかけてるのはほとんどこっちわたしだった!!」


「香鈴奈が居る時はさ、香鈴奈が話しかけてると、居なくなるじゃない?」


「うん。渡邉先生、挨拶以外は塩対応らしいよね。私の時も塩ってほどじゃなかったけど、めんどくさそうだったよね。ふふっ。生徒と個人的に関わるの嫌いなのかもねー」


 相手の反応に気づきつつも話しかけちゃってました、と香鈴奈はいたずらっぽく笑う。


「私もそう思ったんだよね。だから、一人の時は、声をかけずに帰ったり、私も来たばっかりの時は、挨拶だけして、後は煩わせないようにしてるんだけど……」


「……話しかけてきた?!」


「いやいや、そーいうことではないんだけど」


 歯切れの悪さに香鈴奈は美月を見つめたまま続きを待つ。

 だが美月は考え込むように黙ってしまった。


「まぁ、放課後にまで先生と関わる時間を持ちたくはないよねー。私はイケメンアイドル渡邉先生に興味あるから大歓迎だけど、美月は興味ないだろし!」


 美月は相槌代わりに香鈴奈に笑いかけた。

 美月の笑顔に、お? 正解? と嬉しそうな表情かおで香鈴奈は続ける。


「温室にいつも高尾先生がいたら、私も寄るの考えちゃうもん!」


「高尾先生、温室絶対来ないでしょ」


「バナナの木植えたら来るかもよ!」


「ゴリラか~いっ」


「ひどっっ! 高尾先生のことゴリラなんて、美月ってば腹黒毒舌!」


「振ったの香鈴奈なのに! はめられた~っ」


 2人は笑いながら温室のドアを開き、中へと入っていった。

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