第3話 恋人との逢瀬
「エーリック様!」
「ウェルシェ!」
それは最愛の婚約者のもの。
居ても立っても居られなくなったウェルシェが
エーリックも喜色を隠さず、満面の笑みでウェルシェに駆け寄りそのまま抱き締めた。
「ウェルシェ、君にずっと会いたかったんだ」
「私もですエーリック様……」
二人は互いの温度を噛み締めるように確かめ合う。
しばし愛しの婚約者に包まれて陶酔していたが、ウェルシェはエーリックの胸に埋めていた顔を上げた。
「……ですが、このところエーリック様はお忙しくしてらして、全然お会いできないんですもの」
私とても寂しかったんです、と愛しい婚約者に少し恨みがましい目で睨まれて、エーリックはむしろデレっとだらしなく
上目遣いでのうえ恨み言がいじらしく、ウェルシェのあまりの可愛さに心臓を射抜かれてしまったのだ。
「ごめんよウェルシェ……僕も寂しかったけど、城内がごたごたしていて時間が取れなかったんだ」
これは事実である。
オーウェンの婚約破棄は高位貴族の子息である側近達も巻き込んでおり、騒動の波紋があちらこちらに飛び火したのだ。
実はエーリックも事情聴取を受けていた。
それと言うのもオーウェンの浮気相手である男爵令嬢アイリス・カオロが、見目の良い貴族子弟に馴れ馴れしく絡むとんでもない女で、エーリックも学園で幾度となく声を掛けられたからだ。
しかも、オーウェンはイーリヤを断罪する際にエーリックにも協力を求めてきた。
もちろんエーリックは断ったし、馬鹿な真似は止めるように忠告もした。
しかし、オーウェンやアイリスと話しているのを大勢の者に目撃されていたエーリックにも嫌疑がかかったのである。
(僕は無関係だって何度も言っているのに!)
この尋問で拘束されていた彼は婚約者に会いたくとも会えなかったのである。
「ふふっ、冗談です」
困り顔のエーリックに悪戯っぽく笑う可愛いさと、「分かっております」と事情を汲んでくれるウェルシェの優しさにエーリックは何度も恋に落ちるのだ。
「大好きだよウェルシェ」
ふわりと穏やかな風が二人を包み、薔薇の花びらがひらりと舞う。
「私もエーリック様を誰よりもお慕い申しております」
二人の視線がしっとりと絡み合い、その距離はゆっくりと近づく。
ウェルシェの熱い吐息を感じ、エーリックの理性は限界を迎え……
「こほん、こほん!」
……咳払いで我に返った。
「殿下もお嬢様も弁えてください」
「す、すまない」
「カミラ!」
ウェルシェの専属侍女カミラにじっとりとした非難の目で見られているのに気がついて、二人は赤くなって慌てて離れた。
「お茶のご用意をしておりますので
態度は
エーリックは苦手とする侍女を不機嫌にさせまいと素直に従って四阿へと足を向けた。
「さあ、ウェルシェ、手を」
「ありがとうございます」
もちろん彼はウェルシェと並んで手を取るのは忘れないが。これはエスコートだからカミラも一瞥しながらも何も抗議はしない。
「ウォルリントの茶葉が手に入ったのです……エーリック様、お好きでしたわよね?」
「ああ、よく覚えていたね」
「エーリック様の事ですもの」
ウェルシェと仲睦まじく会話をしながら席に着けば、カミラが綺麗な所作でお茶と菓子をエーリックとウェルシェの前に配置していく。
カミラに一言ありがとうと礼を述べたエーリックがティーカップを持ち上げれば、ふわりと花の香りが彼の鼻腔をくすぐった。
「ウォルリントは薔薇のような香りがして何だかほっとするね」
「薔薇の香りは気持ちをリラックスさせてくれるんですのよ」
しばし二人はお茶を楽しみながら他愛もない話題で談笑していたが、ウェルシェの方が「そう言えば」とエーリックが避けていた話題に触れた。
「先程なにやら城内がごたついていたと仰っておられましたが?」
「あ、ああ、ちょっと……ね」
元々エーリックはそれについて話し合いに来たのだが、やはり気が重くなかなか切り出せなかった。
だが、いつまでも避けて通れるものではなかった。
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