空生講徒然雲(くそこうつれづれくも)
せいのほう
第1話千日前
千日前のある日
私はねむりはじめとねむりおわりが「くらくら」してすきでした。私には、ねてもさめてもねむり足りないという性分があります。ねむりはいつも不足するように私の頭のなかをいびつに固めてすっきりさせることがありません。もっと豆腐みたいにふにゃりとしたり、もっと、つるつるぴかぴかの隙のないテクノ音楽のような電子脳だったらと思うこともあります。そう、私の頭のなかには、そろばんがないのかも知れません。いくら弾いても「パチパチ」音が鳴ることもありません。とうぜん、問いの答えはありません。問いの数だけ頭のなかに山が立ち上がるのです。もう、それは山脈といっていいのですが、その中身は空洞です。見るからにとんちきな威容をしています。空洞の山腹は月のクレーターのように穴だらけで、私の頭のなかのように凸凹しています。そして、空洞の山脈で私の頭のなかはふくらんだりしぼんだりするのです。いつか、空洞の山脈が煙を吐くかも知れません。その山腹から漏れ出す煙の成分だけが私のいちばんの興味の対象になっています。あと、ほんのもうすこしで空洞の秘密の一端がわかりそうなのです。煙の匂いがするのです。
私の一日はまどろみのなかの無為のゆめに諾々と従うだけでおわることがよくありました。私の頬は枕と終日はなれることがありません。どこまでもぬるい一日のなかで幾度か起こるねむりはじめとねむりおわりに発作的に空いた頭が「くらくら」するのです。それが私の好物なのです。ときどき頭のなかがかゆくなります。私の頭のなかの月のクレーターに蟲がわいたのかも知れません。それとも、鉱物探査宇宙船が着陸したのでしょうか。その鉱物はだれのものでしょうか。それが「くらくら」のもと。『くらくら鉱物』かも知れません。私はいくらでも「くらくら」していたい質ですから、耳穴から綿棒を入れてその『くらくら鉱物探査』に横槍を入れています。簒奪者には気をつけなければなりません。
「くらくら」はねむりの連れ合いのようなものですから「くらくら」が単独でうまれることはありません。「くらくら」したいのならねむるよりほかはありません。「くらくら」が先かねむりが先か。ひょっとすると「くらくら」するためにねむりがあるのかもしれません。私はいくらでもねむりいくらでも「くらくら」していたかったのです。子どものころからそう思っていました。午睡後のだらりと間のびした夕前の時間がくらくらしてすきでした。さめかけた意識とゆるいねむりの間に「くらくら」する種があり、私はそれを口にするのがすきでした。しばらくすると、「くらくら」する種が私のなかで消化されますから、私は「くらくら」しながら仄かに青白いゆめを見ることが出来ました。昼と夜をつなぐ間の仄かに青白いゆめのなかのくらくらする私は、あたらしい世界を頭のなかに展開することがすきでした。いま、私のあたらしい世界が私の目の前で唐突に開かれています。これは偶然なのでしょうか。私は呆けたままずっとこの偶然をやり過ごして待ちぼうけていなければならないのでしょうか。私は私があこがれつづけたあなたのゆめで暮らしたいと思うのです。あなたのゆめを間借りしながら私は嘘言を生んでこのあたらしい世界で暮らしたいと思うのです。私は、たまたま昔ゆめ見た「ア・バオア・クウ」から脱出するようにこちらにやってきました。それはいつも憧れていたことでした。ぜひ私に『
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます