アニメの世界はリモコンとともに。

 おっきなねぇねとしてきょうだいたちと遊びまくってやろう! と意気ごんで、1時間。


 私は鬼ごっこの鬼役で走りまわって、お絵かきでは顔に落書きをされて、最後は馬になってみんなを背中に乗せて……力尽きた。


「……つかれたぁ」


「情けネェな、メイ! ひとりっ子じゃネェだろう?」


 減らず口をたたくリドリィも、羽が花柄模様になっている。


「そうだけど、何人も相手に遊びまわるなんて、初めてだったから」


 小さい子の相手は、弟のあーちゃんと遊んでいただけ。しかも、昔は私があーちゃんをふりまわしてばっかり。


 反対の立場になってみると、あーちゃんに心の底から謝りたくなった。


「みんな、遊びつかれて眠っちゃったね……」


 おんなじ顔ですやすや眠っているきょうだいたちに、薄手の毛布をかけてあげる。

 

 タオルで顔をぬぐってから、私も庭先に出る。


「これで、よし」


 アオバが服を泥だらけにしながら、種を土に植えている。その背中に、私は声をかける。


「アオバ!」


「メイ、子どもたちは?」


「お昼寝中だよ。みんな、元気いっぱいだね」


 私が言うと、ララちゃんは「ありがとう、お姉ちゃん」と、ペコっと頭を下げた。


「気にしないで。それで、ふたりはなにをしているの?」


「畑仕事だよ。この庭で果物を育てるんだ」


 アオバが言うと、ララちゃんはパッと顔を輝かせる。


「ここにいっぱい果物の種を植えたから、きっとたくさん実ってくれる!」


 見ると、庭の土がぽこぽことでっぱっている。いろんな種を育てて、食べられる実を作るってこと?


「ララちゃんが、畑仕事もしているの?」


 聞くと、ララちゃんは暗い顔になった。


「パパは国を守るため、毎日たおれるまで訓練させられて、ママはお城のお掃除をさせられているの」


「帝王の命令で、お家に帰ってくることもできないってこと?」


 アオバの質問に、ララちゃんはさみしそうな顔でうなずく。


「だから、ねぇねのララが、弟と妹を守らなきゃ」


「そっか……。果物が実ったら、みんなで分けて食べられるもんね!」


 私はララちゃんの手を取った。しかしそこに水を差すのがひとり……というか、一匹。


「ケッ! 植えた種が木になって果物が実るマデ、何年かかると思ってんだヨ!」


 リドリィめ……と思うが、残念ながらそのとおり。ララちゃんも、うつむいてしまう。


「メイ! 見せてやれっテ」


 と、リドリィが私の肩でまたも小声で言ってくる。


「見せるって、なにを?」


「リモコンの力に、決まってんだロ!」


 あぁ、そっか。私は、ポケットからリモコンを引っぱりだした。


 リドリィが私の手首にとまって、爪でリモコンを指す。右方向の三角形がふたつ並んでいる、早送りのボタンだ。


「これを、押せばいいの?」


「そうダ! そいつは……【世界倍速スピード】!」


 今度はなにが起きるのか、おっかなびっくりボタンを押してみる。


 ピピッ! という軽快な音のあとに、真っ赤なレーザー光線が種を植えた土に当たる。


「……えっ?」


 アオバもララちゃんも、目を疑った。


 光を当てた土から、ぴょこん、と芽が飛びだしてきた。


 ちっちゃな芽は葉っぱを広げて、空に向かってのびていく。


「わ、わ、わ!」


 ちっちゃな芽は、みるみるうちにどっしりとした幹の樹に変わって、枝には果物が実る。庭中があまいにおいに包まれる!


「すっごぉおい! 一瞬で、こんなに大きな樹になった!」


「…………」


 ララちゃんはその場でぴょんぴょん飛びはねている。となりのアオバは、目を見ひらくばかり。


「どうダ? 【世界倍速スピード】は、光を当てたものの時間の流れを何倍にも速くするのサ!」


「めちゃくちゃ、すごい!」


 私はリモコンをかかげて、声をあげた。こんな魔法みたいなことまでできるなんて!


「ミカンに、ブドウに、リンゴ! うわぁ、いっぱいだ!」


 ララちゃんは、樹の枝からぶら下がっている果物に手をのばす。背のびをしても届かないから、アオバが彼女をうしろから抱きあげる。


 ララちゃんはていねいに果物をむしって、アオバにおろしてもらう。


「すぐ、みんなに言わなきゃ! いっぱいいっぱい、食べてもらおう!」


 言うララちゃんの前に、アオバがしゃがんだ。


「まずは、きみが食べるんだ」


「……で、でも、弟と妹に分けてあげなきゃ」


「たくさん実っているから、きみが先に食べてからでも、まだまだなくならないよ」


 それからアオバは、ララちゃんの頭をなでてあげた。


「これまで、いっぱいがまんしたでしょ。最初のひとつは、きみへのプレゼントだ」


「!」


 ララちゃんはアオバの目をじっと見て、しばらく動かなかった。


 アオバがゆっくりミカンの皮をむいて、ひとふさ、ララちゃんの口に入れた。


「……あまずっぱい」


 ミカンをほおばってふくらむララちゃんのほっぺに、涙が流れていた。


「ちょっとだけしょっぱい。けど、おいしい……!」


 それからララちゃんはミカンを丸ごと食べた。ララちゃんは口の中をミカンでいっぱいにして、泣いている。


「うん、おいしいね。がんばったね……」


 アオバは、ララちゃんの背中に手をそえる。


 ぽん、ぽん、と、ララちゃんをさするアオバの姿に、私はただただ見とれてしまった。

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