アオバの思いをきかせて

「それでは、報告をお願いしますわ」


 その日の夜、王の間では緊急の会議が開かれた。お城に爆弾がしかけられていたから、当然だ。


 現場にいあわせた私も同席して、アカネ姫、アオバ、そして階級の高い兵士さんたちが集まっている。


 兵士たちの中心に立つ、色黒で貫禄あるヒゲをたくわえた男の人が、きっちりと手本のような敬礼をする。


「はッ。申しあげます!」


「近衛兵長。いつもご苦労様です」


 近衛兵長、と呼ばれたこの人は、お城を守る兵士さんの中で一番えらい人らしい。


「爆弾がしかけられたのは城内一階、南側の廊下です」


「ボクたち以外、周囲に人はいなかったんだね。ケガ人を出すこともなかったのは、良かった」


 アオバが胸をなでおろしながら言うけれど、兵士たちの顔は険しいまま。


「しかし、これは大問題です! これまでは城外を警戒していましたが、今回の攻撃は城内! つまり……」


「兵士の中に、謀反をたくらむ者がいるのですね?」


 アカネ姫が言うと、王の間は静まりかえった。


「城内も安全であるとは言えなくなりました。やはり兵を呼びもどし、より厳重な防衛策を……」


 と、続けるアカネ姫の声は、兵士たちに届かない。


「城内まで侵入を許したのか! 一刻の猶予もない!」

「いまこそ、コカゲ帝国に攻め入らねば!」

「やられる前にやらなければ、勝利はない!」


 熱気が高まる会議から、私やアカネ姫、アオバは放りだされてしまう。やっぱり、兵士の言うことばかり優先されて、アカネ姫の意見は取りあってもらえない……。


 私はアオバの袖を引く。


「ねぇ。コカゲ帝国は、どうしてリーフェスタ王国に攻撃をしてくるようになったの?」


「それが、ボクたちも見当がついていないんだ」


 アオバは表情をくもらせる。


「リーフェスタは自然あふれる国。草木や花、野菜や果物も多く、自国だけでなくコカゲ帝国にも、収穫した作物を十分に送っていた。それなのに、突然敵対するようになってしまって……」


「コカゲ帝国は、その上から目線が気に食わネェのさ!」


 と、羽ばたく音といっしょにおちゃらけた声が飛んでくる。王の間にいても無神経な、リドリィだ。


「ヤツらは全てを自分たちのものにしたいんダ。うまい食い物も、財宝も、国の民さえも!」


「国の民? どういうこと?」


 思わず私がたずねると、アオバがしずんだ声で言う。


「この数年で、リーフェスタ王国の国民が数百人、コカゲ帝国に奪われてしまった」


「人が連れさられているの?」


「その通りサ! 力の強いヤツは兵士とするタメ。手先の器用なヤツは小間使いとするタメ。小さな子どもは、大人に言うことを聞かせる人質とするタメ、だナ。それが、コカゲ帝国のやり方だゼ!」


「そんな……」


「コカゲ帝国にも、なにか事情はあるのでしょう」


 アカネ姫は落ち着いた口調で、表情も変わっていない。でも、背筋がゾクッとしてしまう。


「しかし、国民が道具のようにあつかわれることを、見すごすわけにはいきません」


 怒りをにじませた言葉に、私はきゅっとくちびるを引きむすぶ。


 国の事情とか国民のためとか、私はなにも知らずに、テレビに映ったキューターリーフが戦う姿を観ていた。


 でも、ここでアオバやアカネ姫が話しているのは、アニメの中の設定なんかじゃ無い。


 アオバたちにとって、これが現実なんだ。


「メイ。どうかしたの?」


 顔をのぞきこんでくるアオバの瞳を、私はまっすぐ見つめかえす。


「アオバ。あなたは?」


「え?」


「アオバが戦う理由は、なに?」


 そう聞くと、アオバは私から目をそらす。


「ボクも、アカネ姉さんと同じさ」


「うぅん、ちがうよ。私は、あなたの気持ちが聞きたい」


 私は、アオバの腕をぎゅうっとつかむ。


「戦っているのは、アオバでしょ。あなたがどうしたいのか。それが一番大事だよ!」


 あこがれのキューターリーフに、どの立場から言っているんだなんて、私だって思う。


 でも、感じたんだ。アオバには、なにか別の思いがあるんじゃないかって。


「……ボクは」


 アオバは、ゆっくりと口を開く。アカネ姫と私を見て、はっきりと言った。


「ボクは、コカゲ帝国を助けたい」

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