アオバの思いをきかせて

「……はッ」


「起きた? メイ」


 ふかふかのベッドの中で目を覚ますと、アオバの顔がすぐ近くにあった。となりには、私を気絶させた張本人、アカネ姫が座っている。


「メイ様? 突然お眠りになって、旅の疲れが出てしまったのでしょうか?」


「なんだろ。食べた瞬間に、魂がぬけたような……」


「まぁ、メイ様もお上手ですね。天にものぼる心地だなんて」


「いや、そうじゃなくって」


「自信作だったので、メイ様の喜んでいただけて、光栄です!」


「えっと、そのぉ、あはは……」


 ほっぺをポッとを赤くして、天使のようにほほえむアカネ姫に、私はなにも言えない。


「アカネ姉さんの料理には、王宮料理長でも敵わないからね。ボクもあの料理のせい……じゃなくて、おかげで、どんな夜戦食も食べられる様になったからね」


 アオバ! 「せい」って言った!


「……正直に言ってあげるのも、優しさだと思うし」


「その通りだナ。メイ!」


 リドリィは私の頭に乗って、ケラケラ笑っている。


 つられるアオバだったが、すぐに笑顔をひっこめる。


「メイも無事に目が覚めたから、報告をお願い。待たせてごめんね」


 アオバは、ドアの前に立っている大柄な男の人に向きなおる。


「はッ。申しあげます!」

「近衛兵長。いつもご苦労様です」


 アカネ姫までまじめな顔で姿勢を正すと、男の人はピシッ! と敬礼をする。


 この人も、アニメで観たから知っている。近衛兵長、と呼ばれたこの人は、お城を守る兵士さんの中で一番えらい人だ。


「敵国の偵察兵からの報告です。敵勢力、現在動きはありません。兵士には休息を与えていますので、アオバ様におかれましても、しばしお体を休めていただければと!」


「あぁ。そうだね」


 それからアオバと兵長さんは、城壁への人数配置がどうとか、武器がどれだけ足りていないとか、頭がこんがらがるような話を続けた。


「ありがとう、近衛兵長。下がってください」

「はッ」


 アカネ姫の言葉に、兵長さんはキビキビとした動きで部屋を出ていった。


「……敵国って、やっぱりコカゲ帝国?」


 私が目配せをすると、アオバは小さくうなずく。


「そう。ボクたちリーフェスタ王国のとなりにある、コカゲ帝国。このところ、リーフェスタ王国を侵略するため、攻撃してくるようになった」


 アカネ姫が悲しそうに目を伏せる。


「リーフェスタは自然あふれる国です。草木や花、野菜や果物なども多く、自国だけでなくコカゲ帝国へも十分にお送りしていたのですが……」


「コカゲ帝国は、その上から目線が気に食わネェのさ!」


 と、私の頭の上から声がする。


「奴らは全てを自分たちのものにしたいんダ。うまい食い物も、財宝も、国の民さえも!」


「国の民? どういうこと?」


 思わず私がたずねると、アオバがしずんだ声で言う。


「この数年で、リーフェスタ王国の国民がコカゲ帝国に奪われてしまった。その数は、全国民の三割にも達するほどだ」


「人が連れさられているの?」


「その通りサ! 力の強いヤツは兵士にするタメ。手先の器用なヤツは小間使いにするタメ。小さな子どもは、大人が言うことを聞かせる人質にするタメ、だナ。それが、コカゲ帝国のやり方だゼ!」


「ひどいし、それ……」


 私のつぶやきに答えるのは、アカネ姫。


「コカゲ帝国にも、なにか事情はあるのでしょう」


 アカネ姫は落ち着いた口調で、表情も変わっていない。

 でも、めちゃくちゃ怒っていることはわかる。背筋がぞくっとふるえる……。


「しかし、国民の皆さまが道具のようにあつかわれることを、見すごすわけにはいきません」


 その言葉に、私はきゅっとくちびるを引きむすぶ。


 国の事情とか国民のためとか、私はなにも知らずに、キューターリーフが戦う姿だけを観ていた。


 でも、ここでアオバやアカネ姫が話しているのは、アニメの中の設定なんかじゃ無い。


 アカネ姫や兵士さんたち、アオバにとって、これが現実なんだ。


「メイ。どうかしたの?」


 顔をのぞきこんでくるアオバの瞳を、私はまっすぐ見つめかえす。


「アオバ。あなたは?」


「え?」


「アオバが戦う理由は、なに?」


 そう聞くと、アオバは私から目をそらす。


「ボクは……ボクも、アカネ姉さんと同じさ」


「そうじゃなくって、あなたの言葉が聞きたい」


 私は、アオバの腕をつかむ。


「戦っているのは、アオバでしょ。あなたがどうしたいのか。それが一番大事だし!」


 あこがれのキューターリーフに、どの立場から言っているんだなんて、私だって思う。


 でも、感じたんだ。


 アオバには、なにか別の思いがあるんじゃないかって。


「……ボクは」


 アオバは、ゆっくりと口を開く。アカネ姫と私を見て、はっきりと言いきった。


「ボクは、コカゲ帝国を助けたい」

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