いざ、リーフェスタ王国へ

 ゴゴゴゴゴ……。


 てっぺんが雲に届きそうな巨大な門が、ゆっくりと開いていく。こんなお城、現実世界にあるわけない。やっぱり、ここはアニメの世界なんだ。


「アオバ・リーフェスタ様のご帰還であるっ!」


 その声を合図に、お城のいたるところから声が飛んでくる。


「よくぞご無事で、アオバ様!」

「帝国の兵をなぎたおす姿、圧巻であります!」

「さすがは、我がリーフェスタ王国の守り人!」


 キューターリーフの変身を解いたアオバが、拍手の中を進んでいく。周りに笑いかけて手をふる、神対応だ。


 ただ、そのうしろにくっついている私には好奇の目が向けられている。ふつうの部屋着、シャツとジャージなのに……。


「そりゃそうサ! オマエの服装、この世界じゃヘンテコリンだからナ!」


 リドリィが私の肩の上でニタニタ笑っている。

 周りの人たちは、歴史の教科書で見るような、中世風の格好をしている。現代のシャツとジャージなんて、見たことないに決まっている。


「う、うるさいし!」


 なんて、リドリィに文句を言っていると……。


「アオバっ!」


 前から、目がくらむほどまぶしい女性が走ってきた。


 腰からドーム状にふくらんでいるドレスを着て、頭にティアラ、耳にイヤリング、そして首元にはペンダント。これぞまさしく、お姫様だ。


 お姫様は、私の前を行くアオバの胸に飛びこんだ。


「あぁ、アオバ! よくぞ、無事に帰ってきてくれました!」


「はい。今日も王国の危機を守りました」


 アオバが答えると、お姫様はキュッと眉毛をつりあげる。怒っている顔すらきれいで、ぽぅっと見とれてしまう。


「腕にキズがついているじゃないですか! また、無茶をしたのですね!」


「笑ったり怒ったり、アカネ姉さんはいそがしいなぁ」


 アカネ。その名前に、私の胸が高鳴った。


「……そちらの方は?」


 アオバのうしろの私を、お姫様が見る。


「こちらは、メイ。ボクの要人だよ」

「まぁ」


 お姫様は私を前にして、ドレスのスカートを両手でつまむと、小さく頭を下げる。


「わたくしは、リーフェスタ王国第一王女、アカネ・リーフェスタと申します。アオバのお客様となれば、姉であるわたくしのお客様と同じです。ようこそ、いらっしゃいました」


「王国最強の姫騎士、アカネ姫……!」


 思わず、私は言っていた。アカネ姫は、こてんと首をかしげる。


「わたくしが剣術をたしなむこと、ご存知なのですか?」


「知っていますよ! だって、キューターリーフの剣の師匠こそ、アカネ姫なんだから!」


 私は勝手にアカネ姫の手を取って、ぺらぺらぺらっ! と、早口で話す。


「十六歳の王女様にして王国一の剣士、アカネ姫! 剣をにぎれば、王国兵全員を相手に負けなし! アカネ姫こそ強さと優しさを兼ねそなえた、最高の姫騎士様! ですよね!」


 こんなに熱く語る理由は、ただひとつ。私が観た中で一番好きなキャラクターが、このアカネ姫だから。


 美しいだけじゃなく、優しく温かく、ときに厳しくアオバに剣を教えるアカネ姫は、だれもがうらやむ理想のお姉さん!


 私がアカネ姫に尊敬のまなざしを送っていると……アカネ姫は、私に疑いのまなざしを送ってくる。

 なんで?

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