ありえない、なんて事はありえない

 リドリィを、じっと見る。


 いま、リドリィは「ここはアニメの世界」と、たしかに言った。


「……あなた、知っているの?」


「当然だロ! オレは天下のリドリィ様だゾ!」


 リドリィは私の腕にとまってから、グイッと胸をはる。


「海も世界も自由に飛びかう、いっちゃんイカした渡り鳥! 現実とアニメ、ふたつの世界を渡るくらい、リドリィ様には朝飯前……朝エサ前だゼ!」


「鳥っぽく言いなおすのは意味わかんないけど……リドリィの力で、私はアニメの中に来たっていうこと、なの?」


「マ、そう思ってくれていいゼ? 呼びよせたのは、アオバ……いや、キューターリーフだけどナ!」


「……じゃあ!」


 私はリドリィにつめよる。ひとつ息を吸いこんで、言った。


「弟も……あーちゃんも、このアニメの中で生きているってこと?」


「どうだがナ? そうかもしれネェし、そうじゃないかもしれネェ」


 リドリィははっきり答えずに、私の頭の上を飛びまわる。


 ケッケッと笑うリドリィにムカッとしたけれど、いない、とは言いきらない。


 弟が、アニメの中で生きている。自分で言ったことだけど、常識的に考えて、そんなの、ありえない……。


「うぅん。だって、私はいま、アニメの中にいるんだもん」


 リドリィのマネをするわけじゃないけど、私の常識なんて、アニメの中で通用しない。


 ならば、やることはひとつ。


「弟を……あーちゃんを見つける! それが、私の使命だ!」


「使命? かっこいいね、メイ」


 びゅう! と、風に乗って声が聞こえた。


「ど、どこから?」


「こっちだよ」


 ふりかえると、キューターリーフが空から降りてきて、私のうしろに着地した。


「な、なんでここにっ? さっき、戦いに行ったんじゃ」


「うん。でも、もう終わったから」


 キューターリーフが指を差す方向に、黒いヨロイの山ができていた。数える気にもならないようなたくさんの兵士たちが、目を回している。


 あれだけの数の敵を、ひとりで……?


「もちろん、気絶させただけ。ボクも相手も、ケガひとつしていないよ」


 けろっとしたまま、キューターリーフは私の手を取った。


「さぁ、メイ。いっしょに帰ろう」


「ど、どこへ? アオバ姫……」


「やだなぁ。ボクのことは、アオバ、だけでいいよ」


 キューターリーフはポニーテールをぴょこぴょこゆらして、私を引っぱっていく。


「リーフェスタ王国に、キミを招待するよ。メイ!」

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