ニジハル

咲翔

***

「懐かしいよね」


 私の隣に腰掛ける友達が呟いた。


「小学校の頃、よくここの公園で遊んでたよね。こうやってジャングルジムの上に座ってさ」


 見上げれば青空。

 雲一つない晴天が、

 そこには広がっている。


「ジャングルジム、そんなに遊んでたっけ」


 私が空を見ながら聞くと、友達は「うん」と頷いた。


「少なくとも、わたしはね。リッカは男子たちに混じって鬼ごっこに明け暮れてたじゃない」

「あら、そうだったっけ?」

「そうだったんだよ。よくあんなに走れるなーって、ずっと思ってた」


 友達は、私が鬼ごっこをしているのを、ジャングルジムの上からずっと見ていたらしい。


 男の子に負けず劣らずの体力を誇っていた小学校時代の私は、学校から帰るなりケイドロを五回戦くらいやる、というかなりハードな生活を送っていたようなのだ。


「全然覚えてないや」


「そう?じゃあわたしの記憶力が良いのかな」


「かもね」


 短いやりとりが続く。

 

 ジャングルジムの上に二人。

 

 昨日、高校の卒業式を終えた私達は長い春季休暇に突入している。

 だから真っ昼間から、近所の公園にいることができるのだ。


「正直さー、わたしの青春って小学校で終わっちゃったんじゃないかって思ってるんだよね」


 友達が突然に言った。

 私はびっくりして彼女の方を見る。


「なんで?」


「だって、あの頃が一番自分らしくいられたというか」


「それって、幼いゆえの自己中心主義だったからとかじゃなくて?」


「あー、それだわ。特に低学年のときとか」


「あー」


 また、会話が途切れる。

 二人とも、空を見ていた。

 公園の上の広い空に、一筋の雲。

 小さな飛行機が見えた。



「優季の青春が小学校なら、私は高校だったかな」


 ぽつりと呟く。


「なんで?」


「だって、高校生が一番自分らしくいられたというか」


 さっきと同じ会話の展開に、お互い笑う。


「わたしは高校は……そりゃ、楽しかったけどね。最近すぎて青春だったとか、よくわからない」


「私もわからないけど、なんか漫画とかで青春って言ったら高校って感じじゃない?」


「一理ある」


 塗装が剥げかけたジャングルジ厶。

 その上に、たった二人。

 青空の下、友達と二人。

 高校卒業後まもなくの、私たち。



「じゃあ、間を取って中学は?」


「うーん」


 友達からの質問に、私はなかなか答えられない。


「なんか記憶だけはあるけど、輝いていた感じはしない」

「わかる。年齢的にも、中途半端な時期だったし」


 大人になりたいけどなれない。そんな十代の始めの時期。


「少なくとも青くなかったよね」

「なにが?」

「春が」


 友達の答えに、吹き出す。


「なんか、いいね。ポエム的な」

「そうかな」


「でもわかるわ。確かに青春じゃあ、なかった」

「じゃあ何色だったんだろう」


 風が吹いて、雲が動いて。

 その合間から、太陽が顔を出した。

 眩しいくらいに、虹色。


「……虹色?」


 私が言うと、友達は笑わなかった。


「かもね。あんま覚えてないけど、色々あった時期でもあったと思うし……何色って、決められないよね。いいんじゃない、虹色で」


「ニジハル、かぁ」 


「だからと言って、高校が青かったかって聞かれたら、違うけどね」


「そういえば青春って、どうして青い春って書くんだろうね」


「確かに、なんでだろ」


「ね」



 優季にとっての青春だった小学時代を経て、

 虹春だった中学生活を過ごし、

 私にとっての青春だった高校を


 卒業した私たちは。



 これから何色になるんだろう。


 どうなっていくんだろう。



 少し塗装が剥げたジャングルジムの上を、春の風が吹き抜ける。




「卒業おめでとう、リッカ」

「優季も、おめでとう」


 青空の下の二人を、虹色が照らした。

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ニジハル 咲翔 @sakigake-m

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