夜明け前には白百合と

C2N2

第1話 夜間通話(前)

 それは、小中以来の友人である彼——神余奏かなまり かなでと電話をしていたときのことだった。


『そういえば、たつみにはショッキングな話かもしれないんだけどさ、』

「?」


 彼の声が先ほどまでの明るいものとは打って変わって、少し暗いような、様子を窺うようなものになった。その様子に思わず俺も息を呑み、右手のペン回しを止める。じわりと、首筋に冷や汗が伝うのが感じられた。


『巽ってさ、たしか水銀さんのこと好きだったよね?』

「ああ、そうだな」


 水銀さん――水銀麗華みずがね れいかは俺の元クラスメートだ。趣味が合うため話しをすることすることはよくあったが、彼女への恋愛感情を覚えるようになったのは確か昨年度の文化祭を終えた頃のことだったか。今年度はクラスが離れ離れになってしまったが、幸いなことに奏と同じクラスであるため、今年も言葉を交わすことができると思う。


「それで、どうしたんだよ。」

『あのー、えーっとー、』


 煮え切らない態度に少しばかり腹が立つ。その雰囲気が彼に伝わったのか、諦念を孕んだようなため息を付くと、彼は続きを話した。


『水銀さんに彼氏ができたらしいんだ』


 ボトン。右手に持ってたペンが滑り落ち、乾いた音を響かせた。彼のあまりに衝撃的なその告白に脳裏が白く染まったまま、俺は一言も発することができなくなってしまった。

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