眷属狐女、万葉の聖域日記

白浜 台与

第1話 お山の恵み、2023秋

皆様、ごきげんよう。私の名前は万葉まよ


とある地方の神社の聖域の主で齢2000才越えの山神、桐葉きりのはさまに仕える新入りの眷属でございます。


もう秋も深まり山にはきのこ、木の実、甘柿などお山には自然の恵み。


色艶良くいかにも美味しそうなきのこでも毒がある。と見分ける事が出来るのは眷属特有の神通力でございます。


だって、毒があるものや消費期限が過ぎていて食べたらお腹を壊すものには紫色の霧がかかっていて、


食べるな危険。


と食べ物自身が教えて下さいますもの。くすっ。


「おーい!そろそろ昼飯にしないかい?」


と籠半分のきのこを集めた時、お山の頂に建つおやしろから降りて食糧採集をする4体の眷属たちに声を掛けて下さるのは我が主の桐葉きりのはさま。


見た目は17、8の人間の巫女姿の少女ですが、大きな三角形のお耳と腰の下から生えた三本の尻尾が白くもふもふとして愛らしい狐神さまです。



「はぁーい」

と返事した私たちはお社に戻り、昼食の支度に入ります。


「ところで万葉ちゃんはもうここでの仕事に慣れたかい?」


と主がアジフライと白飯を豪快に頬張り、大根の味噌汁で流し込んで聞いて来られたので私は箸を置き「はい、先輩方が良くしていただいてもらっていますので…」


と心からの感謝を込めて答えました。


「ええ主さま、万葉ちゃんは仕事を覚えるのが早くてなんでも丁寧にしてくれるからこちらとしては助かっております」


と齢400年の古参の老女(ババアではなく侍女頭という意味)、暮葉くれはさまが褒めて下さったのでそんなぁ〜と照れて尻尾を振る私に、


「へぇーえ、過去世の人間時代の下積みで苦労してきたからかい?」


と私のすぐ先輩にあたる齢150才の柏葉かしわばさまが好奇心いっぱいに耳をぴこぴこさせて私の前世を聴きたがります。


けれど、父は南方で戦死。美容師だった母は女手一つで私を育ててくれて高校を卒業するとすぐ美容師の道に入り21で仕立て屋の主人とお見合い結婚。


一男一女を育てて78才で心不全で死去。という普通の女の人生なんて狐族こぞくの皆様には面白くないのでは?


と汁椀に目線を落とした私を慮ってか「よしな、人間なんてひどい生き物だから辛い過去世を思い出したくないんだろうよ」


と桐葉さまが助け舟を出して下さったお陰で過去世の話題はそれきりになりました。


話すのが辛いのではなく、振り返ってみれば働いて働いて時間を空費しただけの面白くない人生だっただけなのだ…


とお山を紅く染める夕焼けを見つめながら一人たそがれていますと、


「万葉ちゃん、これ差し入れ」


と眷属の中で唯一の雄で齢200才の青葉さまが供物のお菓子で鹿児島名物の黒砂糖菓子「げたんは」4個入り1パックを掲げて「今日もお疲れだったね、一息つこうか」と声をかけて下さいました。


嬉しくなった私は「はい」と青葉さんの隣に腰を下ろし、お山の松の葉を煎じたお茶(これが意外と美味しいのです)のお供に食す黒砂糖菓子は日頃の疲れも人間だった頃の辛い記憶も忘れる位美味しいものです。


先輩の中で一番優しい青葉さまは色白で優しげな吊り目の美男狐。


こうして優しくされる度に胸の奥を

きゅん。

と締め付けられる切ない気持ちになりますが…



「さあ、今夜は今朝〆た鶏ときのこと白菜で鍋だよ。もちろん厚揚げ入り。

本当はネズミの素揚げで一杯やるのが最高なんだけど」


と余計な一言を仰ったのでやっぱり青葉さまもけだもの。と冷静さを取り戻すのです。


雄雌しゆうの一線を超えないのが恋の至上。


と80近い過去世で悟っております…



翌朝に文と荷物を届けに来た天狗便の天狗さんはまだくちばしの黄色い新入りで初めて会う顔でした。


三角耳と尻尾は付いてても見た目は18才の巫女である私の顔を見るなり、


「あ…あんたはひまわり美容室のオーナーさん⁉︎うちの娘の結婚式の着付けをして下さった麗子ママに会えるなんて!うっわー、閻魔庁前広場のデモ以来だぜ『参謀』」


と嬉しそうに背中の黒い羽根をばたつかせました。


「ば、馬鹿っ!コードネームで呼ぶんじゃないよ『飛脚』のヨッちゃん。あんた、天狗に転生してたのかい⁉︎」


伝票に印鑑ならぬ鼻紋を押しに来た桐葉さまは私たちの会話がたまたま耳に入り、


「閻魔庁前広場のデモ事件の事はよーく知ってるよ。確かあれは3年前、亡者たちが強引な輪廻転生への不満を訴え閻魔大王さまから『人間への転生を拒む権利』を勝ち取った大事件だ。


へーえ、あんたたち、デモの当事者だったのかい?


今日も暇だからあんたたちが人間だった頃の過去話を聞くのも一興だねえー」


と主が面白い話のネタを見つけた!とばかりに紅いお目目を細めてにやにやし、


「そこの天狗、帰りの便は急がなくてもいいんだろ?」


と2体とも桐葉さまの私室に呼ばれ、2年前に私たちが起こしたあの出来事を語る事になったのです。







































































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