人生ゲーム

ハタラカン

プレイスタイル


12月1日


クソみたいなクソ人生は常に俺を苛んでやまない。

そこでVRゲームを買った。

売り文句は

『至高の幻想人生ファンタジーライフをあなたに!』。

たかがゲームが実に強気なものだ。

内容だが、先行ユーザーによると

『自由度とリアリティの極致!』

『千変万化する世界観!』

『やれる事が多すぎて100年かけても遊び尽くせる気がしない!』

…だと。

精緻極まる作り込みとバランス調整を両立させた、やり込めばやり込むほど味が出る超大作で、ユーザー数は億を超えるとか。

あまり他人に雷同するたちでない俺もこれほどの高評価を見れば期待してしまう。

また引きこもりに熱が入りそうだ。



12月2日


ゲームは自宅からスタートした。

さすが、わかってるじゃないか。

初日と2日目の今日は自宅内の探検に費やした。

2階建ての木造建築にはしっかりとした暖かみが感じられ、家具の隅々まで念入りに作り込まれている。

なんと本棚の本を一冊一冊読む事までできた。

リアリティの極致という前評判に偽りはなかったわけだ。



12月3日


本を全部読み終えてしまった。

自キャラはあまり裕福な設定でないのか、他に娯楽らしい娯楽は見当たらない。

PCもゲームもテレビさえも無いのだ。

早くも暗雲が立ち込めてきた。



12月4日


オナニーして過ごす。

備え付けの五右衛門風呂に入ったところで現実のズボンを洗えていない事に気付いた。



12月5日


外が騒がしい。

聞き耳を立てると、ゲームの発売一周年を祝う祭りだとわかった。

「やかましい!近所迷惑だぞ!」

叫んでみたが、むこうに聞く耳は無かった。



12月6日


日付の変更とともにバカ騒ぎをするバカどもがようやく消えてくれた。

何をしにどこへ行ったのかは知らない。

気にならぬでもないが、そんな些事にとらわれていてはファンタジーライフなどままならないだろう。

いずれにせよ、俺の理想とは関わりない連中なのだから。



12月7日


壁の木目を数えるのにも飽きた。

どうなってる?

いくらなんでもおかしい。

リアリティは間違いなくある。

しかし自由度は?

千変万化する世界観は?

遊び尽くせる気がしないほどのやれる事は?

なにも起こらないじゃないか…俺が見てきたレビューは全てサクラだったとでも?



12月8日


ついに起動から1週間。

俺には相変わらずなんのイベントも無い。

ここに至るまでに一つもだ。

呆れ果て、ゴーグルを外し、攻略サイトを見、怒髪天を衝いた。

義憤のタイピングが超速でレビューコメントを完成させた。





★☆☆☆☆1


● ✝ソクラテス✝さん


誇大広告。


羊頭狗肉とはまさにこの事だ。

大言壮語な広告に踊らされて購入してしまったが、これはひどい。

可能ならマイナス星5評価にしたいほど。


まず驚かされたのはゲーム中何も起こらないという事実。

家に居るだけでは一切話が進行しない。

この時点で至高のファンタジーからは程遠いが、これの解決法が輪をかけてひどく、なんと家を出てNPCらと対話しなければならないと言うのだ。

NPCとの対話を苦手に感じるユーザーへの配慮がまるっきり欠けている。

攻略サイトによると一説に数十億とも言われる無数のNPCと友情や恋愛、結婚や同居生活まで可能らしいが、そのためにはやはり無数の対話イベントや協力イベントをこなして好感度を上げていかねばならない。

NPCに嫌われたら誰が責任とってくれるのか?

楽しく遊びたいのになんでそんなリスク背負わなきゃならないのか?

運営に問い合わせても返答なし。

あまりにも不親切。

対話必須の場に放り出しておきながら失言失行の損失はユーザーが負うなんて無責任にも程があるだろう。

ここがレビューの場でなければもっと口汚く罵っているところだ。

運営はファンタジーを冒涜している。


まだ不満点は終わらない。

前述のゴミ要素を嫌い、NPC全無視でプレイしようにも道は険しく、なんと外では仕事をしなければならぬのである。

依頼を受けモンスターと戦う、拾得或いは製作したアイテムを売る、なにがしかの技能で奉仕する、などで商売しなければならぬのである。

そうしてNPCと交流し、人脈を広げ、またそのためにありとあらゆる工夫を凝らし、自キャラクターを随時成長変化させなければならぬのである。

バカなの?運営。

そんなクソシステムを柱にしたら仕事ガチャに失敗したりモンスターにやられたり成長の方向性を間違えたりして気分を害する展開が起こり得ると想像もできないらしい。

想像できてないんだから当然と言うべきか、それら損失への補填などは一切無い。

損失させないための保障も無い。

何より、外へ出るという事は家に居られないという事を意味しており、自宅主義のユーザーにはこの矛盾を解決する方法が存在しない。

運営はこれら調整ミスの全てから自己責任論という名の責任転嫁で逃げている。

明らかなテストプレイ不足。

そしてここでもまたNPCとの対話問題を発生させているわけで、もう無能の極みと言い切ってもよいだろう。

いや、無能ならまだ改善の余地もあるが、恐ろしい事にユーザーが苦しむ仕様を意図的に目指している節さえある。

ほんの一例挙げると、本棚の本が何日経っても初期状態のままなのは仕様で、別の本を読みたければ自分で本屋へ行き新しく購入して並べる必要があると知った時には狂気を感じた。

わざわざ無理ゲーにしているのだ。

普通誰とも対面しなくて済むようワンコマンドで入れ替えさせるだろこういうのは!

こうした運営のユーザーいじめは微に入り細を穿つ。

やれる事が多過ぎると評価する向きもあるものの、筆者に言わせれば嫌がらせが多過ぎる。


極めつけはチートコマンドの困難さだ。

なんと違法改造しないと実行できないといういじめの徹底ぶり。

至高のファンタジーライフを謳うなら最低でもチートくらい解禁されてないと話にならないだろうに。

要はまともに遊ばせる気がないわけで、これでは運営が違法行為を推奨しているに等しい。

結論すると、チートのような常識が通用せず、理不尽な高難度でひたすらユーザーをいじめ抜く、運営の独り善がりの拷問。

それがこのゲームなのだ。

運営もここのレビューを見てると思うので書くが、人生を演出したいなら全部自宅で完結させるべきだった。

神でありながら格下ムーブで癒してくれるムチムチエロ女が

『チートあげるから犯して!』

とガニ股おねだりで玄関から入って来るべきだった。

ヒロインの姫はまんぐり返しで媚びながら来るべきだった。

ラスボスの魔王は自決しながら入ってきてプレイヤーに介錯を頼むべきだった。

(魔王を倒さなければならないという同調圧力をかけないよう庭で勝手に死んだほうがいいかも?)

そして英雄となり、自宅で一日中ネットサーフィンに興じるプレイヤーを人々は讃え、尊敬し、かつ邪魔にならぬよう敬遠すべきだった。

元来人生とはこの程度が最低保障で然るべきものだ。

人は苦しむためではなく幸福になるために生まれるのだから。

運営には当レビューを後学として頂きたい。


最後に、このゲームの購入を考えている人達へ。

どうか騙されないで。

名作扱いするレビューは悉くサクラ。

ここに至高の人生はありません。

ただのクソゲーです。

筆者はアンインストールしました。




「よし…と」

レビューを投稿すると、少しだけ溜飲を下げる事に成功した。

次は各SNSでネガキャンするための複数アカウントを作成しなくては。

さあ忙しくなるぞ!



12月24日


今日は全国のカップルがホテルの耐震強度を確認する日だ。

もちろん俺にはそんなイベントなど起こらない。

まんぐり返しの姫が家に来てくれないのだからどうしようもないのだ。

やれやれ…人生はクソゲーとはよく言ったものである。


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