第41話
「ただいま〜」
俺の理性が限界を迎える前に美香さんが帰ってくると俺たちはバッと距離を取った。別に、キスしたわけでもないのに恥ずかしくて心臓が弾けそうだったのだ。
「お留守番ありがとうねぇ。はい、2人にお土産」
美香さんから炭酸ジュースを渡されてやっと俺は冷静になる。
「ありがとうございます、いただきます」
「ふふふ、なんだか私嬉しいわ」
「えっ? どうしたのよママ」
「だって、ニコに男の子の仲良しさんができるなんて初めてなんだもの。ほら、ニコのことを好きっていう子はいっぱいいたけれど、ニコが気に入ってこうやって仲良しになる子は空くんが初めてね」
「も〜、ママ。変なこと言わないでよ」
「あらあら、ごめんなさいね」
やはり、黒谷さんは昔からモテモテらしい。親が認知するほどからよほどのことなんだろう。
「あっ、そろそろ俺」
時計を見ればもう22時。明日は休日だが、流石に長居しすぎてしまったかもしれないな。
「ん、送ろうか」
黒谷さんも俺と一緒に立ち上がるが俺は
「いいや、大丈夫。今日はありがとう」
と返す。ついさっき、高いところが怖いとか言っておきながらそうやって言ってくれた気持ちだけ貰っておこう。
***
家に帰ると、母さんは大好きな韓流ドラマを見ながら大号泣していて食卓には食い散らかしたピザと、俺のために小さな手付かずのSサイズピザが残されていた。
「あら、おかえり」
「ただいま」
「それ、空用のピザ明日温めて食べなさいね。あぁ〜、お母さんはもう一本見てから寝るから」
「はいはい、ピザありがとう」
ピザを冷蔵庫に放り込んで、母の愛に心の中で感謝しつつ腹はいっぱいなので、そのまま風呂へと向かった。
風呂から上がると、ドッと疲れが出て何もできずにベッドに傾れ込んだ。何をしても頭からあの黒谷さんの顔が離れないのだ。
まるで、あの数秒後にキスをするみたいな真っ赤で火照っていて潤んだ瞳と男の俺からは想像できないような小さな口、真っ赤で小さな耳。
「可愛すぎるだろ!」
多分、きっとあんな表情を見ることができたのは世界でも俺だけなんじゃないか。なんて自惚れてしまう。学校にいる時はあまり話さないし、登下校中や一緒にサボっている時だって彼女はいつも飄々としてどちらかといえば、男女というより男同士のような雰囲気だってあったのだ。
だからこそ、俺は変に彼女を意識しすぎずに隣にいることができたし緊張せず話せるようにだってなってきた。
なってきたってのに……。
——来週からどんな顔して話せばいいんだ。
中学の時、恋愛をしている同級生をして心の底から馬鹿にしていた自分をぶん殴りたい。もし、俺も素直に誰かを好きになったり誰かの好きを受け入れていたりしたら、こんなふうに悩まなかったのかもしれない。もっとスマートに、黒谷さんが喜ぶような言葉や行動を返せていたのかもしれない。
「くそ〜!」
【好き 脈アリ】
【女子高生 恋愛】
【付き合うまで いつから】
検索して出てくるまとめサイトを読み漁って、どれもこれも当たり障りのないアドバイスばかりで役になんか立たなくてため息をつく。
何一つ実践なんてできる気がしねぇ……。
【高校生 恋愛】
【女子高生 好き 普通】
【告白しない男 嫌われる】
検索ワードが徐々にネガティブになっていく。
だめだ、もう今日は休もう。落ち着いたらもっと彼女と話して、距離が近づいてそれから思いを伝えるかどうか考えよう。時間はたっぷりあるんだ。
スマホをスリープにして枕元の充電ポートに置くと「ぶぉん」と充電中を知らせる音が鳴った。
電気を消して深く息をつく。
ぶーっ、ぶーっ、
「おわっ!」
スマホが着信の振動で充電ポートもといベッドから落ちそうになったのをぎりぎりでキャッチして画面を確認する。
俺は黒谷さんいつもの寝落ち電話をしてきたんだと思って勝手にニヤニヤしたが、実際に画面に写っている文字をみて驚いた。
——秋田 モカ——
「秋田さん……?」
何かあっただろうかと少し心配になりつつ、俺は通話ボタンをタップした。
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