第10話 山(崖)に登って 下を見たら・・

 数年が経過し、シゲルくんは母親の不幸などで勤務地は九州へと変わっていましたが、いまだ独身を謳歌しとります。地方の支店ではもっぱら崩れそうな斜面を整形して保護を行う法面工事が主体でした。下請け作業員はもちろん、社員も転落防止用の安全帯を装着して危険な斜面での作業を行っていたのです。


そんなある日、現場作業は何とか終了し竣工検査を残すのみとなっていましたが、検査用の管理写真を撮るために一人で現場に赴いたのです。天気も良く絶好のタイミング。シゲルくんは斜面の立ち木から下げられているロープにつかまり、ひょいひょいと吹付法面を上って小段(幅1mくらい)を横に移動しようとした時でした。いつもは気にもしていなかったツルツルの完成法面(ノリメン)、ちょっと足が滑ったら落ちてしまうな~と意識したとたん、全身が固まり動けなくなってしまったのです。


 普通に高いところは好きじゃなかったのですが、高所恐怖症ではないと自覚していたので、本人もびっくりし恐る恐る震えながら斜面にへばりついたのでした。それからどれくらい時間が経過したかはわかりませんが、周囲や遠方の風景を眺めて見晴らしがいいなあと感じだしたころには、どうしたことか身体全体の硬直から解放され自由に動くことが出来るようになったのです。リラックスした気持ちと遠近の距離感に慣れてきたようでした。


 いづれにしても、一人(単独)では絶対に仕事しないよう、改めて感じたシゲルくんでした。


 

 

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