第8話 社怪人② マジで死んでたかも・・

 ダ埼玉県での泥水風呂から数年が過ぎて、後輩たちも数人出来ていましたが、シゲルさんは相変わらず一人で池袋駅の地下鉄工事の夜間担当として元気に働いておりました。夜間工事は、上野駅のホーム付け替え工事に伴う基礎杭を設置するボーリング工事(ボーリングマシンでφ50cm位の穴を掘り、H型鋼を建て込む)で経験していたので、確か2現場目みたいです。この時は、上野駅の最終電車が終了した後から、始発電車が走り始めるまでの短時間しか作業できなく、大変効率の悪い作業でトラブル発生に最も注意した現場でした。

 1980年代当時は、今みたいに24時間営業のコンビニが営業していたはずもなく、普通に昼飯(真夜中の)を食べれるのは、懐かしい深夜喫茶とか大都会ならではの吉野家の牛丼などがあったように思う。牛丼に紅しょうがを混ぜ込んだメシは画期的で本当に美味しかったのです。


怪奇現象②

 地下鉄工事の場合、完全に地上の作業帯(ヤード)をフェンス等で囲ってしまったうえで、工期短縮のためほとんどの工事が数年の歳月をかけ12時間体制の2交代で作業に当たるので、朝8時から始まる昼間の作業が夜8時に始まり翌朝5時に終了し、交代するのである。

 発生したのは、夜の昼食(24:00)をすませ仮眠した後で、20mほど降りた地下現場にいくために仮設の一つ目の階段を下りて、ずれた位置にある2つ目の階段へと向かう狭い通路の途中で起こったのであります。下請作業班への午後の指示事項を考えながら足元注意でゆっくり歩いていたところ、フッと横にある支柱に何気に体重をかけてしまったのです。

 すると、しっかりした支柱らしきものがグニャリと無気力にたわんで、シゲルくんの身体は全体が宙に浮いてしまい、あとは重力に沿って真っ逆さまに地下へと落ちるだけでした。この時はマジで10m下の作業床が見え、こりゃ死ぬ~!と感じてしまったみたいです。ところがです、落ちつつあった目の前に単管パイプが鉄棒のように横に張り出していて、宙に浮いた身体を両手で、そうです、子どものころの鉄棒運動と全く同じようにつかめたのです。そして、振り子のごとく向こう側に飛び移れたのです。


 本当に奇跡に近くて、性懲りもなく生命力だけは恵まれているシゲルさん、しっかりした支柱と見間違ったのは、地下で作業する人達のために地上から新鮮な空気を、強制的に送風する垂直に固定された黄色い蛇腹のダクトホースだったのです。

 身体を落ち着かせたあとでゆっくり作業現場に下り、作業班に午後の指示を与えついでに自分に起こったことは棚に上げて、通路とか階段は十分に注意するよう伝えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る