第25話 鐵の墓
会話を終えた僕達は野営の準備を進める。
お互い慣れた様子で作業をこなしながら僕は、日が昇るまで動けないことがもどかしかったが、じっくり待つことにした。
待つ間はダンジョンの構造や仲間の話を聞かせてもらうことにした。
「これから助ける仲間の名は【イングリッタ】。女性だ」
「へぇ~、デンゼルさんのハーレムパーティーでしたか」
焚き火を囲いながらデンゼルさんにちょっかいを掛けるが、照れ臭そうに後ろ頭を掻いていた。
「リーダーは私だから実際はデンゼルではなく私のパーティーだな。ちなみに2人は恋仲だ。まったく、肩身が狭いったらありゃしない」
菖蒲さん、デンゼルさん、イングリッタさんの3人で【
3人とも剣を使うからこの名がついたそうだ。全員前衛とはなかなか攻撃的なパーティーだ。僕が加われば【
「こうしてる間にもイングリッタさんが危ない目に遭ってるかもしれないと思うと不安ですね」
「それなんだがな」
と、菖蒲さんが切り出しながら焚き火を突いた。
「実を言うとそれ程深刻には思ってないんだ」
「そうなんですか?」
「あぁ。彼女はとても素早い。身のこなしだけじゃなく、頭の回転も速い。彼女1人ならまずやられることはないと思っている」
となると、救助に僕が増員された理由も何となく見えてきた。
「此方から出迎えに行く、ってのが今回の遠征ですか」
「そうなる。やられはしないだろうが、それと同じく倒すことも難しい。私達2人だと相手が悪い。厳しい。だから君の力を借りたかったんだ」
「納得しました。じゃあさっさと夕飯食べて明日に備えましょう」
2人が頷くのを見て、安心した。気が急いてるのは僕だけだったようだ。
2人がイングリッタさんを信頼しているのが見て取れるから、僕も安心して夕飯の準備に取り掛かることが出来た。
と言ってもジレッタ城の倉庫に仕舞っておいた野菜や肉を刻んで煮込んだだけの簡単なものだ。コンソメとかあればなぁなんて思うが、そうもいかないのが異世界である。
作れと言われて作れるようなものでもないので、こればっかりは転移してきた料理人にお願いするしかない。
皆でスープをすすり、交代でやる見張りの順番を決めてさっさと天幕の中に入った。
うとうとし始めた頃に起こされ、見張りをやる。僕の次はジレッタなので安心して叩き起こせる。
交代で入る布を敷いただけの簡単な寝床はジレッタの体温で温まってて有難かった。
□ □ □ □
翌朝。太陽がダンジョンを囲う山を越えて日差しが出てきたら侵入という手筈だったが、生憎の曇り空で、なかなか明るくならなかった。
昨日の夕飯の残りを焚火で温め直しながら吐いた溜息は白く、スープの湯気に混ざって消えていった。
「今日はずっとこれかもしれないね」
「魔竜パワーで雲吹き飛ばしてくれよ」
「あんまり出力上げ過ぎると調整できなくて一帯全部なくなっちゃうけれど、大丈夫?」
「大丈夫じゃないです」
本気のジレッタも見てみたいが、地図が書き換わるような事態にはなりたくない。後が大変だ。
「しかしまぁ、行くしかないだろう。ずっと待ってても埒が明かない」
「曇りでも多少は明るくなるでしょうし、それから行きますか」
何はともあれまずは朝食だ。せっかく温めたスープ、食べずに冷やすのはもったいない。
食事を終え、天幕を片付けて痕跡を消し終わった頃には曇りながらも食事前よりもだいぶ明るくなってきた。
体を動かしたことで良い感じにほぐれてきたことだし、良いパフォーマンスを発揮できそうだ。
「前衛は……というか、侘助君に頼りっぱなしになるが、大丈夫かな」
「問題ないですよ。その為に来たんですから」
手を組んで腕を伸ばす。普段なら背中がゴキゴキ鳴るところだが、ほぐれきった体は非常に柔軟だ。左手に持つ緋心も、いつもより軽く感じる。
「此処をまっすぐ下って行けばダンジョンの入口……ナカツミ村に出る。其処からはもうオリハルコンゴーレムの庭だから注意してくれ」
「了解です」
野営地から木々の間を通り、山道を下る。菖蒲さんが言う通り、しばらく進むと道が広がり、開けた空間に出た。
目の前には木で出来た2m程の柵と簡素な扉が付いた門がある。これがナカツミ村の入口か。
此処からでももう、オリハルコンゴーレムの姿は視認できる。まだ村に入ってないからか、襲ってくる様子はなかった。
「じゃあ、行きますよ」
「あぁ、頼んだぞ!」
菖蒲さんとデンゼルさんが剣を抜く。どちらもよく手入れされた素晴らしい剣だ。っとと、今は見惚れている場合ではない。
先頭に立ち、村の門を一歩進むとゆらゆらと歩いていたオリハルコンゴーレムが一斉に顔を此方へぐりんと回した。ホラー過ぎる。
「ちょっと離れててください」
「大丈夫か?」
「問題ないです。むしろ危ないです」
「そうなのか!?」
僕のすぐ傍で援護しようとしていた2人が慌てて離れる。権能を使えるように放ったが、まだまだ欠陥が多いのだ。
僕が使う権能は、手で触れた箇所に対して権能の力は発揮される。だがこれは本来なら触れる必要はない。『自分が意識した箇所』に対して権能の力は発揮されるのが、本当の力だ。
僕はまだ其処まで上手く扱えないので、手で触れることで意識した箇所を指定し、権能を発揮させている。
だがこの条件を無視し、ジレッタ由来の力を扱う方法はある。
「ジレッタ」
「うん、いいよ」
箇所を指定せず、範囲指定での権能解放。これなら僕でも扱うことが出来る。自分を中心としてドーム状に権能を発揮することで、ありとあらゆる金属製の攻撃は無効化出来るようになる。
だから菖蒲さん達には離れてもらわないといけなかった。彼女らの装備まで酷いことになってしまうから。
「まだジレッタに補助してもらわないと自分の装備まで腐らせちゃうからな。1人でも使えるようになればいいんだが……」
「まぁもうすぐ使えるようになると思うよ。それまでは補助させてよ」
そうだな。2人で一緒に使えるのは今の内と思えばこれも悪くないかもしれない。
ずんずんと近寄ってくるオリハルコンゴーレムは僕の指定する範囲内に踏み込んだ足から腐食していく。
酷い有様だ。踏ん張れなくなって体ごと転がってきて全身がボロボロに崩れていく。巨体は僕に触れる前に完全に塵となって消えていった。
これ吸ったら体に悪いだろうな……なんて思わず口を手で覆っていたら、突然路地裏から現れたゴーレムが両腕を広げて襲ってきた。
「奇襲もするのか……とんでもないな、此処は」
「まぁ、意味ないんだけれどね」
広げた全身で【腐食の権能】を浴びたゴーレムは真正面から抉り取られるように崩れていく。これを皮切りに入口周辺に溜まっていたゴーレムがどんどん僕達へ押し寄せてきたが、そのどれもが塵となって消えていった。計13体のゴーレムが雲散霧消していくのを見ていた菖蒲さんの声が聞こえた。
「チートもチートだな……」
「金物が相手の時だけですよ。これがゴブリンなら大変でした」
「よく言うよ。先日のゴブリン砦の話は詳しく聞いてる。君、生物相手でも強いだろう」
「あれは盛ってるんですよ、皆が」
話しながら権能を解いて合流する。しかしあれだな。噂ってのは何処までも尾鰭がつくものだ。厄介なものだ。
それはそうと権能を利用した戦闘はやはり僕だけの戦場になってしまう。
ゴーレムが全員僕のところに来てくれれば問題ないのだが、菖蒲さん達の方に割れてしまうと権能のオンオフが面倒だ。
量が多い時は今みたいに権能で一気に殲滅してもいいが、乱戦になるようであれば緋心で戦った方が良いだろうな。
「じゃあ奥に行きましょうか」
「あぁ、道案内は任せてくれ」
いよいよ探索が始まる。菖蒲さんの仲間を助け、ニシムラの情報を引き出す。ついでに何かしらのお宝も得られれば、言うことなしだな!
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