傘を差して

@rabbit090

第1話

 「あなたが、宇宙人?」

 「違うって、見れば分かるじゃん。」

 「だけど…。」

 「だけどもクソもないでしょ?それより、早く行こうよ。」

 「…分かった。」

 でも、私は信じている。この日この時間に、”宇宙人”が現れるんだって。死んだお父さんがそう言っていたから、私が、その言葉を信じなかったら、全てが嘘になってしまうから、だから。

 「絶対に、いるんだ。」

 「いるわけないでしょ?そもそも宇宙人って何?」

 「知的生命体のこと、彼らは私達よりはるかに高度な物事ぶつじを知っている。」

 「ふーん、でも証明できてないじゃん。」

 「うるさいな、その内、時間が分かれば大丈夫なんだ。僕はずっと、彼らの存在を検知することに、人生をかけてきた。だから、多分死ぬまでには何か、痕跡が残せると思うんだ。」

 「はあ。」

 「はあって何だ、お父さんは、一生懸命なんだ。」

 「分かったよ、頑張って。」

 私は、父と二人だけで生きていた。母は、死んでしまったから。

 そして、父は研究者の仲間にも入れない、野良だったけれど、とにかくその宇宙人とやらを観測することに全力を捧げていた。

 だから、私達の生活はあやふやだったけれど、祖父や祖母が見かねて、ギリギリになった頃に援助をしてくれるから、死ぬとは無い。ハズだった、のに、

 「病気?」

 「………。」

 父は、黙っていた。

 私はその時、小学生だったから、

 「お前は、おばあちゃんが面倒みるって、いいよな?」

 「…えっと。」

 私は、即座には答えられなかった。

 私は、父が大好きだった。ずっと一緒にいたかった。不甲斐ないけど、でもそういう、何事かに懸命になっている姿は、好きだった。

 だから、

 「ごめんな。」

 いつも一方的で自分勝手な父が、謝った姿を、その日初めて見た。

 父は、しばらくしたら死んでしまう。

 でもその前に、宇宙人の痕跡を、掴むのだと言い張った。

 私も、余命幾ばくもない父の願いならば、と学校を休んで手伝った。あいにく、勉強は大丈夫だったし、父がしっかりしていない分、私がしっかりできているらしく、学校の皆はそういうことならって、受け入れてくれた。(というか、父は地元でも有名な変わり者だった…。)

 そして、間もなく父は死んだ。

 けど、父が書いていた日記に、ある観測事実が書かれていた。

 それが、今日、なんだけど。

 私は、目を見張った。

 本当に、現れた。が、彼は、人間だ。でも、確かに、私が瞬きをする合間を縫うように、急に、その人は現れた。

 だから、

 「あなたが、宇宙人?」

 なんて聞いてしまったけど、でもその人は怪訝そうな顔をして、私の手を引いた。

 その人によると、私達は一緒に出掛ける約束をしていたらしい。だから、私達は今、電車に乗って遠くへ行こうとしている。

 「………。」

 「………。」

 彼も、私も何一つ話さないけれど、やっぱり、おかしい。

 私はなぜ、急に現れたこの人に従って、今ここにいるのか、どうして、一緒にどことも分からない場所に向かっているのか。

 聞きたい、という気持ちが浮かんだ瞬間に、全てが消えてしまう。私の頭の中が、コントロールを失っている。

 辿り着いたのは、海だった。

 「何で海?」

 その頃は、もう朦朧としていて、言葉もなんか、ぼんやりとしか出てこなかったのに、

 「ありがとう。」

 その人は、私の手を離した。そうか、ずっと握られていたのか、と気づいたのはその時だった。

 そして、私は意識を失った。

 

 

   

 気がついた先に待っていたのは、

 自宅の部屋だった。

 そして、

 「急に倒れたから、びっくりしたのよ?」

 おばあちゃんが、私を心配そうにのぞき込んでいる。

 話によると、父が死んで動揺して、その勢いで、体調を崩して倒れたのだろう、という話になっていた。

 けど、私は分かっている。

 ”宇宙人”はいる。

 それが分かれば十分だった、父は、嘘などついていないのだと、知っているから。

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