第18話
時は少し遡り、サフィラスがナイフを片手に胸中を吐露していた最中。端末越しにメアリーを見下ろす、白衣を着た露草色の髪の女性がいた。眼鏡で
そんなことは露知らず、メアリーは簡潔に報告を行なった後、彼女に指示を仰ぐ。
「――ということになったのですが……ターゲットと行動をともにすべきか否か、その答えを頂けますか」
「ん〜、そうだなあ。今のキミは緑帽隊という立場だ。よって、断るのは簡単だけど――彼、
「……はい。おそらくは」
女性は最後のひとくちを押し込むと、ボトルの中身を飲み干す。そして砂糖でベタベタになった手をナフキンで拭いながら、メアリーに指令を下す。
「じゃあ、もう答えは一つしかない。段階的に接触したかったけど、ここはあえて乗ろう」
「承知しました。期限はあちらの提示する、丸一日でよろしいですか?」
「うん。で、もし延長を望むようであれば、そのまま傍で監視を続けてほしい」
「かしこまりました。では、失礼します」
メアリーが淡々と連絡を断つと、女性は次いで現れたエリンに、恨みの籠もった愚痴を吐き捨てる。
「はあ……コミュ力強いヤツは羨ましいよ。気後れすることもなく、最短で打ち解けられるんだからさ」
《マスターハ、友人ガ欲シイノデスカ?》
「んー、別に。どうせ裏切られるし、頼まれたとしてもこっちから願い下げだよ」
《安心シテ下サイ。私ハ最期マデ裏切リマセン。ズット、アナタノ傍ニイマス》
「エリン、お前――」
真っ直ぐに向けられる、至誠の眼差し。女性は恐る恐る手を端末に伸ばすも、触れる直前でピタリと止める。そして代わりに自身の顔を覆うと、力なく笑う。
「いや……ははっ、そりゃそうだ。ボクが作ったAIなんだ、ボクにとって都合のいいように答えてくれるよな。 ……まあ、それでも礼だけは言っておくよ。ありがとう、エリン」
《……ハイ。全テハ、マスターノオ望ミノママニ》
エリンは瞼を閉じると、静かに口を
視点は、4人で行動することが決定した直後のサフィラスたちに戻る。メアリーは中腰になると、リベラに一等晴れ晴れしい笑顔を向ける。
「……さて! 早速ですがリベラさん、どこか行きたいところや食べたいものなど、ご希望はありますか?」
「えっとね、全部! 全部見て回りたい!」
「全部、ですか? 叶えてあげたい気持ちは山々なのですが――今日一日だけでは、頑張っても5か所くらいになっちゃいます」
「じゃあ、今日だけじゃなくって明日もお姉さんと一緒にいたい! ……だ、だめ?」
「……それは」
メアリーが視線を逸らすと、今度はサフィラスと目が合う。しかしすぐさま目を伏せ、何事もなかったかのように立ち上がった。
「はい、リベラさんがお望みでしたら! 先ほど上の人に聞いておいて正解でした!」
「ほんと? ……えへへ、お姉さんありがとう!」
リベラはサフィラスのもとに駆け寄ると、嬉しそうにやり取りの結果を伝え始める。ロアはその様子を一瞥すると、手持ち無沙汰になったメアリーに話しかける。
「無理言っちゃってごめんなさいね。ちなみに、ホントに全部周るとしたらどのくらいかかるの?」
「えーと……厳選して、おおよそ二週間というデータがありますね。隅々まで見て回るのでしたら、その倍のひと月は必要になります」
メアリーは腕に巻いた端末を操作し、空中に表示された画面とともに答える。
「なるほどね……でもアタシたち、ワケあってあまり長居できないのよ。だからあの子には悪いけど、案内はひとまず今日だけにしてほしいの」
「あ、そちらについてはご心配なく。上の者に掛け合ったところ、「希望の期間だけ延長する」とのことでした」
「えっ? ……ねえ。さっきの連絡相手って、もしかして――んぶっ!」
メアリーは咄嗟に端末の画面を消すと、目にも留まらぬ速さでガイドマップをロアの顔面に押し付ける。
「では初めに、最寄りの観光名所からご案内させていただきます! その名も“幽世の花園”――花々が咲き乱れる、世界有数の広さを誇る植物園です!」
そしてメアリーは、高らかな声で明後日の方角を指した。
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