第8話
1通目に書かれていた内容は、要約すると以下の通りだった。
《みな、よく来てくれたね。話はディオス村長から聞いているよ。なんでも、世界中を旅して回っているそうじゃないか。興味深いから、ぜひ一度ボクと会ってもらいたい。国で最も高級なホテルに泊まらせてあげたんだ、それくらい安いものだろ? という訳で、全員分の衣装を送っておく。当日を楽しみにしているよ》
そして2通目に書かれていた内容は、舞踏会の説明だった。開催日時や場所、ドレスコード等、欠けていたメインの情報が補われている。
2通目にも目を通したロアは、溜め息と共に頬杖をついた。
「何というか、ディオス村長を思い出すわね。類友なのかしら……」
「とはいえ、好都合でもある。人脈を拡張すれば、今後の旅もより円滑になるだろうからね」
「ふふっ。気付いたら、顔パスで国を行き来できるくらいの地位に居たりして。 ――さて、昨夜の続き“白百合の舞踏会”について、知ってる範囲内で説明させてもらうわ」
ロアはテーブルの上にはめ込まれた端末を取り出すと、空間に映像を映し出す。手を取り合い踊る人々は、目元こそ仮面で覆われているが、誰もが唇に微笑みをたたえていた。
「“白百合の舞踏会”は、性別も身分も国籍も、全てを仮面で隠して楽しむダンスパーティーよ。人気が高くて、毎回チケットが取り合いになるほどなの。では、何故人気なのか? 理由は開催元がハッキリとしている上に、毎回必ず1組、運命の出逢いを果たしているからなの」
リベラは華やかな衣装に身を包む老若男女に、興奮気味に質問する。
「昨日のお話みたいなことが起きてるの?」
「ええ。だから純粋にパーティーを楽しみたい人と、運命の人を目当てに来る人と二分されてる感じね」
「運命の人……」
しかしサフィラスは、懐疑心を
「であれば、何故我々は招待されたのだろう。冒険譚を語るには適さない場である事くらい、流石に理解している筈だ。 ……因みに、この舞踏会には王も参加しているのかい?」
「う〜ん……アタシにも分からないわ。けど主催者の子である以上、何らかのチェックはしていてもおかしくないわね。この手紙の送り主ーー王子様はまだ独身らしいし」
ロアは端末の電源を切ると、再びテーブルに押し込む。そして壁に掛けられた時計を確認し、次いで窓を一瞥した。
「……さて、と。開催まで少し時間もあるし、街を観光しに行かない?」
観光の2文字に、リベラは期待を言葉にする。
「どこに行くの? もしかして、昨日話してた絵本のたくさんあるところ?」
「当たり! 目指すはアラカ図書館よ!」
◇◇◇
そうして彼らはネーヴェをポシェットに隠し、市街の中央に建設された図書館に辿り着く。遠方からでも目に留まる高さであったため、緑帽隊の手を借りることはなかった。
真っ白な外観には、3本の黄金の枝が巻き付いていた。入場口である扉の上には、開いた本を模したオブジェが設置されており、透き通ったガラスの壁は入館者の様子を見通すことが出来る。
するとリベラは、不思議そうにロアを見上げた。
「ねえ、ロア。壁がガラスだけど、中の本はだめにならないの?」
「ええ。特殊なガラスが使われてて、日光は入り込まないようになっているの」
「いいなぁ……。私の家の窓も、そうだったら良かったのに」
扉の前には、複数の列があった。列の先には緑帽隊が1人ずつ配置されており、ロア達もその最後尾に並ぶ。やがてロアと目が合うと、緑帽隊の男性は会釈をした。
「こんにちは、アラカ図書館へようこそ。セキュリティ対策のため、手荷物検査と身体検査にご協力お願いします」
『やばっ、そういえばそんなのもあったわ! ど、どうしましょ……! ネーヴェちゃんがバレたら大変なことに――』
「では、お客様からお願いします」
「え、ええ」
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