0 ? 貴方に届け プレゼント 12月25日
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柔らかな緑がホワンと輝く洞窟の奥。 広場の天井には大きな円形の穴が空いていて、粉雪がふわふわと落ちてくるのに、たくさんの星が降り注ぐように煌めいている。
中央の大きな木には、さっき見惚れたような立派な飾りのついたクリスマスツリーがあった。
「「「 コウターー! 頑張ったのーー! 」」」
仲良しの妖精たちと子猿にリス、ムササビ、ヤマネ。近くに住まう二十五匹の小動物たちが、特別に育ててくれた巨木。茂る見事な葉に木の実やフルーツ、色とりどりのリボンを飾っている。季節なんか関係なく、ブドウも桃も苺も蜜柑も。どれも瑞々しくて芳しい香り。瑠璃色の小鳥のソラが赤い風船をツリーの頂点に縛りつければ、ゆらゆらとゆらめくツリーの完成だ。
「おー、いいじゃねぇ? すげぇな〜。 ほら、飯を持ってきたぞ」
転移スライムのプルちゃんがシュンと魔法を使って、コウタが大好きなエンデアベルト家の人々を送り込んで来る。その手には山盛りのご馳走だ。
「ディック様ーー」
たたと走り寄って抱きつくと、逞しい腕がコウタを軽々と持ち上げ、無精髭をチクチクと擦りつけた。
「オメェ、また、えらいもん作りやがって! やらかしかぁ?」
イタズラなその目を独占したコウタは、髭が痛いときゃきゃとのけ反る。
「クリスマスだから! でもここなら誰にも見つからないでしょう? やらかしじゃないよ」
嬉しげな漆黒に目を細めたディックは家長らしく周囲を見渡し、土塊で作り出されたであろうローテーブルに持ってきた肉料理をどんと置いた。
シュン! シュン!
妻のサーシャと端正な顔立ちの青年クライスも相次いで到着だ。中世ヨーロッパ風の出で立ちは気品にあふれ、どこかの山奥の洞窟でさえ華やかに彩っていく。
「うわっ、うわぁ! コウタ! すっごい木だね! これがクリスマスってやつ?」
「まぁ、コウちゃん! なんて、なんて可愛らしいの。 その三角のお帽子! キュートよ。すてき。あぁ、動物さんなのね? なんて可愛いの! 幸せだわぁ」
持ってきたご馳走を瞬く間に置いて、可愛い子らに夢中の二人は、煌びやかな金の髪をふわり揺らして、細かな雪が降る落ちる広場を明るく照らしていく。
シュン!
「ふぅ、無事でございますね。転移など久し振りですから。ふふふ、コウタ様、盛大に準備されましたね」
老骨な紳士は執事のセガ。表情を変えない凄腕の魔法使いだが、拾い子のコウタには甘い好々爺。年齢不詳のメイド頭のメリルと共にエンデアベルト家を支えている。
「あぁ、サーシャ様ご無事で! …………なんということでしょう! 可愛いしかいないではありませんか?! サン! 気をしっかり持って仕事をするわよ」
「もちろんですわ! メリル様。コウタ様専属メイドとして、クリスマスを盛り上げますわ」
メイドのメリルとサンは、チラチラと可愛い幻獣とコウタを見ながらうっとりと給仕の仕事に取り掛かった。二人は収納袋からカトラリーや料理、場を彩るクッションや燭台やらを次々と取り出してテキパキと並べていく。
黒い狼のジロウは馬ほどの大きさになって、テーブルの近くに横たわると、ぺろり舌を舐めてすんすんと鼻を鳴らした。
「ああん? どうすんだ? こっから飛び降りるってか?」
天井から下を覗いているのは長男のアイファと冒険者パーティのキールとニコル。『砦の有志』一行は、どうやらどこかに遠征していたようで一仕事終えたドヤ顔で見下ろしている。
シュタツ!
パキーーン。
軽やかな身のこなしで飛び降りたアイファを見取って、神鳥のソラは素早く防寒のシールドを張った。
次いでアイファは、ニヒヒと悪い顔をしてコウタにリボンのついた包みを渡す。
「調べてみたぜ? クリスマスって奴はガキにプレゼントを渡すんだってな。 ほら、とっておきのプレゼントを持ってきた」
コウタが包みを開けると、ひゅるると白い煙が立ち上る。
「えっ? これは何?」
「ああん? 知らねぇの? コウタの大好きな
「ぎゃぁあああああああああ」
慌ててジロウの腹の下に潜り込んだコウタを『砦』の一行は腹を抱えて笑ったが、すぐに優しく救いの手を差し伸べる。
「ごめん、ごめん。大丈夫だよ、コウタ。 これは霧の花。ほら、見てごらんよ、きれいな可愛い白い花だよ」
もふもふと豊かな漆黒の毛の下から、魔法使いのキールをそっと見上げたコウタは、その神々しい小さな花にほうと目を向けた。白い花びらが幾重にも重なり、まるでツメクサのようだけれど、その白さは神秘的な輝きだ。
ニコルがそっと耳打ちした。
「こいつ、かなり珍しいんだ。険しい山の一角にしかなくて。しかもこの季節。雪深くって見つけるのは大変だったんだよ。アイファの奴、どうしてもコレを見せたいって」
「えっ……そうなの? どうし……」
幼子がことりと首を傾げれば、物珍しさにディックと執事が包みをのぞき込んで言った。
「ほう、よく見つけましたねぇ。これはかなり珍しい花です。霧は手折ってから数時間しかもちませんし、よく婚約の指輪を渡すときに使われる花です」
「くくく、アイファ。テメェ、随分過保護だな。花言葉はー-なんだっけか?」
意地悪いディックの言葉に顔を赤くしてふてくされるアイファ。
「違げーし。コウタが驚く姿が見たかっただけだよ」
ぶっきらぼうに言ってはみたが、母であるサーシャがクスリと笑みを溢した。
「霧の中でもあなたを離しません。つまり、あなたのことをずっと大切にします、って意味よ。 うふふ、彼女にも家族にも使える言葉よねぇ」
照れるアイファの長い脚にぎゅっとしがみついたコウタは、柔らかな金の光でほわわと辺りを照らし始めた。
「ずるい! 兄さんずるいです! 僕だってコウタにプレゼントがあるんだから」
アイファの足からコウタをもぎ取ったクライスは、自身の前にコウタを立たせ、水色のリボンを結んだ小さな白いものをコロンと手の平にのせた。
「コウタ! クラ兄からのプレゼントだよ。これ、古代ゴブリンの恥骨。すごいだろう。兄ちゃんが発掘した貴重な恥骨だ」
い、いらない……。
ひぃとぶん投げたくなった気持ちを必死でこらえ、顔を引き攣らせながら礼を言うコウタ。
サーシャとメリル、サンからは、ソラとジロウとプルの着ぐるみを貰い、いつだって抱きしめてあげるからと言われたコウタは、こちらでもそっと口角を震えさせた。
皆からのプレゼントを横目に見ていたディックは、ふわとコウタを抱き上げると、漆黒の瞳を見つめ、穏やかで優しい声で話しかけた。
「俺がお前にやれるもんは何もない。だが、見えんもんはやれるぞ」
「見えない……もの?」
ぎゅっと顔に手を回し、嬉し気に抱き着くコウタにディックは星を見上げて言った。
「どんなときだって、俺はお前を見捨てないってことだ。やらかしても、お前が嫌だって言ったって。俺は、俺達は……か? 全力でお前の見方をしてやるから。まぁ、信頼と愛情ってやつさ。これは見えねぇが、ずっとずっと大事なもんだし、誓いって言えばいいか? 覚悟って言えばいいか? お前が大好きって気持ちだ。ちゃんと受け取れ。 」
だんだん声が小さくなって、だんだん話し方がゆっくりになって、最後の方はコウタにしか聞こえないくらいの声になってしまったけれど。
漆黒の髪がさらさらと柔らかな雪風に揺れ、ぼさぼさの薄茶の髪にしがみついたコウタは柔らかな頬を押し付けて、震える声で「うん」と頷いた。
『ねぇ、まだ~。僕、もう我慢できないよ』
豪勢なご馳走を前に「おあずけ」を食らっていたグランは、ぺろぺろと大きく舌なめずりをして、よだれを垂らした。らしくないジロウの姿に一同は大いに笑い、クリスマスの宴を始めたのだった。
きゃあきゃあと笑い、むしゃむしゃがつがつと食べ、ざぶざぶと豪快に酒を飲むエンデアベルト家の面々をコウタは満面の笑みで見つめた。
そして、粉雪が舞う空ときらきらと灯されるツリーのイルミネーションに目を移す。
そうだ、唐揚げ! お店でもらった唐揚げがあった!
急に思い出したコウタは、サーシャに油が滲んだ紙の包みを見せる。
「お店の人がね、お母さんに見せてから食べなさいって言ったの。これ、唐揚げって言って、とっても美味しいの」
「コ、コウちゃん……。お、お母さん……って。私、嬉しい!」
すっかり冷え切った茶色の拳骨のような肉塊は、コウタの手の中でじゅわと温められて、かぐわしい香りを取り戻した。うっとりとするコウタに皆の目が釘付けになる。
うふふと笑ったコウタは、唐揚げを半分にちぎってサーシャの口に入れ、もう半分の半分をディックに、そして残りを自身の口に放り込んだ。
「うふふ! 美味しいね。美味しいは楽しくて嬉しいね。ねぇ、母上、父上、次はみんなで食べられるように、一緒に作ろうよ」
「ええ、ええ。そうしましょう」
「おっ、おう」
ディックとサーシャにことりと頭を預けて甘えたコウタは、降り注ぐ満天の星々の向こうに、本当の両親の微笑みを感じてにっこりと笑ったのだった。
このあと、みんなへのプレゼントとして街で聴いたクリスマスソングを歌ったコウタが、山の雪を溶かして新緑の森を再生させたとか、シードラットが隠した草木の種をすべて開花させて冬山に花畑を作ったとか。
そんなやらかしは…………サンタからの贈り物に違いないとエンデアベルト家が全力で誤魔化したなんて。
うん、そう。それはー--ー
聖夜の空に、輝く
今宵、貴方のもとに、小さな奇跡がきっと届く。
12月25日
すべての読者様に。
ありがとう。 メリークリスマス!
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