余談・同時刻、砦の面々

「おいおい殿下は大丈夫なんだろうな????」

 ミザル、アルコー、カイン、リョウの四人は何かあったらすぐ駆け付けられるように岩風呂に一番近い洞穴に詰めていた。

 フェルカド、チャラワンは兵卒が不安がるといけない、と詰め所に戻っている。兵卒を落ち着かせる、それも大事な役目だ。

 広間だって狭く感じたのに、更に狭い洞内を落ち着きなく徘徊するミザル、アルコー。

 カインは腹を括っているのか黙って腕を組んですわったままだ。

「手は尽くしましたよ、あとは殿下の生命力に賭けるだけです」

 二人に散々せっつかれどやされ憔悴しきったリョウが壁際に寝返りを打って転がっている。


 ワームの中から引きずり出した時、ダキアの被毛は溶けて爛れてずる剥けになる一歩手前だった。本当に、咄嗟の機転でシェリアル姫が治癒のマナを射てなかったら、真皮が綺麗に剝離し、生きた筋肉標本がまろび出てくるところだった。しかし喜んでもいられない、左目の目頭に膿んだ白濁が溢れ出ていた。多分消化液が入ったのかも知れない。すぐに大量の水のマナで洗浄し、治癒のマナを宛がったが完治するかは正直怪しい。



 全員、ちょっともう何も考えたくないくらい疲労しているのに、悪い事態ばかりが次々涌いてきて脳内をグルグル回る。


 そんな中、岩風呂から感極まったシェリアルの声が響いた。


 この中では一番格下のアルコーが席を外し、ちょっとした後、心なしか酸っぱい果実を齧ったような何とも言えない微妙な表情を浮かべてそそくさと戻ってきた。見ようによっては泣くのを堪えているようにも見える。

「どうしたんだよアルコー」

 ミザルが不安を押し隠して問うとアルコーはしばらく口ごもり、やがてやけっぱちになったかのように小声で

「.....てた」

 とつぶやく。

「あぁ?聞こえねぇぞ」

「だから、......たってば」

「聞こえねーよ」

 そんなやり取りが何度か繰り返された後、

「く、口吸い、してたんだよっ」

 いささか古風すぎる表現でダキアとシェリアルが接吻していた、と報告すると、アルコーはその場からすっ飛んで逃げていった。



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