第10話 歌を紡ぐ者

 酒場より

 聞こえくる歌

 流れきた者の歌

 赤の髪

 金の声して

 かたわらに黒髪の乙女


 その黒髪

 文字を知らず

 ともに流れ提琴鳴らす

 赤の髪が歌うとき

 影のように沿うて

 その提琴の音


 空から来た

 外から来た

 そして次の地へ

 誰も知らぬ

 誰もが言う

「かの世の外からの音」


 黒髪の鳴らす

 今宵はどこで


   ◆


「〈文字を知らず〉って、歌われちゃった」

「あはは、勉強してるのにね。

 朝から何書いてるの?」

「……教えない。見ないで。

 わ、やだ、跳んでこないでよ、部屋が揺れるよ!」

「この服を着ると、身体が軽くて跳べるんだ。そんな〈福〉を授かっているのね」


 どうも、鈴蘭寮のどこかからこの世界に降ってきたものは、元の持ち主の能力が〈福〉として使えるらしいのだ。

〈幸田ミナミ〉さん、どんな人だったのかな。調べたいけどスマホ使えないんだよね。

 リンナが調子に乗って跳躍力見せびらかすもんだから、多分幸田さんって、陸上部とかの有力選手とかなんじゃないのかな。


「そういえば昨日はエドモンド、ずっとこっち見てたね。知ってたの?」

「ええ?」


 とぼけて見せた。


「ここで歌うの、五日目だったじゃない? そろそろあたしたちも人気出てきたかもよ?」

「そ、そう?」


 天から降ってきたものの、誰も使い方を知らない〈楽器〉というものを見せてもらったら、それはバイオリンだった。

 音大推薦確定と言われる私に、調弦も演奏も余裕だったんだけど……


「やっぱり、あれを弾くためにあんたは降ってきたんじゃないの?」


 そんなことで?


「それを奏でることで、何の〈福〉があるのかわからないけど、誰も弾けなかったところにわざわざ弾ける人間も来たってことは。

 思ったより大きい話だったりして?」

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