第36話 魔法学園都市アニューズへ

 1週間後、コシークに着いた私とエイリンド様は瀕死だった。

 いや、死なないけど。気持ち的に瀕死だった。

 ザムザさんとフランカさんはすぐコシークを発って次の街へ行くつもりだったらしいけど、コシークで結局3泊もしてしまった。

 その間にカタリーナさんたちは先にアニューズへ向かって出発していったから、4人だけがコシークに残った。


 こういうときには、さすがにお肉も食べたくならないね……。果物食べつつひたすら水分とりつつ、ベッドでゴロゴロして回復を待つ。エイリンド様はベッドは不慣れなので最初は嫌がってたんだけど、この強制休養で慣れたみたい。


 まずかったのはやっぱり脱水症状かな。船員さんたちは「エルフがこんなに船酔いするなんて」って困惑してたけど、「船底の方の船室だか倉庫だかをちゃんと掃除しろ!」って叫ぶことができず、船の縁にずっと張り付いてたもんね……水を飲んでも吐いちゃうし。

 船の縁に張り付いてたのは、もちろん吐くときにそこが一番便利ってのもあるけど、一番匂いがマシだったからだよ。


 とはいえ、3日も休養すれば私とエイリンド様はバッチリ回復した。そこへニヤニヤ笑いを顔に貼り付けて、ザムザさんが究極の二択をひっさげてやってきた。


「アニューズまで荷馬車に乗っていくのと歩いて行くの、どっちがいい?」


 その顔の笑いが、私がどっちを選ぶかわかりきってて言ってるんだよねえ。


「歩きます……。せっかく海から解放されたのに、あの馬車に乗りたくない」

「まあ、そう言うだろうと思ったよ。じゃあ俺らは買い出しに行ってくる」


 私とエイリンド様の分も野営道具を買って、携帯食料を買い足してくるのだという。この辺は個人資産の他に共同資産みたいなのを作って運用してるんだよね。私も森の王討伐の報酬から、そっちにお金を入れ始めた。

 だってザムザさんとフランカさんにずっとくっついていくんだもんね!


 エイリンド様にとっては、「個人的にお金を持つ」よりも「全体のお金として管理する」方が理解しやすかったらしくて、コシーク行きの船便として稼いだお金の余った分は全部そっちに入れてた。

 確かに、エルフの文化だと共有財産って考え方の方が馴染み深い。

 私はお菓子とか売ってたら買いたいから、自分のお財布にお金を入れておきたいけどね!



 旅を始めて3日目、私の感想としては、隣のメイデアの森がある大陸よりもこっちの方がいろいろ整ってるなあって。

 まず、整備された街道がある。街道沿いにはちょくちょく集落があって、人が旅をしやすいようになってる。


 多分、物流もかなり整ってるんだろうな、道が整ってるって言うことは、軍か商人かのどっちかだよ。

 ところが残念、「道が整ってますね」ってザムザさんに話を振ってみたら、軍の方だった! くっ、やっぱり国策か! 商人だけの力じゃ街道整備は難しいもんね。


「何年前だったか……今俺たちがいるオルレーデ王国と、ちょい南にあるテルビオン公国の間で戦争になったんだよ。オルレーデ王国とバルマノック王国ってのがこの大陸の2大国家で、テルビオン公国は大分前にバルマノックから独立したんだが、ほとんど属国扱いだな」

「バルマノックとオルレーデの接しているところはそれなりに兵が常駐してるから、比較的兵の少ないところを狙って、バルマノックがテルビオンを使って侵略させたのね」

「うわ、やり方がいやらしい」


 ザムザさんとフランカさんの説明に、私は思いっきり顔をしかめてしまった。

 属国使って攻め込ませるとか、本国にダメージがないようにしてるんでしょ?

 やだなあ、そういうの。内情を知ってるわけじゃないけど、既に私の中でバルマノック王国はマイナス印象だよ。


「まあ、兵力も少ないし国力も低いテルビオン公国は、すぐに負けたというか、兵を引いたんだけどね」

「魔法都市アニューズってのはよ、国境に比較的近いんだよ。オルレーデ王国はアニューズをいろいろ優遇してるから、ここは世界中から魔法使いが集まってきててな。……すると、どうなると思う?」

「わからんな!」

「エイリンド様は偉そうにわからないって言うのやめてくださいよ。魔法使いにとってはオルレーデがアニューズを保有してる方がいいから、そんな近くで戦争起こされたら進んで前線に行く人も出たんでは?」

「あら、やっぱりルルは頭がいいわね。ずっとエルフの森にいたのが信じられないくらいだわ。人間世界のこんな状況もすぐ推測できるなんて」

「エルフの秘術です」


 前世の知識だから、とりあえずエルフの秘術といってごまかす。嘘じゃなーい。

 まあ、そんな話で、魔法使いが大挙して押し寄せた前線はまともな戦闘が成り立たなかったらしい。

 それが、テルビオンがすぐ兵を引いた理由なんだとか。

 まあ、テルビオンも好きで侵略したわけじゃないから、いい口実が出来たとか思ってたんじゃないかって。


 その時の戦争の経験を踏まえて、オルレーデ王国内の街道が整備された。有事の時には速やかに兵や物資を輸送できるようにってことだね。

 もちろん、平時には商人にとっても大事な物だから、街道の整備は無駄にはならない。兵を増やしたんじゃなくて、国内の移動効率を上げたっていうのはいいやり方なんじゃないかと私は思うよ。


 整備された街道は旅人も多くて、でも治安も良かった。野宿してる人もちらほらいたけど、野宿できるって事は結構安全って事だもんね。


 途中で鹿を狩ったりしながら旅を続けること1ヶ月。私の視界に城塞都市が飛び込んできた。


「ふわああ……でっかい!」

「これが魔法都市アニューズよ。オルレーデ王国の中で唯一自治が認められてて領主のいない街」


 フランカさんの説明に私は更に目を見開いた。

 自治権があるんだ! 完全に学園都市みたいになってるのか。

 オルレーデ王国、今まで見てきたところと比べると文化が段違いだね!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る