第31話 実食! 森の王!
私も元人間だけどもさ……「後2回」って言われて思わず「欲深いな」って思っちゃったよね。
200年のエルフ思考はなかなか矯正できないか。
ともあれ、干し草が足りなければ牛が飢えるから、ここは「人のため」じゃなくて「牛さん美味しいバターをありがとう」という気持ちで頑張ろう。
そして私が踊りまくりながら牧草を育て、いい加減に疲れた頃にザムザさんが戻ってきた。
なんかいい匂いがする……これは、多分お肉だ!
「エルクのシチューだ。持ってきてやったぞ」
木の椀に薄い茶色のシチューが入っていて、少しの野菜と肉団子っぽいものが浮いている。
エルクのシチュー!! ルル、感動!
「やった! ザムザさんありがとう!」
「俺は持ってきただけだ。作ってきたのは街の女衆だし、森の王を討伐してくれたことに感謝してたからな。これも報酬の一部って事だ」
「いっただっきまーす!」
「……聞いてないな」
木の匙をお椀に差し込んで、スープを一口。うーん、素朴な味だけどまろやか。多分臭み消しにハーブとかも入ってるんだろうけど、全然臭みはなくて一緒に煮てある根菜も柔らかくなってるね。
で、この肉団子がエルク……。
ドキドキしながら肉団子を吹き冷まして頬張る。おおっ、柔らかい! ジビエって硬いことが多いんだけど、煮込みにしてあるせいか、挽肉みたいにしてから肉団子にしてるせいか、あまり硬さを感じないね。口の中でほろっとお肉がほどける。
脂身を感じないあっさりした赤身のお肉だけど、味気ないとかそういうことはなくて、お肉の風味が濃厚だ。濃厚なのにしつこくない! 美味しいー!
「美味しい~! 美味しいです! 森の王バンザイ!」
「いや、うまいのは認めるが二度と出てもらっちゃ困るんだよ……」
美味しい美味しいと連呼する私にザムザさんが呆れた視線を投げてくる。
「あっ、ルル。ここにいたのね」
「ルルちゃーん! 焼いたお肉ももらってきましたよ!」
フランカさんとカタリーナさんもお皿を持ってやってきた。こっちにはフォークが付いてるね。
うわ、エルク焼き肉だぁ……見てるだけでよだれが出て来そう。
焼いたエルクには潰したジャガイモとジャムっぽい何かが添えられている。最初にそれだけフォークでつついて舐めてみたけど、うん、ジャムですね。少し甘酸っぱい普通のジャム。
「なんかお祭りみたいになってたわね」
「そりゃあ、これだけ肉が大量に手に入ったらなあ」
「あの森の王を食べると思うと感慨深いですね」
私の側にフランカさんとカタリーナさんが座り込んで一緒に食べ始める。
このジャムはどうしたらいいのかなと思ってたら、フランカさんがお肉にちょっと付けて、お肉から出た肉汁をジャガイモに絡ませて一緒に食べてた。
あー、なるほど! そういえば聞いたことある!
ここは寒い街だからカロリーが余計に必要なんだ。あまり長くない夏の間にせっせとベリーを摘んで、保存の利くジャムにしておけば冬のカロリー源になるって前世で何かの本で読んだ。
焼き肉の方がシチューより「肉!」って感じで食べ応えがあるね。お肉は割と硬いんだけど。噛めば噛むほど肉のうまみを感じるし、鹿より臭みはマシかな……何かのお肉に似てるんだけど。
何に似てるんだろう、確実に私の好きなお肉なんだよね。美味しいなあ。
癖はあるにはあるけどそんなに強くないし――そうだ、ラムとマトンの中間くらい! 私の大好きなラム肉に似てる! やだー、大勝利じゃーん!
頬を緩ませてもぐもぐとエルク焼き肉を食べていたら、ヘルマンさんたち酪農家さんもいつのまにかお椀や皿を持って料理を食べ始めていた。
これは、炊き出しみたいなことになってるのかな。
「森の王が出てどうなることかと思ったが……」
「ああ、毛皮も上等なのが取れてるし、あの大きさならいい値段で売れるだろう。干し草はルル様が手を貸してくださった」
「今年の冬は越せないかもしれないと思ってたが、ありがたいことだ」
酪農家さんたちは口々に私にお礼を言って頭を下げる。私は口にお肉が入ってたので、むぐむぐしながらコクコクと頷いた。
うん、感謝の気持ち大事。酪農家さんたちも街の人だから生け贄に関しては責任がないわけじゃないんだけど、漁師さんたちみたいに他人任せすぎる感じはないね。
ザムザさんから渡されたシチューを空にし、フランカさんからもらった焼き肉もペロリと平らげ、私は気合いを入れ直して立ち上がった。
「よーし、もうひと頑張りしよう! 牛さんのために! それで、終わったら焼き肉お替わりだ!」
「あはは、ルルちゃんって本当にお肉が大好きなんですね。エルフっぽくなくて面白い」
私、エルフから見ても変わったエルフなんだけど、人間から見ても面白いエルフ認定されました。
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