第20話 ひとつの石で3羽の鳥を狙おうとしたら
私たちは港町ゲルツをまず目指すことにした。
大きな港町だし、冒険者ギルドも大きい。お金を稼ぐのにも便利だし、情報もたくさん入ってくるだろうから、ってことだ。
歩くと丸1日では着かないっていうから「野宿かー、まあ平気だけど」と思ってたら、ゲルツとザドルガは物と人の流れが結構あるそうで、庶民でも乗れる馬車が出ていた。
……とはいえ、荷馬車の荷台に座らされるんだけどね。藁を詰めた麻袋がひとりにひとつ宛がわれて、クッションにしろと言うことらしい。
最初はその麻袋を背当てにしてたんだけど、すぐにお尻の下に敷き直した。
揺れが! 酷いんだもん! これ、ゲルツに着いた頃にはお尻が死んでるんじゃなかろうか……。
あっ、そうか、車輪がそもそも木だよ。衝撃を吸収する仕組みがなにも組み込まれてないんだ! おのれ「なんちゃって中世ヨーロッパ世界」め!
途中の休憩時間で、ちょっとスライムでも捕まえてお尻の下に敷きたいとか思ってしまった。
あれはなかなか弾力があるからね。死ぬと水と破けたビニール袋みたいになっちゃうから、生きたままじゃないとダメだけど。
……うん、生きたままクッションにされるスライムが哀れすぎてさすがに実行しなかったけど。
「歩いた方がマシだと思ってしまった……お金かかってるのに」
「どっちもどっちだな。歩いて時間かかる上に体力削られるか、少し早くて尻が痛くなるかってことだ」
荷馬車の乗客、ゲルツに着く頃には大体みんな無言で死んだ目になってた。
もちろん私もです。
「宿を取って休みたいのはやまやまだが、まずは冒険者ギルドに行くぞ。いい案件が出てたら早く押さえないとな」
「はーい」
お金稼ぐの大事だもんね。私もふたりと一緒に仕事して、ただのお荷物にならないように頑張らなきゃ。
最悪、お金になる作物をちょちょいっと森の外れで促成栽培して売りさばけば、いいお金になると思うけどね! 効果の高い薬草とか!
ゲルツは……うん、この世界の基準というか、今まで見た街の中ではダントツに大きいね。人も多いし、活気がある。それに、歩いてると少し潮の香りがするよ。
そういえば今世では海をまだ見てないんだよね。別に海に思い入れはないんだけど、そう考えると見てみたくなっちゃう!
海で魔物退治とかの依頼ないかな。私の魔法が火を噴くぜ!
冒険者ギルドはさすがにザドルガよりもずっと大きくて、貼ってある依頼も多い。
なんか、一際大きい紙に書かれてる依頼が一番上に貼ってあるけど……。
「森の王討伐だと?」
うわー、ザムザさん、凄いしかめっ面だなあ。フランカさんはそれほど嫌そうな顔もしないで、依頼書をじっくりと見ている。
「でも報酬はいいわよ。合同討伐になるらしいし」
「あいつの毛皮は剣がろくに通らねえから嫌なんだよ」
「安物使ってるからでしょ。いい加減に買い換えなさいよ」
ふむふむ、ザムザさんは前にも戦ったことがあるのかな?
私も見てみたけど、「ジーメ近郊にて森の王討伐 成功報酬15万ゾル 募集人数10名」と書いてあった。10人で討伐するって事は、強い魔物なんだろうな。
「森の王ってどんな魔物ですか?」
私がフランカさんに尋ねると、彼女は微妙な表情をした。
「魔物……じゃないのよ。稀に現れる、主とでも言うのかしら。ねえ、森の王って前に出たのは何年前だった?」
「15年前ですよ。当時は8人で向かって結構な怪我人が出た記録が残ってるので、今回は10人体制です」
フランカさんの問いかけに、ギルドの窓口の職員さんが答えてくれる。
「で、森の王ってなんなんですか?」
「あー、常識外れにでかいエルクだな。エルクって知ってるか? 鹿をうんとごつくして、角がなんだ、こう、手のひらみたいな……」
「エルク……ヘラジカ!? えーと、なんか毛がもっさりしてて、寒いところに住んでる奴ですか?」
「あら、さすがだわ。動物にも詳しいのね」
エルクかぁ。ヘラジカをヨーロッパではエルクって呼ぶって、前世の知識で覚えてたね。
食べたことないなあ。美味しいらしいんだけどね。
あ、いけないいけない。頬が緩んでしまった。ザムザさんとフランカさんが呆れた顔で私を見ている。
「……ルル、行くつもりね」
「もっちろんですよ! 私の魔法で、こう、バシュッバシュッと退治してやります!」
お肉も手に入りそうだし、報酬も手に入るし、住民への被害は抑えられるし、いいことずくめだね!
________
酪農の話まで行きませんでした! ごめんなさーい。
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