最愛の兄嫁と、最高のお兄ちゃん
市亀
僕が百合厨になった日(Side:謙一)
優しいところが良い、頭いいのがすごいと、女子にしては珍しく何度も謙一を褒めてくれた子だった。OKはもらえなくても、喜んでくれるんじゃないかと考えていた。
しかし彼女は、謙一に好きと言われた瞬間にその場を逃げ出して。ほどなくして、呆然と立ち尽くしていた謙一は大勢の同級生に取り囲まれた。
たくさん怒られた。たくさん殴られた。困惑と痛みの中、彼らの主張を必死に分かろうとして、たどり着いた答え。
どうやら僕は、女の子を好きになっちゃいけないらしい。女の子にとって、それはひどく気持ち悪いことらしい。
そしてあの子だって、僕を嫌う大多数の女子と同じ側だったらしい。
喪失感を抱えて、けどそれを表情に出すことなく、いつも通り家に帰った。今日の見隅家にも近所の
「じゃあ謙一、しっかり二人のお兄ちゃんしててね」
「うん、いってらっしゃい」
謙一に留守を任せて母は買い物に行く、これもいつものこと。
「ほら沙枝ちゃん、早く宿題やろ?」
「やだ、もっとお絵かきする」
「じゃあ沙枝、早く終わったらアニメ見せてあげるから」
今年から小学校の沙枝だが、勉強は嫌いらしい。謙一は妹をご褒美で釣る、自分が親にされたように。
「ねえ沙枝ちゃん、一緒にキュアメディック見ようよ~」
「う~ん……分かった、じゃあやる前に」
沙枝は光梨の頬に、ちゅっと唇をつける。顔を真っ赤にした光梨に、沙枝は「ひーちゃんも」と頬を差し出す。
「……謙くん、いい?」
「うん、お母さんたちには内緒にするから」
親友とはいえベタベタしすぎではと親たちは心配しているようだが、好きならどんどん表現すればいいと謙一は思う。
光梨は恥ずかしそうに沙枝の頬にキスし、ご満悦の沙枝はぎゅっと光梨を抱きしめる。
「沙枝ね、光梨のこと世界で一番好き!」
「わたしも……沙枝ちゃんのこと、世界で一番好き……」
毎日のように繰り返している親友の儀式が。好意を否定されたばかりの謙一には、特別に眩しく映ってしまった。
自分が誰に嫌われようと、誰への好きを拒まれようとも、この可愛い女の子たちがお互いを大好きでいれば良いと思えた。
この温かく美しい景色だけ、ずっと見ていたいと思った。
そのために。ずっと、しっかりした優しいお兄ちゃんでいようと思った。
それから、20年。
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