掴み取った真実、そして―― 14

「……あれ?」

 しかし、「Readme」のファイル内は、取扱説明書のPDFファイルが一つ入っているだけだった。中を開いても、よくあるコンパクトデジタルカメラの説明書きだ。

「おかしいな、絶対にこれだと思ったのに」

 興奮が急激にしぼんでいく。

(違ったか)

 因みに、「CLIPINF」の中は空だが、撮影日時、記録時間などが記録されるファイルだ。「DCIM」には撮影した画像が格納される。

「隠しファイルかな」

 俺はもう少し粘ってみる。

 探してみたが隠しファイルも見つからない。音声ファイルなら数秒のデータでも、それなりの重さになる。あるならば見つからないはずがない。

「どうかした?」

 紫子さんがパソコン画面を覗き込んできた。

「それがですね……」

 俺は「閃き」を説明した。外した推理を話すのは恥ずかしい。

「Readmeは、普通はないの?」

「俺が見たことがなかっただけで、あるんでしょうね。こういう説明書は通常、公式サイトからダウンロードするものなんです」

「ちょっと、つめて」

「わわっ」

 紫子さんが椅子に座ってきた。言ってくれたら椅子を譲るのに、壁際に追いやられて立つこともできず、尻が半分浮いた状態で、椅子をシェエアするかたちになってしまった。

 身体の右半分が完全に紫子さんと密着していた。柔らかくて温かくていい匂いがして、ドギマギする。

 紫子さんはPDFファイルを開いた。マウスのホイールを回して説明書をスクロールしていく。

「……っ!」

 紫子さんの瞳が見開かれた。なにか見つけたのだろうか。

 そのまま黙ってホイールを回し、食い入るように画面を見つめている。説明書の半分くらいまできたとき、紫子さんは俺を見上げた。びっくりしたような表情のままだ。

「ボヤオッ」

「はい」

「お手柄!」

「なにかありました?」

 俺も一緒に同じ画面を見ていたのだけど、気になるものはなかった。

「ここを見て」

「……h、ですね」

 文章の始めに、さりげなく「h」が配置されている。見逃しそうになるが、このアルファベットは文章と脈絡がなかった。他にも、「t」や「p」など、あまり不自然すぎないところにアルファベットが散らばっている。タイピングミスだろうか。いや、大手メーカーの説明書に、こんなミスはないだろう。

「ここまでのアルファベット、つなげてみて」

「えっと、h、t、もうひとつtがあって、p。そのあとはコロンですか、え、スラッシュ……」


 http://


 さらにアルファベットを拾っていく。

「これは、URLですね」

 URLとは、ホームページの場所を示す、ウェブ上の住所のようなものだ。

「入力してみる」

 紫子さんは、ブラウザーのアドレスバーにURLを打ち込んだ。

 サイトが表示される。

 そこは、オンラインストレージのサイトだった。インターネット上で、データを保管しているスペースだ。

「……これ」

 拡張子は、WMA。

 音声ファイルだ。

「あった……」

 瞬きを忘れたかのように、紫子さんは画面をみつめている。

「ボヤオ、あった」

「はい」

「あった!」

 紫子さんが抱きついてきた。

「あったよ、ボヤオ!」

「はい、やりましたね!」

 華奢な身体を抱き返すと、俺のシャツの胸の部分が、温かく濡れた。

 俺たちは興奮が冷めるまで、同じ言葉を繰り返していた。

 

 そして気持ちを落ち着けたあと。

 俺たちは覚悟を決めて、音声を流した――

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